ゲイに好かれた犬獣人の俺はこの夏を無事に過ごせるだろうか

nayuki

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夏休み初日の早朝、俺は一人先に学食へ来ていた。
学食にはまだ人が片手で数えられるほどしかいない。
そんな静まった空間で、俺は朝食を食べるでもなく、備え付けのテレビをぼーっと見つめながら考え事をしていた。

「はぁ……」

昨日は散々だった。
同性の後輩と親友に告白されるなんて。
女子とですら恋愛経験がない俺にとっていきなり同性から告られても理解のしようがない。
結局、あれから部屋を出ていった瑠唯人は朝になっても戻って来なかった。
おそらく他の人の部屋に泊まったのだろうが、こっちは一人きりになったせいで色々考え込んでしまってほとんど眠れなかった。

「よう亮太」

急に声を掛けられ驚いて振り替えると、そこにいたのは狼獣人の須野先輩だった。
右手には、給湯室で作ってきたであろうカップラーメンを持っている。

「あっ須野先輩、おはようございます。」

「おはよ。それよりなにボーっとしてたんだ? 賢者タイムか?」

「ちっ、違いますよ!!」

「ははっ、お前はそんなことしなそうだもんな」

「もうー......それより先輩、朝からカップラーメンって重くないですか?」

「ん? まあいいじゃねーか、そんな気分なんだよ。」

「それなら、別になんとも言いませんけど……」

先輩の健康のために、と言おうとしたがどうせ反論されそうだからやめておいた。

「それより、こんな朝っぱらから一人で何してたんだ?」

先輩は俺の隣に座ってカップラーメンをすすり始めた。
静かな食堂に、「ズズッ」という音だけが響き渡る。

「ちょっと考え事してて……」

「ふーん。何を?」

「ええっと……」

男二人に告白された……なんて言ってもどうせバカにされるだけだろう。
しかし、勘の良い先輩をごまかせるような宛もなく、言葉に詰まってしまった。

「どうせあれだろ。冬馬と瑠唯人に告られた事だろ?」

「えっ!?」

驚きで目を丸くさせた俺に、先輩はニヤニヤという視線を向けている。
いくら勘の鋭い先輩といえど、昨日の出来事を当てられる訳がない。
もしかして相当顔に出やすいのか、俺。

「な、なんで知ってるんすか!?」

「なんでって、寮中で噂になってんだろうが」

「ええっ!?!?」

さっきよりも大きい声をあげた俺に、先輩だけでなく学食中の人が肩をビクンと震わせた。少数ではあるものの、確かに冷たい視線を送られている気がする。
……そんなことより、なんで昨日の夜の事がもう寮中に広まってるんだろうか。
もしかして、誰かに見られてたとか……?

「ブッ!!」

なぜか、急に途端に吹き出した先輩が腹を抱えてゲラゲラと笑い始めた。
その笑い声で、また学食中の人が驚いてこちらを振り返って見ている。
その中、俺は半ば涙目で哄笑する先輩の意図が分からず訝しげな顔で見つめていた。

「うそうそ、冗談に決まってんだろw」

「えっ、冗談......?」

「あいつらが告ったことは他に俺しかしらねえよ」

そうだ、先輩はこういう人だった。
いつも勘の鈍い俺に嘘をついてその反応を楽しんでいるのだ。
簡単に騙されてしまい悔しくなった俺は、頬を膨らませ、出来る限り不服そうな顔で先輩を睨みつけた。

「それにしても、なんで先輩はこのこと知ってるんです? まさか覗き見してたんですか......?」

もし仮に、冬馬にお互い全裸の状態で告られていたところを見られていたとしたら......は、恥ずかしすぎる。

「バカ、そんな外道なことするかよ」

「じゃあなんで......」

「瑠唯人に聞いたんだ」

瑠唯人に? そういえば昨日の夜先輩は瑠唯人を部屋に呼んでいた。
そして、先輩の部屋から帰ってきたときに告白されたのだ。
もしかしたら、その時瑠唯人は先輩に言っていたのだろうか。

「最近瑠唯人の様子がおかしかったから昨日、どうしたんだって聞いたんだよ。そしたら、お前のことが好きだけどどうやって気持ちを伝えればいいか悩んでるって」

確かに瑠唯人はあまり感情を表に出さないタイプだ。
だから瑠唯人が俺の事を好いてるなんて今まで思いもしなかった。

「だから言ってやったんだ、難しく考えずに自分の気持ち伝えてこいって」

「でも何で俺なんかを……」

「何でお前を好きになったのかって? それはあいつにしか分かんねぇけど、自分でも気付いてない魅力があるんじゃないか?」

自分でも気付いてない魅力……? 別に男に好かれるような魅力あるとは到底思えないけど。
そんな見当のつかないことを考えていると、先輩の目線が俺の後ろに向いたことに気がついた。
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