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第十五章

本当の日向総長と、私。

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    【陽平 side】

陽愛のことを置いて、バイクを走らせる。
彼女の辛そうに叫んだ姿が忘れられない。俺はどうするべきだったんだろうか。

彼女の1人になりたいと言う考えを優先させた……そんなの綺麗事に過ぎないよな。

陽愛に出会う前からずっと付き纏われていた女……彼女がいるからって言ったらあいつがこんなこというから……。

『今、キスしてくれたら諦めるわ』

これで終われるならと、軽い気持ちでしてしまったことをこんなにも後悔するなんて思わなかった。陽愛と出会う前は、失うものは何もなかったからそんなこと普通にできた……

……今は失いたくない人が、愛してる人がいるから簡単にしてはいけないはずなのに。


「バカだ……」

「本当にな。」

返ってくるはずのない声が聞こえて驚いていると、その人物は俺の前に来た。

「昇……」

「つらくて龍太さんのお見舞いにきたのか?」

バレてる。
バレてる。

無意識のうちに向かっていたのは龍太さんが入院している病院だった。


「……まぁ、陽らしいけど。そうだ、これだけ言っとくわ。“龍太さんが待ってる”から早く行けよ」

待ってる……?
まさか、龍太さんの意識が戻ったとか?


すると、常に笑わない彼が満面の笑みを浮かべた。

「早く行ってこいよ!」

そう言って肩を叩き、昇は龍太さんの病室方面に勢いよく押した。なにかを小さく呟いてから病院の出口へと帰っていく。

そんな昇の後ろ姿を見ると、俺もいつもの廊下を歩く。彼の言っていたことが気になって仕方ない。

エレベーターで8階まで上がり、彼の病室の扉の前に来たけど……なんだか緊張する。

いつもはしない深呼吸してをして、ドアを開けようとした時扉が急に開いた。

……っ⁈

え、……俺夢を見てるのかな?


「陽平……久しぶりだね。」

俺の前には……あの日以来意識不明だった龍太さんが立っていた。



『せっかくだし、休憩スペースに行かない?』


彼のお誘いを受けて病室から程近い休憩スペースまで2人並んで歩く。

「はい、どうぞ」

「あ、ありがとうございます……」

病室とエレベーターの真ん中くらいにある休憩スペースのソファに座る。するとあったかいお茶を龍太さんから渡された。

「……陽平。総長頑張ってるんだって?昇に聞いたよ」

「え……はい。龍太さんにはとおく及ばないですけど」

昇は、先に来ていたからわかってたってことか……というか龍太さんはいつ目が覚めたのかなんで昇が先に来ているのか…

「夕方、目が覚めたんだ。看護師さんが連絡したのが昇だったんだよ。」



え、エスパー……

「……ははっ…陽平相変わらず面白いな。そうだ、日向に“姫”ができたんだって?」

「……はい、」

「そうか…陽平にも守りたいと思える相手が出来たんだな。」

龍太さんは遠くを見つめるように言った。とても寂しそうで辛そうな横顔を見ていれば陽愛の顔を思い出す。

陽愛、大丈夫かな。どこに行ったんだろうか
……帰る場所は?

考えれば考えるほど心配になって頭の中は陽愛のことばかり。

「……い、陽平!」

……!
今、龍太さんといるのにずっと話したかった相手が目の前にいると言うのに何故か陽愛の顔が頭の中を一杯にする。

「そんなに大好きなんだな。前ならその位置に俺がいたはずなのに。」

「…えっ……」

確かに、陽愛と出会う前は龍太さんが1番だった気もする……。




「……なら、行きなよ。大好きなお姫さまの元に。」

「だけど喧嘩してて、1人になりたいって言われちゃいましたので……」

そう俺が言えば龍太さんは俺の髪をぐしゃぐしゃにした。

「…喧嘩したっていいんじゃん?俺らはみんな赤の他人でしょ?
全てを理解できるようにはなれないよ。どんだけ頑張っても…ね。」

「……けど、俺が一方的に悪かった場合……っ」

「陽平は自分で分かってんだ、自分が悪いんだって。なら、簡単じゃん。謝ればいいんだよ。
聞いてくれなくても謝るんだよ。昇が言ってたよ“2人は運命の人同士”なんだって。」

