聖女のわたし???が憧れの魔法使いさまの罠(トラップ)に堕ちる

myme

文字の大きさ
1 / 12

消された記憶1

しおりを挟む
 

 ーー堕ちたのは、異世界か……それとも……愛する……彼の……。





「……はっ」

 彼女は、息をのんだ。

 彼女の目の前に見えるのはワイングラス。持ち手に星の細工が施されてあり、とても綺麗で神々しい。

「ーーさぁ、裏切り者。お前はこれを飲んで死ぬがよい」

 ワイングラスの中に透明のキラキラとした液体が注がれる。
 
 彼女は両腕を何かで縛られていて、身動きがとれない。そして、なぜだかその液体が入ったグラスは女性の唇に押し付けられようとしていたーー……。

 ーーえっ、いったいどういうこと?? どうしてわたしは、よくわからないものを、のまされようとしているの? 
 
 女性の周りには見知らぬ男の人があたりを囲んでいて、液体を強引に飲めと言っている。かなりまずい状況だ。


 女性は目を細める。彼女の両手を縛っているものは、光の輪だった。光の輪が幾重にも連なって、手首、腕、腰、足首まで、ぎゅうぎゅうと締め付けている。

 ーーはなして!!!!

 女性は顎や頬でワイングラスの手をどかそうとする。勢いよく、思いっきり、頬でぐいっと押しのけたものだから、グラスは床に落ちてパリンと割れた。


 液体が床に広がって、甘ったるい匂いが部屋に充満する。咽るような甘い匂いを嗅いでいるだけで、彼女の意識はだんだんと遠くなっていったーー……。




「ーーラビィ?」

 その通る声に、甘い匂いが充満した部屋に一瞬ピリッとした緊張が走る。


「ラビィ!? どうして君がこんなところにいるんだ」


 男は何度も彼女のことを「ラビィ」と呼ぶ。でも、彼女はその名前に反応する様子はない。
 男のことは一瞬見たものの、頭を傾げ、不快に満ちた表情をしている。

「ーー君は、これを飲んだ?」

 男は窓ガラスから、ゆっくりと彼女のもとへ近寄って来る。窓には割れたガラスの破片が残っていて、腕を通す時にガラスの破片で腕や頬が切れ血が流れた。床に落ちたガラスの破片を靴で踏む音が聞こえた。

 彼女を囲む男たちは後ずさりした。

 光の輪がゆるみ、彼女は床に膝を付く。

 ーーはぁ、はぁ……。なんだかわからないけれど、頭がくらくらしてきて、立っているのもつらい。呼吸が苦しい。

 
 割れた窓から見える幾つもの光り輝く星。真っ暗な部屋の中に突如現れた星の一等星。
 輝く絹糸の銀髪。長く伸ばした前髪の隙間から、サファイアの宝石のような瞳が見えた。

 知らぬ男性が彼女の体を支えようとして、彼女は非常に驚いた表情をする。ーーそして、その触れた手を払いのけた。


 男の表情はみるみるうちに変わっていく。

「ーーくっ、非常に不愉快だ」

 
 ☆


 彼女はゆっくりと瞳を開けた。
 
 ふかふかのベッドにやわらかな毛布。目を覚ました彼女がベッドから部屋を見渡す。窓が二つに木のテーブルと二つの椅子。テーブルの上には水の入ったコップが置いてあった。

 
 まだ夢見ごこちのふわふわとした気分の中、大きな手が彼女のおでこに触れる。


「ーーああ、悪い。驚かせた。……体温を確認したかったんだ。 体の調子は、どう? 少しは楽になった?」


 銀髪に青い瞳。白のブラウスの隙間から、シルバーのネックレスと、ブレスレットが見える。彼の腕と頬にはいくつか絆創膏が貼ってあって、彼女は思い出した。

 ーーこの人、さっき、ガラスの窓を割って入って来た人ーー……!?
 

 彼女が寝ているベッドのすぐ隣、窓のすぐそばの椅子に男は座っていて、女性の様子を伺っている。さきほどまで縛られた腕はやや痣になっていて、それを心配そうにすごく気にしていた。



 「ーーラビィ。さぁ、君は今、どこまで記憶がある?」

 ーーき、記憶????

 驚いている彼女に小ぶりの銀の手鏡を渡した。
 真っ白なワンピース。腕はか細く、指は長い。背中まで伸びた真っ白の髪の毛。小さな鼻、唇に……そう、彼女は自分の瞳の鮮やかさに驚いていた。

 輝くルビー宝石のようなキラキラとした瞳。

「ーーははっ、その様子だと僕のこともすっかり忘れてしまったようだな」


 
 自分の置かれている状況を全く呑み込めずに慌てる女性を目の前にして、彼は苦笑いする。


「僕の名前はシリウスです。星の琥珀に狼との契約をした魔法使いだよ」
 
 ーー星? こはく? 魔法使い? 

「ーーーーーーーー!!!!!」
 

 彼女は声を出そうとした。うまく出せない。声を出そうとすればするほど、喉が閉まり、咳き込んでしまうのだ。


 シリウスと名を伝えた男性は耳につけたイヤリングを片方外して、彼女に見せた。青い宝石のイヤリングには狼の紋章が彫ってある。イヤリングを手で軽く握ると手の中から光が放出された。

 どこか切なげな表情をする彼。

 彼女は首を横に振る。

 彼女は今、何も覚えていないのだーー……。





 「ーーお腹は空いていない? 朝食を用意していたんだ」

 彼は自分の耳にイヤリングをつけなおすと、部屋から出て行った。




 ✧✦*✡。✧✦*✡。✧✦*✡。✧✦*✡。

 たくさんの小説の中から、こちらの小説を読んでいただきありがとうございます。ご感想、お待ちしております。
 挿絵が欲しい、こんなシーン、シチュが見てみたいなど、リクエストも感想欄へどうぞ。

 ✧✦*✡。✧✦*✡。✧✦*✡。✧✦*✡。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

処理中です...