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壱、

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…え?これが見えないの?ッてんで、圧倒的リアリティーでもって顕現する母親の周りをぐるぐる、俺は、飛んで跳ねてまわり、一応、自己満足をして、自信満々にそのことをおばさんに問い質すのだけれども、我が眼を疑われるのだけの体たらく、俺は果たして幻視者であることを自覚させられる。(ご自身の影、ご唱和下さい!)突然の訪問の理由は、「…あれ?荷物、届いてない?」家のなかを入念に調べてみると、俺の寝室の片隅にクロネコヤマトのクラフト袋が無造作に置いて在って、やっぱり非実在性の母親ではなく、絶対に実在性の母親であることを、俺は改めて自覚し、覚醒する。何故なら、荷物の移動という、物理的な行動を伴う不可逆性の****が実際に作用しているのだから。それはさておき、そのまんまの勢いで、クロネコヤマトのクラフト袋をかっさばき、K.A.S.S.A.B.A.K.I.なかからクッソ ダッサいトレーニングシューズを取り出し、それを玄関でおもむろに履いて親戚一同みんなで繰り出し、神社仏閣風 公園の喧騒のなかになだれ込むのだけれども、そこに母親の姿はない。荷物を勝手に送りつけといて、それがトリガーと言わんばかり、我が家の扉を抉じ開けんばかりに、その荷物が到着した当日を見計らって突然の電撃訪問とは、是、如何に!?事前連絡、予め前もってちゃんとこっちに来ることを俺に伝えて欲しい、そうでないと、こっちにも準備ッてもんがあるんだから!と乞食同然の分際で、俺は一丁前にそんなことをほざく。しかし、私は 私は好奇心の強い女を支持する。(by 寺山修司...)その後、神社なのか?仏閣なのか?果たして、公園なのか?判然としないのだけれども、なにかのイベントの最中に違和感なくまぎれ込み、その場所で、今、履いているこのクッソダッサいトレーニングシューズは、これは、習い事の先生(女教師)からプレゼントされたものであり、その先生はくれぐれも俺によろしく!と、そう言ってたよ?おばさんから伝え聴く。まぁ、そりゃ、そうだよ。こっちも勝手にプレゼントしたんだから、おそらくたぶん、そのお返しだよ!…それに、言っとくけど、あのさァ?あくまでも、おじさんが勝手に、靴を探しているとその女の先生が言ったら頼まれてもいないのにいきなりプレゼントしたんだからね?本当は、俺、一切 関係ないんだからね?と、まったく情愛関係にないことを、あたかも弁明するかのように、そして、被害者ヅラをしてひとりわめく。それにしても、ラヴァーソール以外ここ十年来、靴という靴を履いていないから、そのフォルムの柔らかみも去ることながら、履き心地の違いというか、ラヴァーソールはラヴァーソールで革靴だからめちゃめちゃかたい、馴れれば馴れればで、あれはあれでいいのだけれども、このトレーニングシューズは、本当に歩きやすく、まさにトレーニングのためのシューズであることを実感しながら。…それで、本当に、今日、時間ないの?うん。まだいろいろまわらなければならないの!なんッてんで、無碍にでもないのだけれども、俺はおばさんに誘いを断られて、N.A.N.D.A.K.A. こころなしかさみしい思い。もしかしたら、こんなことをわざわざまえもって話すほどのことでもないかもな?一瞬だけ躊躇って、…それじゃァ、この一年でどんなことを、どのようにして、こなしてやって来たか?詳しく話そうと思ったのだけれども、それはまた今度の機会だね?じゃ!と、別れを切り出し、そのまま別れようとするのだけれども、ふと、おばさんの旦那であるおじさんに眼をやると、なんか、青い眼をしたブロンドギャル、留学生かなんかか?作業服のようなものを着た若い女とイチャコラしている。それを見てもおばさんはなんら咎めることもなく、平然と、日常の風景の一部のように無表情で眺めていて、それはあたかも嫁公認の浮気相手、妾か、第二夫人かのような存在にも思われ、俺の親戚一同はいつの間にか異様な集団と化していた。そして、…お前、一浪、二浪、している 浪々の身みたいなもんなんだからそんな予定がいちいちあるような風なこと言うもんじゃないよ?と、そんな、ろくでもないおじさんから嗜められるも、…そんなことないよ!と、強がりを言って、意地を張り、そして、そのまんまの勢いで駆け出し、横断歩道がすぐ近くにあるのにもかかわらず、また、歩行者は横断禁止の標識がすぐ眼の前にあるのにもかかわらず、国道をおもいっきり突ッ切り、交通安全運動を絶賛開催中の交通誘導員のおっさんの、…そこ、危ないよ!というような声を (世の中を何にたとへむ)秋の田をほのかに照らす宵の稲妻 のようにしてかすか遠くに聴きながら、一抹のさみしさを胸に抱いて、俺は、その場から立ち去るのだった...
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