の、昇……。どこまで何を話したんだよ。
なんだよ、運命の人同士って。



「もし運命の人同士なら、きっと大丈夫だよ。こんなとこで終わらないよ。」

「……あの、龍太さんっ…俺」

俺はソファに座っていたけど、立ち上がる。


「俺のこと構わなくていいから行っておいで。仲直り出来たら、彼女と来てね」

そう言った龍太さんを再度見る。以前と変わらないなと思う。だっていつだって龍太さんは背中を押して勇気をくれるから。

「はい…!絶対連れてきます‼︎お茶ご馳走さまでした」

彼にお辞儀をして病院を後にした。きっと陽愛は海にいる。だから、海に向かってバイクをスピード制限ギリギリで走らせた。

「ねぇ、こんな遅くにひとりでなーにしてるの?」

遠くだけど、聞こえてきたのは大好きな彼女の声だった。





    【陽愛 side】

陽平くんと別れてすぐに後悔が渦巻く。なんであんな酷いことを言っちゃったんだろ……。

もう飽きられちゃったかな……めんどくさいって思われちゃったかな…

急に寂しくなって会いたくなる。陽平くん……っ


「あれー?かわい子ちゃんがいるー!」

え……?

「うわ、今日は当たりじゃん~めっちゃ可愛い」

男二人組に話しかけられてしまった。どうしよう……

「ねぇ、楽しいことしよーよ!」

そう言われて手を掴まれて鳥肌が立つ。怖い……こんなことになるなら、1人になりたいなんて言うんじゃなかった。

だけど……。

━︎━︎━︎━︎ドスッ

掴まれていた手は離され2人とも倒れている。え……な、何が起きたの。



「…っ!早川、っ」

倒れている男二人組が口を揃え、私の前にいる人物に向かって焦り声で言う。

「…俺の女だって知ってて、手出したのかよ」

「…い、いやっ……ちがっ」

「は?違う?俺のこと知ってるくせに?」

口調は優しいのに何故か怖い。すごく威圧感がある。

「…い、命だけはっ……」

命……っ!
そんな命が脅かされることを今まで陽平くんしてきたの⁈

「はぁ…もう仕方ないなぁ。だけど今度彼女に接触したら次はねーから」

……と、言うとあんなに威勢がよかった彼らはどこかに走って行ってしまった。
ふぅ……と安心したけど、今の状況とても気まづい。

でも、彼にぎゅっと抱きしめられる。彼のぬくもりがあったかくて私も彼の体に手を回す。




「良かった……陽愛が無事で…本当にごめん」

「私も言い過ぎました…反省してる。ごめんなさい。」

「元はと言えば俺のせいだから……なんでもするからなんか俺にしてほしいこと言って。」

え……して欲しいことって言われても…
あ、そうだ……してほしいこと。

「……ずっと、隣にいて。ずっと私だけを好きでいて。」

「うん。絶対…離れないよ。今もこれからも陽愛だけだよ。」

「ありがと……陽平くん」

なんだか、霧が晴れていくみたいに心がぽかぽかしてくるのがわかる。だけど急に彼が私から離れた。

「遅いかもしれないけど、倉庫行かね?」

「へ?」

「走るよっ」

そんなことを言いながら彼は私をお姫さまだっこをした。

「お、下ろしてっ!」

そんな願いも、彼には届かないままバイク置き場まで走って行った。



      *



「もうみんな帰っちゃったかな?」

「んー…どうだろうな?」


倉庫に到着するけどなんだか曖昧な回答しか返って来ない。けど、そんな返事も倉庫を開けた瞬間に消え去った。

だって、

だって……

「「陽愛さん!ようこそ!日向会へ!」」

これって……。

「陽愛の歓迎会。やってなかっただろ?下の奴らが企画して買い出しも飾り付けも全部したんだと。」

私の歓迎会……?私、歓迎してもらってもいいのかなぁ…

「陽愛はお姫さまだから、歓迎会しなきゃいけなかったんだけど……バタバタして出来なかったんだ。ごめんね」

