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続・色は思案の外
終話
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「あっ! あっ! あっ、いっ、ンうっ、あっ!」
「はっ、く……んっ、はっ」
ソファで三回イった後、樹と繋がったまま寝室に連れていかれた。そこからはもう、何度イかされ、何度俺の中で樹がイったのか分からない。もはや快楽は拷問に近くなっていて苦しいのに、それでも離れたいと思えない。止めて欲しいとは思えなかった。
今まで毎日のように繋がってきたのに、こんなにも嬉しくて、こんなにも切なくて、こんなにも胸がいっぱいになるセックスは初めてだった。
獣のような体制で貫かれ、奥深くまで浸食される。目尻から、生理的なものでない涙が零れおちた。
「裕太くん……?」
敏感に俺の様子を察知した樹が、激しかった動きを止めた。
「どうしたの、痛かった? やっぱり、俺とするの……もうイヤになった?」
「ばっ……ちが……」
シーツの上で絡み合う指に、ぎゅっと力を籠める。
「幸せだなって……思って」
振り向いた先で、美麗な男が驚いたようにぱちぱちと瞬きをする。
「やっぱり俺は、お前がこの世で一番好きだなって……お前に抱いてもらえて、俺は幸せだよ、樹」
樹がひゅっと息を呑んだ。少しだけ黙り込んだかと思うと、後ろから俺の首筋に顔を埋め込んだ。
「あぁあっ!」
そのまま激しく腰をスライドさせ、奥へと打ち込む。
「あっ! あぁぁああっ、やっ、いつき! あっ! ンあっ!」
繋がったままぐるりと躰の向きを変えさせられ、対面した樹の顔は。
「ははっ、顔、真っ赤……」
綺麗な瞳に膜を張り、長いまつ毛に雫をつけて。暗闇の中、零れ落ちるそれはまるで星屑みたいに輝いた。
「裕太くん、好き、大好き、死ぬほど愛してる。いつか俺を嫌いになっても……絶対に、離してなんてあげないからっ」
「あっ、あっ! あぁあぁっ!」
そこからはもう、何も言葉を紡ぐことはできなくなった。
◇
「ねぇ、アンタ裕太くん……でしょ?」
日曜の昼間に買い物に出かけた先で、見知った顔に出くわした。
「ゲン……さん?」
あの日から一週間ほど経っただろうか、なんとも気まずい再会だった。スーパーの入口、ゲンはすでに買い物が終わったのかビニール袋を手にさげている。
「あの……あの後は大丈夫でした? マキさんとか……」
「ああ、気にしないで。アレはこっちが悪かったんだから。アンタにも嫌な思いさせたわよね……」
ふたりの間で、妙な沈黙が流れた。
「この後少し時間ある?」
「え?」
「そこの喫茶店で、少し話さない? 話したいことがあったのよ」
見た目の厳つさに反して、肩を縮めもじもじするゲンに毒気を抜かれた。
「いいですよ。直ぐに用事済むんで、先に入っててください」
必要な物だけ買うと、急いで喫茶店に向かった。
「悪かったわね、出合い頭に急に誘って」
「いや、俺もあれからずっと気になってたんで、会えてよかったです」
ゲンは俺の顔を見ると、深く深く溜め息をついた。
「あの日は……本当に悪かったわ。いっくんの恋人だって聞いて、ちょっとちょっかいかけて意地悪するくらいの、軽い気持ちだったのよ。マキも、嫉妬に狂ってやりすぎて……」
「いや、それはもういいんですけど」
実際、やり過ぎたのは樹の方なのだ。
「いいえ、良くないのよ。……いっくんはね、昔から一度も恋人なんて作ったことがなかったの」
「一度も……」
「そうよ、一度も。うちのお店に来るようになってもう十年近く経つけど、恋人にする人はただ一人だけだからって。名前を呼ばせるのもその人だけだから、他の人はあだ名で呼ぶように言ってたの」
