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連れてこられたのは夏目が一人暮らしをしているらしい、古いアパートだった。
「ラブホじゃないんですね。」
「いちいち制服から着替えていくの面倒だろ。」
今更何をという感じで言われ、そういうものかと思う。
ラブホなんてところに行ったことはないのだが、確かに制服で行くのは無理だなと思う。入口で断られても困るし。
アパートの錆が浮く外階段を二人で上る。
カンカンという金属の音がやけに響いている気がした。
緊張しているのかもしれない。
そもそも人とセックスをしたことが無いのだ。
上手くごまかせるかという不安は勿論ある。
多分、夏目が楽しめるセックスを提供してやることは出来ないのだから。
だけど、どちらにしろ一回限りなのだろう。
大して楽しくないセックスを一回だけして、期待外れだと夏目が離れて行く。
それだけだ。
下卑た笑い顔で脅されたのは自分だが、夏目が写真をばらまくタイプにはどうしても思えないのだ。
ばらまくための誰かという程仲の良い人間がいることも知らないし、誰かを陥れるために労力をかける様な人間だとは思えない。
「入れよ。」
薄暗い室内は雑然としていて、玄関から見える一番奥にしかれたままの布団が妙に生々しく見えた。
のろのろとスニーカーを脱いで、それから薄暗い夏目の部屋に上がり込む。
「シャワー借りたいんだけど。」
「後にしろ。」
面倒くさそうに夏目に言われて、事前に体を清めることは諦める。
海音が香水(というと本人はフレグランス!と訂正するのだけれど)をいつも付けていたのを思い出す。
ああ、こういう時はせめて香水の匂いでいろんなものをかき消せてしまえればいいのにと思う。
おずおずと鞄を放って布団に腰を下ろすと、夏目が俺の肩を押す。
そのままあお向けに倒れ込む俺に、夏目が覆いかぶさる。
布団から、夏目の匂いがして、それだけで頭の芯がぼやけた様な気分になった。
* * *
碌でもない趣味があって良かったと思った。
キスはやめて欲しいという前に、口付けをされる。
案外普通のセックスをするのかと思っていた少し前の自分は馬鹿だ。
まあ、現在進行形で馬鹿なのだろうが。
おざなりに後ろを解されて突っ込まれる。
圧迫感で呻いたものの、さほど痛く無かったのは多分その碌でもない趣味の所為だろう。
ゲイという訳では無いと思う。確かに夏目の事を恋愛的な意味で好きではあったがそれまでに好きだった相手は女の子だったし、こっそりと見たエロ動画は男女のもので普通に抜けた。
だから、なんで後ろを使っての自慰にはまってしまったのか自分でもよく分からない。
とはいえ、そんなデカいものを入れたことは無い。
ギチギチに広がった感覚がするそこは明らかに抽挿出来る余裕なんて無いように思えた。
「キッツ……。」
呻くように夏目が言う。
恐らく自分が気持ち良くなりたいからなのだろう多めにたらされたローションがある分まだマシだ。
「男の中ってこんな狭いのか、普通。」
「入れた事ないから知らない、よ。」
言ってからしまったと思う。その位余裕はない。
ここで勘違いに気が付くと思ったが、俺が誰かに入れたことが無いと言う意味だとさらに勘違いを重ねたらしい夏目は舌打ちを一つしただけだった。
「めんどくせーな。動くぞ。」
いいとも悪いとも返事をする事はできなかった。
ただ、うめき声にもにた声を出し続けるしかない。
潰れたカエルの様なというのは言い得て妙だ。さすがにこの声は萎えることは分かるのでひたすら着たままのシャツの袖を噛んで耐える。
後背位なことも幸いして苦痛に歪んだ顔は見せなくても済みそうだ。
とてもじゃないけれど快楽を拾える様な状況じゃなかった。
だけど、繋がっているという事実とそれでも覆いかぶさった夏目の熱い息や、衣擦れの音、それだけで嬉しいと思ってしまうのだ。
初めて誰かとセックスというものをして、そこに愛なんてものは欠片も無い事は自分自身が一番わかっているけれど、それでも好きな人間とする事ができたことはラッキーだったのかもしれないと思う。