「蒼太くん……」

「じゃあ、始めまーす!日向会初のお姫さま陽愛ちゃんの歓迎会!
陽愛ちゃんと出会えたことを祝して、「「カンパーイ」」

いつの間にか私の隣にいた昇くんが掛け声をするとみんなご飯を食べ始めた。




下の子たちと話したりごはん食べたり、

理玖くんたちとも話しをしたりして朝も話したというのに久しぶりな感覚になる。

未成年のくせにお酒を飲むみんなはほとんどが寝てる。私も遅かったし、待つの疲れちゃったのかもしれないなぁ……

「陽愛、総長室行かない?」

「……え、」

私が言おうとした時にはもう手は繋がれていて私の有無は関係なしに総長室に向かっていた。

だけど、

「待てよ。今日は、陽愛はみんなな陽愛なんだから陽は我慢して。」

陽平くんを停止させたのは理玖くん。

「は?みんな寝てるからいいじゃん。」

「寝てない下っ端はどうすんだよ。」

「……チッ…」

舌打ちした⁈
なんかいつも理玖くんには負けてるよね……。

「陽愛、あいつらとも話した?あいつらずっと裏仕事的なことしてたから陽愛ちゃんと話できてないはずだからさ…一応紹介するね。」

「あ、うん……ありがとう」




理玖くんに連れられ倉庫の隅っこの方で2、3人がひっそりとご飯を食べていた。

「あ、理玖さんと姫。お疲れ様です!」

「お疲れさん、ありがとな。えっと、ちゃんと紹介しとくわ。姫の朝倉 陽愛。

……で、こいつらが右からハルとユイト、ソウタだよ。」

「俺は峯岸 ハルです。大学に通ってます。総長と同い年です」

ハルくんは、栗色の髪をした爽やか系男子で暴走族に入っているなんて外見じゃわからない……。

「俺は、藍木 ユイト。姫と同い年です。よろしくお願いします」

「川田 颯太。一応同い年、よろしく……です」


この3人、本当に暴走族なのか…好青年すぎるって。



「えっと、ハルくんとユイトくん、颯太くん…陽愛です。よろしくお願いします」

ちゃんと自分の名前も言ってお辞儀をした。すると、理玖くんの方から笑いを堪えるような声がして来る。

……え…私なんか変なこと言ったかな

「陽愛さんやめて下さいっ…俺たちなんかに頭下げるなんて……下げていただくような相手じゃないです。」

「…いや、一応礼儀だしこれからお世話になるから……ダメでしたか」

「だだだダメじゃないですけど……」

そんな話をしていれば理玖くんが「まあ仲良くしてやって」なんて言うと、私に声をかけて立ち上がったので私も立ち上がり理玖くんに着いて行く。再び、振り向いて手を振ると3人も振り返してくれたのを見て仲良くなれそうな気がして、少しだけ安心した。



   ゚*✩‧₊˚* ੈ✩‧₊˚゚*✩‧₊˚

その日の夜。

「陽愛、もう眠い?総長室で寝てくる?」

「え……うん、そうする。」

夜中になっても幹部室でお菓子を食べながら過ごしていたけれど、睡魔には勝てないみたいだ。

「みんなおやすみなさい。」

「おやすみー!」

私は、みんなに見送られて総長室へ陽平くんと一緒に行く。

「……陽愛、楽しかったか?」

「うん、楽しかったよ。ありがとう」

陽平くんは総長室に入ってすぐにぎゅっと抱きしめてきた。

「……あのさ、お願いがあるんだけど」

「え?」

「日向会の本当の、総長に会いに行こうか」

彼は少し嬉しそうに笑う。だけどどこか寂しそうな顔をした。


「どうしたの…?」

そう声をかけると彼との距離は本当に近くなって唇が重なった。

「……ん…」

彼のキスを受け入れる。だけどどこかいつもよりか強引で、キスや抱きしめる力、そして言葉ひとつひとつは同じなのになぜか違和感を感じた。

「…陽愛、愛してる……」

ドスン━︎━︎━︎

……え…っ
急に天井が見えた。どうなってるの……?
……私、押し倒されてる……?

