英雄の条件

渡辺 佐倉

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花見3

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リズムは体が覚えていた。

手の流れの優雅さこそ記憶の母に足りないが、それでもレオニードは一曲踊りきった。

「さすが、姫さん。綺麗なもんやなあ。」

晃が残念そうに言った。

「折角だから、なんか話もしたかったんやけど、見つかってしもたみたいや。」

ちらりと晃が視線を逸らす。
そこにいたのは劉祜だった。使用人でもなく、部下の軍人でもなくそこに劉祜がいる事に驚いた。

「我が妃の美しい姿は我がものの筈だが?」

美しいという言葉にレオニードは吹き出しそうになる。
そんな事はまるで思ってないだろうにという気持ちと、踊りを見られていたのかという妙な気恥しさとがある。

姫と呼ばれることが嫌味なのは分かっている。
自国の王族特有のはかなげな美貌が自分に無いことも、レオニードは良く知っていた。

それなのにしごくまじめな顔で、美しき妃として扱う劉祜が信じられなかったのだ。

そんなレオニードをまるで無視するかのように、ここにいるすべての人間を見渡す。
その眼光は鋭く、暴虐王と言う名にふさわしいのかもしれないと一瞬思ってしまう位ゾクリとした。

戦闘というものに慣れているレオニードでさえそうなのだ。
ユーリィに至っては青白い顔をして、なんとか悲鳴を押さえている。

「そんなに、見つめんとてや。」

緊張にも似た雰囲気をぶち壊すのは、晃だ。
親し気に言う、晃を一瞥すると「戻るぞ。」とだけ劉祜は晃に言う。

まるでそれを当たり前の様に許容して、「はいはい。」と返事をする晃は劉祜と相当に親しいのだろう。

そんな事が分かる気楽さで晃は返事をして、その返事を待たず踵を返す劉祜の後を追いかけていた。

「またな、姫さん。」

結局最後まで姫呼びを直さず晃は軽薄にひらひらと手を振ってその場を立ち去る。

「あの方は……。」

半ば確信があったもののレオニードは奉公人にたずねた。

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