それを恋とは呼ばないから

渡辺 佐倉

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「あー、もうっ!!
那月が困ってるじゃないか!」

宗吾さんが言う。
困ってる。ちょっと違うけれど、あまりに様子が違う宗吾さんに戸惑っているのは確かだ。

「うちの人間は、まあ人間ではあるんだけど少しだけ変わってるんだよ」

宗吾さんは何かを諦めたみたいに肩の力を抜いて、それから僕に向かってそう言った。

「何か一つのものに酷く執着して、それが無いとまともに生きていけなくなるんだ」

困った様な顔をしている宗吾さんの言っていることの意味が僕にはよく分からない。

「河原の石だったり、茶碗だったり、人によって全く違うんだけど、ある日それを見つけてしまうとそれ無しでは生きていけなくなる質《たち》なんだ」

勿論執着する対象には生き物も含まれてる。
宗吾さんはきっぱりと言い切った後、こちらを見た。

「俺にはそんなものずっとなかったから、これから一生そんなものは存在せず普通に生きていけると思ってたんだけどね」

ごめんねえ。

間延びした声で宗吾さんは僕に謝った。
何を謝られているのかよく分からなかった。

「俺の父さんは、金魚鉢を大切にしていて部屋でずっと眺めていたし、母さんは、夜店に売ってそうな指輪を肌身離さず持っていたよ」

何か一つ見つけてしまうと、それを無くさない様にただひたすらに自分のものにしてしまう。
変だなとは思っていたし、今だって思う。

思い出があるとかそういうんじゃなくて、同じものを買い直したりして代替できない執着。
自分の父母も親戚もみんなそういうものを持っている。
他人には理解してもらえないこだわりがあるため、見合い結婚だった父と母は多分お互いよりも、宝物を大切にしていた。

「君を一目見たとき、ああ、自分が執着すべきものはこれだと思ったんだよ」

だから、金で解決するのが一番早かったのでそうした。

きっぱりと宗吾さんは僕にそう言った。

「……俺、今日のところはこれで帰るわ」

ため息を付きながらハウスキーパーさんは言った。

「また来るから。
……それまでにもうちょっとお互いの事ちゃんと話合えよ」

ハウスキーパーさんは部屋を出る瞬間宗吾さんを見た。

「愛と執着は全く別物だな」

ハウスキーパーさんは囁く様にそう言ってすぐに部屋を出てしまった。
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