「…よぅへーく……ひゃっ」

今までだって一線を超えたことあったけど、この夜の彼からは不思議なほどに感情が見えなかった。



━︎━︎━︎━︎━︎ 翌朝。

朝起きた時には隣にいたはずの彼はいなくて、まだ頭が完全に起きてないまま幹部室のドアを開けた。

「おはよ……」

「あ!陽愛おはよう。早いけど一旦帰って出かけるから準備してー」

「え?」

「さぁさぁ早く!」

なぜか陽平くんに急かされて倉庫を出て、一旦帰り着替えをしてまた車で出かけた。

「ねぇ、どこに行くの?」

「ん?今からはモーニング!」

モーニングしたかったんだよね、と言いながらついたのは地元では有名の喫茶店だった。

「いらっしゃいませ~2名様でよろしいですか?こちらへどうぞ~」

店員さんに促され席に座ると、モーニングのメニュー表をテーブルに置いた。


「お決まりですか?」

「あー…モーニングのAセット2つで。ドリンクは、アイスコーヒーとミルクティーで」

店員さんは繰り返し確認してキッチンの中に入って行った。

「なんで急にモーニングなの?」

「なんでかな~?なんか行きたくなったんだよね」

一言会話しただけでドリンクが出てきてそのあとすぐにセットメニューが出てきた。伝票を置いて店員さんが行った後に陽平くんが話し出す。

「サラダとゆで卵に小倉トーストこれ2人合わせて500円って安くない?」

「え、ほじゃ1人250円⁈安すぎない?」

安すぎじゃないの?経営大丈夫なの?
それを開店から11時までドリンク代でこれって赤字にならないのかな……



何故だか喫茶店の経営が気になってそれで盛り上がってしまい、ミルクティーは完全に冷めてしまった。

「トースト、冷たくなっちゃったね」

「話しすぎたな」

冷めてしまった料理をお腹いっぱいに食べて喫茶店を後にした。

「次はどこ行くの?今度こそ病院?」

「あ、うん。そうだよ。総長の、お見舞い。」

昨日誘われた日向会の陽平くんの前の総長さんの病院に今から行くらしい。しかもその病院はお母さんが亡くなった病院で、なんだか感慨深くなる。

もしかしたら、あの日会ってたのかもなぁ……そうだったらすごく素敵だよね。

トントン、━︎━︎━︎━︎━︎

「お、陽平来たのか~…でそっちの子が姫?

……もしかして、」

総長さんが私を見ると優しい顔を向ける。そして知らないはずの私の名前を呼んだ。


「“ひより”っ……」



何故この人が私を知ってるの?

陽平くんも驚いている顔をしているから陽平くんが話したわけではなさそうだ。

「……そのキーホルダー」

突然総長さんが私のキーホルダーを指差す。これは記憶にはないけど大切な人からもらったんじゃないかと思ってずっとつけていたもの。

【HIYORI】
【RYUUTA】

「そっか、陽愛は覚えてないか。それ……小さな頃俺が陽愛にあげたんだ。また会えるように、再会したらわかるように」

再会したら……って、そもそも私たちは昔会っていたってことだよね。

「…覚えていないというか、記憶が抜けちゃったのかな。あの時、陽愛小さくて離れ離れになるって聞いてすっげー泣いたんだ。」

彼は本当に懐かしむように言うけど私の記憶の中にはそんな記憶がなくて…それがモヤモヤする。


「あの、龍太さん…私たちの関係はなんですか…?」

私がそう聞けば彼は龍太さんはゆっくりと口を開いた。



     【龍太 side】

朝早くから陽平とその彼女らしい女の子がやって来た。陽平の表情からこの子が彼女なんだって分かった。
入ってきた時は女の子の顔が見えなかったけど、今見ればはっきりと見えて…彼女が名前を言う前にすぐに分かった。

「ひよりっ……」

この子は、陽愛だ。太陽の“陽”に“愛”って書いてひより。
その証拠に彼女が身につけてるキーホルダー。昔、別れる際に彼女にあげたものだ。

『ひよりちゃん、これずっと持っててね。』

そう言って彼女にあげたもの……本当に持っていてくれたんだ。記憶にないはずなのにずっと、持っていてくれたのは嬉しい。
だって彼女は、俺と別れる時泣きじゃくってすごくショックを受けたのか倒れたって聞いたから……



彼女に俺たちの関係を聞かれて本当のことを言おうか迷った。けどきっと、陽平が話してるはず…だから。

「俺たちは、

……血の繋がった兄妹だよ」

「え……」

「俺たちは、両親を事故で亡くしたんだ。俺も小さかったし詳しいことは分からないし覚えてない。

実際に両親の顔や声も覚えてないんだ。身寄りがなかった俺たちは施設に預けられた」


「でもどうして、離れ離れになったの……?」

両親のない俺たち。

大人に言われるまま施設に行って

大人に言われるまま里親の元へ行くことになった。

まだ子供だったから拒否するなんて出来なくて、陽愛と別れることも受け入れなきゃいけなかった。

だから、俺が作ったんだ。離れ離れになるって聞いて陽愛が寂しくないようにまた会えるように……。


それから、先に俺の里親が迎えにきた。

俺は、中谷 龍太から 藍墨 龍太になった。
陽愛は、朝倉 へと変わったと聞いたんだ。




    【陽愛 side】


「じゃあ…私が龍太さんが探してる妹って私のこと……なの?」

「ああ…」

もう驚きでどうしたら良いのか分からなくなる。頭が回らない。
それは陽平くんも同じみたいで……。

「じゃあ、日向会は私を探すために作られた」

「……うん、全国にあればもしかしたら見つかるかもしれないって。俺はどうしても会いたかったんだ。だって、家は違っても血の繋がりのある唯一の家族なんだから。」


家族……。
その言葉に涙が頬を伝った。

「陽愛……?