「え、名前?」
「そう、だから貴方が『樹』って呼んだ時に、どれだけいっくんにとって貴方が大切な子なのか漸く気付いたの……手遅れだったけど」
ゲンが、ストローでアイスコーヒーをぐるりと回す。カラン、と氷が音をたてた。
「良くも悪くも、感情の分からない子だったの。だからこの間のいっくんの様子は、あの場にいた誰もが驚いたはずよ」
「あれは……」
「アンタもビビったでしょう。……大丈夫なの? あの子のアンタへの想いは、もう愛情とかそういうものだけじゃ括れない域にいるわよ」
それは、俺も感じていたものだった。樹の俺への感情は、もはや執念に近い。
「驚いたけど、不思議と幻滅しなかったんです。目の前で、あんなことがあったのに」
無表情で、マキを殴り血濡れになる樹の姿は異常だった。それなのに、俺はその姿に恐怖を覚えたりしなかった。どこかで、安堵すらしていたかもしれない。
樹は、俺に執着している。何度も躰を重ねた相手にも、俺のことになるとこんなにも酷いことができるのだと……。
「ああ、俺は『マキ』よりも上なんだって、優越すら感じてたのかも」
ゲンは、黙って俺を見ていた。
「大体、樹を嫌いになるなら最初の時点でなってるんですよ」
「最初?」
「俺が樹と付き合うことになったのは、樹に寝込みを襲われて、レイプされたから」
「えっ!?」
「アイツは俺を忘れるためにやったって言ったけど、それにしたって酷いでしょう。普通はそこで、友人関係だって終わってるんですよ」
だけど俺たちは終わらなかった。それどころか、新しい関係性へと歩みを進めた。
「俺、多分樹に見張られてるんです」
「え、なに……?」
「いつからなのか、今ではもう覚えてないけど。付き合ってからは、確実に俺の居場所を把握してるっぽいんですよ、樹。いつもドンピシャで俺の居場所に迎えにくるから、これはもう偶然とかそんなじゃないよなって。この間も、教えてないはずなのに店に現れたでしょう」
「やだ、ちょっとそれって……」
「樹の奴、多分ここにもそのうち来ますよ」
「ねぇ、アンタそれ……」
──コンコン
ゲンが何か言おうとしたその時、俺たちの座る席のガラス窓が叩かれた。
「ほら、来た」
ガラスの向こうには、冷たい目をした樹が立っている。ゲンが思わずヒッ、と声を漏らした。
「俺のスマホかなんかに、なんか仕込まれてるんだと思うけど。でも俺は、それでいいんです、アイツがそれで安心するなら」
ゲンは首を何度も縦に振った。
「アンタがいいなら、それでいいわ。……多分、あの子の想いの重さを許容できるのは、アンタしかいないんでしょうね」
「そうだといいけど」
俺は飲みかけだったアイスティーを全部一気に飲み干す。
「お店のこと、本当にすみませんでした。今後は関わらないよう気を付けます」
「いいの、アタシもあの子たちにはよく言っておくから……ごめんなさいね」
ゲンが注文書に手を伸ばすよりも先に、俺がそれを取った。
「お詫びに、ここは俺が」
それだけ言って、レジに向かう。
他人から見たら、きっと異常な関係なのかもしれない。でも俺たちの間では、これが普通になってしまった。
見張られたり、縛りつけられたりすることよりも、もっとずっと恐ろしいことは……お互いの距離が離れてしまうことだと。そう、知ってしまったから。
「おい、なんでお前ここにいんだよ」
「帰ってくるのが遅いから、心配になって探しに来たんだ」
「じゃあ帰るぞ」
「裕太くん」
「偶然会っただけ、もう二度と会わないって約束してきたとこ」
隣を歩く樹が俺の手を握った。人通りの多い、真昼間の道の真ん中。誰に見られているか分からないそんな場所で、俺はその手をぎゅっと握り返した。
樹にも、ちゃんと分からせないといけない。
