僕の想い。

nayuki

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シューズのこすれる音、男臭い汗の匂い。
リズムを刻むように鳴り響く打球音が織り混ざり、そのどの場面を切り取っても青春の一面として絵になるこの部活の風景。
ここ、月丘高校男子バドミントン部は県内屈指の強豪校で、優勝こそないものの、全国大会にもよく出場している学校だ。
勿論練習は厳しいし、初心者が入ってくることはほとんどないためレギュラー争いは凄まじい。

そんなバドミントン部で、部員の忙しなく揺れる尻尾をつい目で追っていた僕は次の休憩に向けて麦茶の用意を再開した。
沸いたヤカンに氷をどっさり入れて冷たくしておいた麦茶を人数分の紙コップに注いでいく。
この氷も水の氷だと溶けて薄くなるから、お茶を凍らせて作った氷を使っている。
ちょっとした先輩譲りの知恵だ。

僕の役目は選手として練習に励むことではなく、マネージャーとして部員のサポートをすること。
心の隅では、僕も練習して活躍したいという思いはあるものの、今は裏方の仕事も楽しいし、みんなの役に立てて嬉しくもあった。

「よし、一旦休憩なー!ちゃんと水分取れよ~」

部長の掛け声を待ち望んでいたかのように、部員がぞろぞろと戻ってくる。

「ふぅー、5月とはいえもうあっつぃな」

「誠くんお疲れ様、はいこれ」

僕は、先ほどの紙コップとタオルを手渡す。

「おっ、サンキュー」

ゴクゴクと溺れるようにお茶を飲み始める誠くん。 耳がピクピクと動いていて、同性ながら可愛らしく感じてしまう。
誠くんは、黒毛の狼獣人で、僕と幼なじみだ。
小さい頃から僕と一緒にバドミントンをやっていたが、今では、学年トップの実力者でもあり、ついでに高身長でイケメンというモテ要素完備のハイスペ狼だ。
実際、何人もの女子から告白されているらしいが、本人は恋愛には興味がないらしく、まだ誰とも付き合っていないようだ。

「はぁー生き返る~。やっぱゆうちゃんが淹れてくれたお茶がいちばん美味いわ」

パックのお茶なんだから誰が淹れても一緒だよ、と苦笑で返す。
ゆうちゃん、というのは僕のあだ名。
名前は鹿野勇希というが、自分で言うのもなんだが僕には勿体ないくらいカッコいい名だと思う。本当に。

「そういえば、次の県大会勝てそう?」

「うーん、最近調子良いからいけそうだけど...2回戦で水上高校と当たりそうなんだよな」

「あぁ、そっか...」

水上高校は、月丘高校といつも大会の準決勝・決勝で接戦を繰り広げる強豪校だ。 
今月末にある県大会では何の因縁か、誠くんが初戦を突破すれば間違いなく2回戦で当たることになるだろう。

「まあ心配ばっかりしてても無駄だしな、もっと練習して余裕で勝てるように頑張るわ」

「そうだよね、頑張って誠くん!」

おうっ! っと満面の笑みを浮かべる誠くん。
この人柄もみんなに好かれる彼の魅力の一つなんだろう。

「鹿野せーんぱっい!」

「わっ!?」

一人、張り切ってサーブ練習を始めた誠くんを子を見守るように眺めていた僕は、後ろから急に現れた甲高い声の主に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

「何ぼーっとしてるんですか~、みんな先輩の入れたお茶を待ち望んでますよぉ」

彼女は、僕と同じマネージャーの長谷川美香さんだ。
イヌ科でポメラニアンの彼女は、くりっとした目が印象的な可愛いらしい子で、その容姿を活かして色々な男子と付き合ったらしいが、彼女自身ガツガツいくタイプなので、容姿とのギャップに驚いて全員別れてしまったらしい。
そして、まだ1年生で慣れていないからか、なぜか先輩の僕を慕ってくれているようだ。

「あ、そっか。ごめんごめんっ。今から渡してくるよ」

そうして、今度は僕らが忙しなく尻尾を揺らしている中、時刻は5時を回っていた。
練習はまだまだこれから。もうひと踏ん張りっ、と一つだけ余ったお茶を自分の喉にゴクゴクと流し込んだ。
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