でも、私はずっと兄の存在を忘れていた。ただ、お母さんが唯一の家族だと信じていた。

「私……お母さんだけが家族だと思ってて、」

私が話し出せば何かを察したのか、静かに陽平くんはこの部屋から出て行った。




「…お母さんが数ヶ月前にね死んじゃったんだけどねひとりぼっちになったんだってあの時は思ったから、なんだか嬉し……っ」

“嬉しくて”
そう言おうと思ったのに、龍太さんに抱きしめられる。

「……だけどね、」

抱きしめられながらまた言葉を繋げた。きっと、外で聞いているであろう彼にも伝わるように……。

「…私、寂しくないんだ。家族はいなくなっちゃったけど、陽平くんに出会えたから。龍太さんが作ってくれた日向会のおかげで出会えたんだって今は思ってる……。
もしかしたら、日向会がなかったとしたら陽平くんは総長になってなかったのかもしれないんだもん……そしたら出会えなかったかもしれない。」

沢山の奇跡が重なった……だから私たちは出会った。

「…そっか、」

「だから、ありがとう…私のこと探してくれて。」


もう寂しくない。それだけははっきり言える。
もう1人じゃないんだって思うから。私の隣には陽平くんがいてくれるから。




「……俺、日向会を作ってよかったよ。本当はさ、少しだけ迷いがあったんだよね。陽愛を見つけたい、一緒に暮らしたいって言うの時は俺の自己満なんじゃないかって思ってた。
けど、それが陽愛にとっての幸せになって願ってた再会もできて……」

龍太さんはふわっと笑顔を見せた。それを見た私も笑顔になる。

「ねえ、お兄ちゃんって呼んでも良い……?」

「うん、もちろん。」

「私、お兄ちゃんと出会えて再会できて嬉しい。ありがとう」

今度は私からぎゅーっと抱きつく。


「…うわぁっ……」

勢い良すぎちゃったみたい……だって、床ドンしちゃってたから。



     *



「そういえば、」

ただ今、病院内のレストランにいます。

「陽平は俺の陽愛を泣かせたことになるんだよな?」

え⁈な、なんで知ってるの…⁈

「俺の可愛い可愛い陽愛を……」

あの…お兄さん?
その発言、シスコンみたいだよ?

「あ、いや……その」

しかも、総長だったってほどはあるよね。
笑ってるのに笑ってない。優しい声なのに優しくない。

「…お兄ちゃん、」

「ん?なぁに?」

私が呼ぶと機嫌が良くなる。本格的にシスコンだよそんなんじゃ……。

「私、もう気にしてないよ?だから仲良くしてよ。私、お兄ちゃんのことも陽平くんのこともだいすきだから仲良くして欲しい。喧嘩しないで……」




「……喧嘩したら2人ともきらいになるから。」

そう言えば、今度は息ピッタリに 言った。

「えっ……それはやだ。」

「俺も、陽愛に嫌われるなんて耐えられない……」

なんだか嬉しいなぁ……
唯一の血縁者の兄と恋人の彼。大切な2人からの愛が伝わって来るから1人じゃないんだなぁって思うから。

「ありがとう、2人のことはだいすきだよ」

2人への大好きな気持ちは全く違う。

お兄ちゃんは、今日再会したばかりの唯一の家族だけど…家族として愛してる。大好きだなぁって素直に思う大好き。
陽平くんは、全てを捧げてもいいと思えるほどに大好きだと堂々と言える存在。恋人として大切なステキなパートナーとして大好きな人。

2人への愛は違うけど、大切な人には変わらない。大切だから仲良くして欲しい。
喧嘩なんてしてたら、その時間がもったいないじゃん…?



