それを恋とは呼ばないから

渡辺 佐倉

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「マグカップを買おうと思うんだ」

宗吾さんは言う。
あの家に食器が不足しているようには見えなかった。

「那月の分、好きなのを選んで欲しい」

そう言われてマグカップの並ぶ棚を眺める。

普段、嗜好品を飲む習慣もない。
目の前のカップが紅茶用なのか、コーヒー用なのか、それともそれ以外のためのものなのかもよく分からない。

ちらりと宗吾さんを見る。
彼は僕に選んで欲しいらしい。

もう一度棚に目を戻す。

茶色のマグカップが目に入った。
先ほど二人で食べたチョコレートみたいな茶色。

他のカップより滑らかで、さらさらとした触り心地のそれを手に取ると宗吾さんが「それがいい?」と聞く。
これがいいのかは自分でもよく分からない。

だけど、他の何か欲しいものも無い。

宗吾さんは笑顔を浮かべて、そのカップと同じ形の黒いカップを手に取る。

「こっちは、俺のだ」

そう言われて頷く。

結局二つカップを買って、それから、靴を一足。宗吾さんの物は何も買っていない様に見える。

「あの……」

どこか本当は寄るべきところがあったんじゃ? と思い声をかける。

「疲れてしまったかい?」

宗吾さんはただやさしく返すだけで、上手く聞けない。
彼の運転する車で彼の家に帰る。

よく見える様になった、彼の家は、やはり彼が資産家であるというのを裏付けているように見える。
これから、僕はここでどうなるのか。

ここの洗練された調度品とも僕が着ている上等な服とも、宗吾さんという男にも僕は不釣り合いなんじゃないかと思った。


「せっかくカップを買ってきたんだ。ココアでも入れよう」

宗吾さんはそう言った。
カップを二つ。両方にココアが入っている。

ココアはチョコレートと似た味がする。
ふわふわと温かくて甘い。

温かくて、眠くなってしまう。
あまり出かけたことがなかったからか、それとも生活が変わったからか、疲れていたのかもしれない。

うつら、うつらしていると、宗吾さんが僕の髪の毛を撫でる。

気持ちがいい。髪の毛を撫でられるのは好きだ。

唯一の僕の好きな物。

今まで何もなかった僕の、大切なものなのかもしれない。
ちゃんと考えなきゃいけない気もするのに、眠たくて目を閉じてしまう。

「眠かったら、寝てしまっていいから」

宗吾さんに言われ、ソファーの上で目を閉じてしまう。
彼が、吐息で笑った気配がしたけれど眠くて体を動かせなかった。


翌日目を覚ますとベッドの上で、宗吾さんが運んでくれたことに気が付く。

これじゃあ、本当に愛玩動物だ。
そう思ってまだ寝ている宗吾さんを見る。

ベッドサイドに置いてあった新しい眼鏡越しに見る宗吾さんは寝ていても端正な顔立ちをしていて、淫魔を必要としているようには見えない。

僕でなくともいくらでも相手は見つけられそうに見える。

意味が分からない。
分からない事は、少し怖い。

だけど何から知っていけばいいのかも僕にはよく分からなかった。
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