人付き合いが苦手な自分は多分一生恋人ができることは無いだろうし、だから、それでも幸せだ。そう自分に言い聞かせた。
* * *
夏目の低い唸り声の後、中に生暖かい感触がした。
ずるりと引き抜かれると腰を上げている事すらできず崩れ落ちる。
恐らくどこか傷付いているのだろうビリビリとした痛みがするが、怖くて触って確かめることはできそうにない。
「案外、普通に出来るもんだな。」
下着だけ付けて胡坐で座る夏目が言う。
とてもじゃないが今、まともに会話はできそうにない。
かといって無視をする訳にもいかず呻くように「そう。」とだけ返事をした。抑揚もへったくれもない息を吐いただけの様な話し方になった。
「ふうん。」
夏目が笑った。それは今日最初に見た下卑たものとは少しだけ違う気がしたけどやっぱりあんまり質は良さそうに見えなかった。
「なあ、次からも俺が呼んだときには来いな。」
最初何を言われているのか分からなかった。だって、どう考えてもつまらなかった筈だ。それとも、ただ突っ込めれば充分なのだろうか。
それであれば夏目の為に体を開く人間位俺じゃなくてもいそうなのに何を言っているか分からない。
「は?」
思わず出たのは訝し気なもので、その声を聞いた夏目は眉根を寄せる。
「断れる様な状況じゃねーだろ。」
「……まあ、そうだけど。」
あの写真が俺であればという注釈付きではあるけれど。
「別に他の男にだって股開いてるんだから、そんな変わんねーだろ。」
俺が他の人間としている訳じゃないから気にするな。そう自分に言い聞かせるが夏目の言葉と明らかに俺の事を馬鹿にしているであろう視線に地味に傷付く。
一回きり。そう思ったから付いてきたのだ。付いてきてしまったのだ。
声が上手く出ない。どうしたらいいのか分からない。
人違いだと叫んで理解してもらえるだろうか。じゃあ何故付いてきたのかと聞かれたらどうすればいいのだろう。
「そういう訳でこれからもよろしくな。」
ニヤリと笑った顔を見て、涙がこぼれそうになった。
「ラブホじゃないんですね。」
「いちいち制服から着替えていくの面倒だろ。」
今更何をという感じで言われ、そういうものかと思う。
ラブホなんてところに行ったことはないのだが、確かに制服で行くのは無理だなと思う。入口で断られても困るし。
アパートの錆が浮く外階段を二人で上る。
カンカンという金属の音がやけに響いている気がした。
緊張しているのかもしれない。
そもそも人とセックスをしたことが無いのだ。
上手くごまかせるかという不安は勿論ある。
多分、夏目が楽しめるセックスを提供してやることは出来ないのだから。
だけど、どちらにしろ一回限りなのだろう。
大して楽しくないセックスを一回だけして、期待外れだと夏目が離れて行く。
それだけだ。
下卑た笑い顔で脅されたのは自分だが、夏目が写真をばらまくタイプにはどうしても思えないのだ。
ばらまくための誰かという程仲の良い人間がいることも知らないし、誰かを陥れるために労力をかける様な人間だとは思えない。
「入れよ。」
薄暗い室内は雑然としていて、玄関から見える一番奥にしかれたままの布団が妙に生々しく見えた。
のろのろとスニーカーを脱いで、それから薄暗い夏目の部屋に上がり込む。
「シャワー借りたいんだけど。」
「後にしろ。」
面倒くさそうに夏目に言われて、事前に体を清めることは諦める。
海音が香水(というと本人はフレグランス!と訂正するのだけれど)をいつも付けていたのを思い出す。
ああ、こういう時はせめて香水の匂いでいろんなものをかき消せてしまえればいいのにと思う。
おずおずと鞄を放って布団に腰を下ろすと、夏目が俺の肩を押す。
そのままあお向けに倒れ込む俺に、夏目が覆いかぶさる。
布団から、夏目の匂いがして、それだけで頭の芯がぼやけた様な気分になった。
* * *
碌でもない趣味があって良かったと思った。
キスはやめて欲しいという前に、口付けをされる。
案外普通のセックスをするのかと思っていた少し前の自分は馬鹿だ。