この先なにが起きようとも、誰に邪魔をされようとも。この手を絶対に離す気がないのは……決してお前だけじゃあ、ないんだと言うことを。
END
「はっ、く……んっ、はっ」
ソファで三回イった後、樹と繋がったまま寝室に連れていかれた。そこからはもう、何度イかされ、何度俺の中で樹がイったのか分からない。もはや快楽は拷問に近くなっていて苦しいのに、それでも離れたいと思えない。止めて欲しいとは思えなかった。
今まで毎日のように繋がってきたのに、こんなにも嬉しくて、こんなにも切なくて、こんなにも胸がいっぱいになるセックスは初めてだった。
獣のような体制で貫かれ、奥深くまで浸食される。目尻から、生理的なものでない涙が零れおちた。
「裕太くん……?」
敏感に俺の様子を察知した樹が、激しかった動きを止めた。
「どうしたの、痛かった? やっぱり、俺とするの……もうイヤになった?」
「ばっ……ちが……」
シーツの上で絡み合う指に、ぎゅっと力を籠める。
「幸せだなって……思って」
振り向いた先で、美麗な男が驚いたようにぱちぱちと瞬きをする。
「やっぱり俺は、お前がこの世で一番好きだなって……お前に抱いてもらえて、俺は幸せだよ、樹」
樹がひゅっと息を呑んだ。少しだけ黙り込んだかと思うと、後ろから俺の首筋に顔を埋め込んだ。
「あぁあっ!」
そのまま激しく腰をスライドさせ、奥へと打ち込む。
「あっ! あぁぁああっ、やっ、いつき! あっ! ンあっ!」
繋がったままぐるりと躰の向きを変えさせられ、対面した樹の顔は。
「ははっ、顔、真っ赤……」
綺麗な瞳に膜を張り、長いまつ毛に雫をつけて。暗闇の中、零れ落ちるそれはまるで星屑みたいに輝いた。
「裕太くん、好き、大好き、死ぬほど愛してる。いつか俺を嫌いになっても……絶対に、離してなんてあげないからっ」
「あっ、あっ! あぁあぁっ!」
そこからはもう、何も言葉を紡ぐことはできなくなった。
◇
「ねぇ、アンタ裕太くん……でしょ?」
日曜の昼間に買い物に出かけた先で、見知った顔に出くわした。
「ゲン……さん?」
あの日から一週間ほど経っただろうか、なんとも気まずい再会だった。スーパーの入口、ゲンはすでに買い物が終わったのかビニール袋を手にさげている。
「あの……あの後は大丈夫でした? マキさんとか……」
「ああ、気にしないで。アレはこっちが悪かったんだから。アンタにも嫌な思いさせたわよね……」
ふたりの間で、妙な沈黙が流れた。
「この後少し時間ある?」
「え?」
「そこの喫茶店で、少し話さない? 話したいことがあったのよ」
見た目の厳つさに反して、肩を縮めもじもじするゲンに毒気を抜かれた。
「いいですよ。直ぐに用事済むんで、先に入っててください」
必要な物だけ買うと、急いで喫茶店に向かった。
「悪かったわね、出合い頭に急に誘って」
「いや、俺もあれからずっと気になってたんで、会えてよかったです」
ゲンは俺の顔を見ると、深く深く溜め息をついた。
「あの日は……本当に悪かったわ。いっくんの恋人だって聞いて、ちょっとちょっかいかけて意地悪するくらいの、軽い気持ちだったのよ。マキも、嫉妬に狂ってやりすぎて……」
「いや、それはもういいんですけど」
実際、やり過ぎたのは樹の方なのだ。
「いいえ、良くないのよ。……いっくんはね、昔から一度も恋人なんて作ったことがなかったの」
「一度も……」
「そうよ、一度も。うちのお店に来るようになってもう十年近く経つけど、恋人にする人はただ一人だけだからって。名前を呼ばせるのもその人だけだから、他の人はあだ名で呼ぶように言ってたの」
「え、名前?」
「そう、だから貴方が『樹』って呼んだ時に、どれだけいっくんにとって貴方が大切な子なのか漸く気付いたの……手遅れだったけど」
ゲンが、ストローでアイスコーヒーをぐるりと回す。カラン、と氷が音をたてた。