それからまあ……仲良くご飯を食べてお開きとなる。

「じゃあ…陽愛、陽平。また来てな。」

「うん、またね。」

「陽平、陽愛をよろしくな。もう泣かせるなよ?」

「わかってます……もう泣かせません。」

「それから、陽愛。ちゃんとご飯食べろよ」

エレベーター近くまで見送るというお兄ちゃんの希望で近くまで来たけどなんか終わらなさそうだ……これはいつまで続くの?

一生の別れじゃないんだからさ……

「じゃあ、またね。」

「あ、うん……」

半強制的に話を終わらせると、エレベーターに陽平くんを連れて乗り込んだ。

なんか、ドッと疲れた気がするよ……




それから、お兄ちゃんとバイバイして病院を後にした。
陽平くんの車に乗ってあの場所に向かう……

「……海、静かだね。」

「まだ寒いからなぁ…俺たちくらいだろうな」

確かに……周りを見ても誰もいない。
この海にはたくさん思い出が詰まってる。言葉じゃ表せれないくらいの沢山の出来事が。

「でも、どうしたの……?」

「…俺も、話さなきゃと思って…前に進む為に、陽愛に知って欲しい。」

急に真剣な表情に変わって、心臓がドクンと音を立てた。

「俺……陽愛と昔会ったことあるんだ。」

「……え?」

「……俺も、陽愛たちがいた時期に一時保護されていたんだよ。」

一時保護……。
彼は、そう言うと目を閉じた。



    【陽平 side】

今から15年前。
俺は親から虐待されていた…所謂、ネグレクト。

『あんたなんて、産むんじゃなかった‼︎』


毎日そんな罵声を受けて、暴力なんて日常茶飯事で……ご飯もまともにもらった記憶がない。悪い時はご飯もない日もあった。

だけど、そんなある日……市役所なのか良く覚えてないけど大人がやって来て俺は2ヶ月間児童養護施設に生活することになった。

そこでは、ご飯は三食食べられて安心して眠れる場所があって職員さんも凄く優しくしてくれて……本当に、天国かと思ったくらいだ。

……で、そこで出会えたのが龍太さんと陽愛だった。



だけど、出会って数週間で陽愛と龍太さんはどこかに行ってしまった。小さかったからわからなかったけど…。

それから、つまらない毎日を過ごしていたら施設の人から知らされた。


『お母さんが行方が分からないの』

なぜだか、居なくなってしまったのかな……なんて思わなかった。だってまた、地獄のような生活が待ってるんじゃないかって思っていたから。

だけど、それからだ……大人というものが信じられなくなった。沢山の施設を転々として、気が付いた時には毎日のように喧嘩をして親父狩りなんかもしていた。

 自分が分からなくなって、やってることも嫌になって……生きてる意味も存在価値も分からなくなっていた。

そんなある日、出会ったのが日向会の総長である龍太さんだった。



   【陽愛  side】

陽平くんの過去は壮絶で、聞いてる私が辛くなって来ていた。


「……龍太さんに出会った日にさ言われたんだよね。

『そんなことしてる自分がカッコいいって思うのかよ?
本当のカッコいいっていうのはな、大切な誰かを守れる強さを持っている人を言うんだ。』

……って言われたんだ。なんかそれ聞いたら本当に馬鹿らしくなったよ。こんな俺じゃ、本物のカッコよくなれないじゃんって。

だから、少しでも……守れる強さが欲しくて、日向にはいったんだよ。」

お兄ちゃんは、カッコいいなぁ……本当の強さか。

「だけど、入ったら……俺なんか並みじゃないくらいに壮絶な過去がある奴ばっかりで。
俺は甘えてたんだなーって思った。きっと、構って欲しかったんだよ。」



すると急に陽平くんは思い出すように懐かしそうに笑い出した。

「……どうしたの?」

「そん時、龍太さんに言ったんだよ。俺は甘えてたのかもしれませんって。そしたらなんて言ったと思う?」

「え……っと」

「『人ってそんなもんだよ。みんなそうなんだよ。だけど、俺たちは少し違っただけ。』

そう言ったんだ。なんだか、…分からないけど安心したんだよね。

『そんな俺たちの心の在りどころを作りたかったんだよ。』

その言葉で、俺は思った。無意味な喧嘩をして来た俺だけどこの人のために捧げようってさ。」

きっと、お兄ちゃんが私のために作った日向会は陽平くんたちに受け継がれるんだ。そうやって、続いていくんだよね。

なんだか、感動するな……

「……で、陽愛にお願いがあるんだよ。

俺の…母さんに一緒に会って欲しいんだ」
































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