まあ、現在進行形で馬鹿なのだろうが。
おざなりに後ろを解されて突っ込まれる。
圧迫感で呻いたものの、さほど痛く無かったのは多分その碌でもない趣味の所為だろう。
ゲイという訳では無いと思う。確かに夏目の事を恋愛的な意味で好きではあったがそれまでに好きだった相手は女の子だったし、こっそりと見たエロ動画は男女のもので普通に抜けた。
だから、なんで後ろを使っての自慰にはまってしまったのか自分でもよく分からない。
とはいえ、そんなデカいものを入れたことは無い。
ギチギチに広がった感覚がするそこは明らかに抽挿出来る余裕なんて無いように思えた。
「キッツ……。」
呻くように夏目が言う。
恐らく自分が気持ち良くなりたいからなのだろう多めにたらされたローションがある分まだマシだ。
「男の中ってこんな狭いのか、普通。」
「入れた事ないから知らない、よ。」
言ってからしまったと思う。その位余裕はない。
ここで勘違いに気が付くと思ったが、俺が誰かに入れたことが無いと言う意味だとさらに勘違いを重ねたらしい夏目は舌打ちを一つしただけだった。
「めんどくせーな。動くぞ。」
いいとも悪いとも返事をする事はできなかった。
ただ、うめき声にもにた声を出し続けるしかない。
潰れたカエルの様なというのは言い得て妙だ。さすがにこの声は萎えることは分かるのでひたすら着たままのシャツの袖を噛んで耐える。
後背位なことも幸いして苦痛に歪んだ顔は見せなくても済みそうだ。
とてもじゃないけれど快楽を拾える様な状況じゃなかった。
だけど、繋がっているという事実とそれでも覆いかぶさった夏目の熱い息や、衣擦れの音、それだけで嬉しいと思ってしまうのだ。
初めて誰かとセックスというものをして、そこに愛なんてものは欠片も無い事は自分自身が一番わかっているけれど、それでも好きな人間とする事ができたことはラッキーだったのかもしれないと思う。
人付き合いが苦手な自分は多分一生恋人ができることは無いだろうし、だから、それでも幸せだ。そう自分に言い聞かせた。
* * *
夏目の低い唸り声の後、中に生暖かい感触がした。
ずるりと引き抜かれると腰を上げている事すらできず崩れ落ちる。
恐らくどこか傷付いているのだろうビリビリとした痛みがするが、怖くて触って確かめることはできそうにない。
「案外、普通に出来るもんだな。」
下着だけ付けて胡坐で座る夏目が言う。
とてもじゃないが今、まともに会話はできそうにない。
かといって無視をする訳にもいかず呻くように「そう。」とだけ返事をした。抑揚もへったくれもない息を吐いただけの様な話し方になった。
「ふうん。」
夏目が笑った。それは今日最初に見た下卑たものとは少しだけ違う気がしたけどやっぱりあんまり質は良さそうに見えなかった。
「なあ、次からも俺が呼んだときには来いな。」
最初何を言われているのか分からなかった。だって、どう考えてもつまらなかった筈だ。それとも、ただ突っ込めれば充分なのだろうか。
それであれば夏目の為に体を開く人間位俺じゃなくてもいそうなのに何を言っているか分からない。
「は?」
思わず出たのは訝し気なもので、その声を聞いた夏目は眉根を寄せる。
「断れる様な状況じゃねーだろ。」
「……まあ、そうだけど。」
あの写真が俺であればという注釈付きではあるけれど。
「別に他の男にだって股開いてるんだから、そんな変わんねーだろ。」
俺が他の人間としている訳じゃないから気にするな。そう自分に言い聞かせるが夏目の言葉と明らかに俺の事を馬鹿にしているであろう視線に地味に傷付く。
一回きり。そう思ったから付いてきたのだ。付いてきてしまったのだ。
声が上手く出ない。どうしたらいいのか分からない。
人違いだと叫んで理解してもらえるだろうか。じゃあ何故付いてきたのかと聞かれたらどうすればいいのだろう。
「そういう訳でこれからもよろしくな。」
ニヤリと笑った顔を見て、涙がこぼれそうになった。
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