「良くも悪くも、感情の分からない子だったの。だからこの間のいっくんの様子は、あの場にいた誰もが驚いたはずよ」
「あれは……」
「アンタもビビったでしょう。……大丈夫なの? あの子のアンタへの想いは、もう愛情とかそういうものだけじゃ括れない域にいるわよ」
それは、俺も感じていたものだった。樹の俺への感情は、もはや執念に近い。
「驚いたけど、不思議と幻滅しなかったんです。目の前で、あんなことがあったのに」
無表情で、マキを殴り血濡れになる樹の姿は異常だった。それなのに、俺はその姿に恐怖を覚えたりしなかった。どこかで、安堵すらしていたかもしれない。
樹は、俺に執着している。何度も躰を重ねた相手にも、俺のことになるとこんなにも酷いことができるのだと……。
「ああ、俺は『マキ』よりも上なんだって、優越すら感じてたのかも」
ゲンは、黙って俺を見ていた。
「大体、樹を嫌いになるなら最初の時点でなってるんですよ」
「最初?」
「俺が樹と付き合うことになったのは、樹に寝込みを襲われて、レイプされたから」
「えっ!?」
「アイツは俺を忘れるためにやったって言ったけど、それにしたって酷いでしょう。普通はそこで、友人関係だって終わってるんですよ」
だけど俺たちは終わらなかった。それどころか、新しい関係性へと歩みを進めた。
「俺、多分樹に見張られてるんです」
「え、なに……?」
「いつからなのか、今ではもう覚えてないけど。付き合ってからは、確実に俺の居場所を把握してるっぽいんですよ、樹。いつもドンピシャで俺の居場所に迎えにくるから、これはもう偶然とかそんなじゃないよなって。この間も、教えてないはずなのに店に現れたでしょう」
「やだ、ちょっとそれって……」
「樹の奴、多分ここにもそのうち来ますよ」
「ねぇ、アンタそれ……」
──コンコン
ゲンが何か言おうとしたその時、俺たちの座る席のガラス窓が叩かれた。
「ほら、来た」
ガラスの向こうには、冷たい目をした樹が立っている。ゲンが思わずヒッ、と声を漏らした。
「俺のスマホかなんかに、なんか仕込まれてるんだと思うけど。でも俺は、それでいいんです、アイツがそれで安心するなら」
ゲンは首を何度も縦に振った。
「アンタがいいなら、それでいいわ。……多分、あの子の想いの重さを許容できるのは、アンタしかいないんでしょうね」
「そうだといいけど」
俺は飲みかけだったアイスティーを全部一気に飲み干す。
「お店のこと、本当にすみませんでした。今後は関わらないよう気を付けます」
「いいの、アタシもあの子たちにはよく言っておくから……ごめんなさいね」
ゲンが注文書に手を伸ばすよりも先に、俺がそれを取った。
「お詫びに、ここは俺が」
それだけ言って、レジに向かう。
他人から見たら、きっと異常な関係なのかもしれない。でも俺たちの間では、これが普通になってしまった。
見張られたり、縛りつけられたりすることよりも、もっとずっと恐ろしいことは……お互いの距離が離れてしまうことだと。そう、知ってしまったから。
「おい、なんでお前ここにいんだよ」
「帰ってくるのが遅いから、心配になって探しに来たんだ」
「じゃあ帰るぞ」
「裕太くん」
「偶然会っただけ、もう二度と会わないって約束してきたとこ」
隣を歩く樹が俺の手を握った。人通りの多い、真昼間の道の真ん中。誰に見られているか分からないそんな場所で、俺はその手をぎゅっと握り返した。
樹にも、ちゃんと分からせないといけない。
この先なにが起きようとも、誰に邪魔をされようとも。この手を絶対に離す気がないのは……決してお前だけじゃあ、ないんだと言うことを。
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