追放された付与術士、別の職業に就く

志位斗 茂家波

文字の大きさ
5 / 8

あっさり転職完了しました:レーラ

しおりを挟む
「…‥‥えっと、今日はこれとこれに『強度強化』、『発熱』の付与ね。それと‥‥‥」

 工房にて、私は今日の仕事内容を確認し、付与術をかけ始めていた。



 冒険者を辞めて早数カ月。

 無事に転職出来て、私は都市アルバスというところにある一軒家工房付きにて居を構え、付与術士であった能力を活かし、与えられた部品などに付与をかけていた。


 転職手続きとして辞めた後に、指定された面接場にて色々とやって見れば、あれよあれよという間にあっという間に再就職決定。

 仕事内容としては、定期的に、時々急に送られてくる部品に、様々な付与をかければいいだけのものであり、週休二日、有給あり、時たま昇給、ボーナスなど、うますぎる内容のものであった。

 

 私を雇ってくれたのは、あるメイド‥‥‥ワゼと名乗る方であった。

 と言っても、どうやら人間ではなくゴーレムらしいのだが…‥‥いや、ゴーレムってあんなに人間ぽいものだったかなぁ?見た目も綺麗な女性だし、耳が違うなどの特徴が無ければ、そう変わったものでもなさそうだ。




 なにはともあれ、なぜこのような就職先を彼女が用意してくれたのか?

 どうやら彼女、だてにメイド服を着ておらず、ご主人様と呼ぶ存在がいるらしい。

 そして、そのご主人様のために働くことを至高としており、他にも彼女が自ら作り上げた、ちょっと小さいサイズのメイドたちもいるそうなのだ。




 だがしかし、それでもやり遂げられる能力には限界があり、より役に立ちたくとも、個人では限界があった。

 そこで、彼女が思いついたのは自身の構成部品の改良など…‥‥様々な手段があったらしい。




 だがしかし、そこで問題があった。


 部品や材料をそろえるぐらいならまだしも、改良に次ぐ改良では、いつか手詰まりとなる。

 ずっと同じものを使うわけにもいかないし、どうすればいいのか考えていたところ‥‥‥ふと、ある雑誌を読んで、思いついたそうだ。

 それが、付与術士によって効果が付与された部品を使用すること。

 例えば、耐久性を高めるために部品の強化の付与がなされたものが使えれば、元から強い部分がより強くなれる。

 色々と用途もあるし、ご主人様のためになるならばと思い、かといって表立って行動するにもちょっとばかり目立ちすぎるような気がしたので、なかなか実現しにくかったそうだ。



 だがしかし、あの時…‥‥私が彼女たちに出会った時に、私の付与術の腕前を一瞬で見ぬき、欲しいと思ってくれたのだという。

 そして、前もってやってみようかなと思って作っていた、あの面接などの場所が書かれた紙を手渡してくれたのだ。






…‥‥と言うか、どうも私があのパーティからそのうち抜けるとも考えていたようで、再会した時にはやはりかと言うように、苦笑していた。




 何にしても今、こうして工房を構え、冒険者の付与術士だった時の経験を活かし、付与術で部品を強化したりなどの仕事を任せられ、無事に転職できた。

 ついでに、その要請がない時も考え、暇すぎないようにということで、他の店舗との連携もただ今検討しているのである。

 近所の薬剤師の店ならば、薬剤を入れる瓶の強化。剣術などを教える道場であれば、木刀の強化や対戦相手の弱体化で同等の実力差に調整するなど、案外用途が多い。

 しかも、この件はどうやら色々と刺激を与えたようで、効果を実感できない付与術士に対して、己の目で見て取れるようにということで、新たな付与ビジネスみたいな感じで需要が高まっているのだとか。



……順風満帆だが、あえて文句を言わせてもらうのであれば…‥‥作業用の制服が、何故メイド服なのだろうか?

 その理由を聞くと、用意できるのがこれしかなかったようで、現在デザイン関連の人材も募集中らしい。うん、早く来て欲しいかもしれないわ。



 とりあえず、今の仕事にはそれ以上の文句はない。

 冒険者時代の友人たちも時々遊びに来るようになったし、冒険者をしていた時よりも十分満足できる暮らしである。

 まぁ、彼女……ワゼさんいわく、どうやらそのご主人様とやらも平穏を望んでいるらしいが、色々とあって中々難しいのだとか。‥‥‥そのご主人、普段何をやっているのだろうか?



 と、思っていたら最近、そのご主人様とやらを見る機会があった。

 どうやら近くの魔法ギルドにいる、魔法屋だったらしい。しかも、かなりの美貌を持った女性……いや、アラクネを連れた青年であった。

 うん、あれがご主人様なのかと納得したような気にもなった。




 何にしても、今日も私は付与術を活かして仕事に励む。

 ついでに、最近では新付与として『一定の爆発』、『急速冷凍』などもできるようになったが、これもどうやら役に立つらしい。

 
 何に使うのかは不明だが、私は言われた付与を行い、渡していくだけ。

 犯罪とかには使われないようだし、今のままで十分いい。

 ああ、転職してよかったわぁ…‥‥‥‥






…‥‥そう言えば、私がかつて所属していた、Sランク間近とされていた冒険者パーティ「栄える風」。

 その話しはどうやら無くなったらしいけれども……何があったのかしらね?まぁ、他人だし、友人たちに聞いても教えてくれないし、別に良いわねぇ…‥‥
 


しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

解き放たれた黒い小鳥

kei
ファンタジー
「お前と結婚したのは公爵家の後ろ盾を得るためだ! お前を愛することはない。私から寵愛を得るとは思うなよ。だが情けは掛けてやろう。私の子を成すのもお前の正妃としての務めだ。それぐらいは許してやらんでもない。子が出来れば公爵も文句は言うまい」 政略で婚姻した夫から裏切られ絶望の中で想う。

婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】

恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。 果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?

【完結】勇者と国王は最悪。なので私が彼らを後悔させます。

凛 伊緒
ファンタジー
「お前はこのパーティーに相応しくない。今この場をもって、追放とする!それと、お前が持っている物は全て置いていってもらうぞ。」 「それは良いですわね、勇者様!」 勇者でありパーティーリーダーのゼイスに追放を宣言された。 隣にいる聖女メーシアも、大きく頷く。 毎日の暴行。 さらに報酬は平等に分けるはずが、いつも私だけかなり少なくされている。 最後の嫌味と言わんばかりに、今持っている物全てを奪われた。 今までの行いを、後悔させてあげる--

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

ワザと醜い令嬢をしていた令嬢一家華麗に亡命する

satomi
恋愛
醜く自らに魔法をかけてケルリール王国王太子と婚約をしていた侯爵家令嬢のアメリア=キートウェル。フェルナン=ケルリール王太子から醜いという理由で婚約破棄を言い渡されました。    もう王太子は能無しですし、ケルリール王国から一家で亡命してしまう事にしちゃいます!

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

処理中です...