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エピローグ:ギルディ&元メンバー
しおりを挟む……ある日、都市アルバスには一組の冒険者パーティがやってきていた。
「ここが、都市アルバスか…‥‥なんて活気づいた場所なんだ」
「それに比べて、私たちはどこまで落ちぶれているのかしら……」
パーティを率いていた男性の言葉に、もう一人が物凄く沈んだ声でそう答えた。
彼らはかつて、レーラが所属していた冒険者パーティ「栄えある風」。
当時はSランク間近と言われていたパーティであったが、現在は落ちぶれに落ちぶれ、もう間もなく冒険者登録そのものが抹消されそうなほどになっていた。
パーティメンバーの一人である魔法使いの少女アルビは、魔法ギルドと言うところに魔法屋としても所属したが、魔法の腕前が年々落ち込み、もはやこちらからも見放されそうなほど、ただの凡人と化しかけている状態。
武闘家少女のアンビィは、格闘技の技前が落ち込み、今でも出来るだけ鍛錬はしているが、妊娠することが多かったので、動けなくなるのを嫌って堕胎を繰り返していたら身体を壊し、血を吐くようになった。
弓使いのホリケーンは、敵に矢を放ったが、それを受け止められ、投げ返されて眉間に直撃し、既に亡くなっていた。
そしてリーダーでもあり、剣士でもあったギルディは、金属製の鎧ではなく、全身やすい獣の皮製、それもつぎはぎだらけの粗悪品を着用し、欠けた剣を装備していた。
しかも全員、ひどい怪我を負う機会が多く、もはやかつての顔などではなく、傷だらけの醜悪集団と化していたのである。
・・・‥‥どうしてこうなったのか、それはレーラが抜けたことと、彼らの大きな慢心が原因であった。
付与術士が敵に弱体化、味方に強化するのは良いとして、彼らはその効果が目に見て取れないために、ある勘違いをしていたのである。
例えば、強化によって生じる強さ変化を2倍、弱体化による効果を2分の1倍とし、一般的な強さを1とした場合、味方が1、敵が1であれば、2と0.5で圧倒的な差を得る。
しかし、味方が0.5、敵が1であれば、1と0.5で差が縮まり、味方が0.5、敵が2では1と1で互角になるのだ。
そのうえ、もし味方が0.5、敵が3などでは…‥‥1と1.5で強さが逆転してしまうのである。
ゆえに、もし鍛錬を無くして自分たちを弱くしたり、敵が強かった場合には後者のような事が起こり得るので、普通のパーティは自己鍛錬を怠らず、慢心しなかったのだ。
ところが、栄えある風のメンバーは慢心し、自分たちの方が弱くなって今一つになってきているというのに、強化、弱体化の効果が無いと思い込んで、レーラを追放したのだ。
……そして、新たにタンク役の者を入れたところで、その強さが急に変わるわけでもない。
いや、むしろ付与が無くなった分、強化で1だった強さが0.5となり、弱体化していた敵がそのままの強さであった場合……もうどうなるのかは、目に見て取れるであろう。
自分たちの弱体化、敵の弱体解除による本来の強さを受け、彼らはフルボッコにされた。
それでもまだ信じられず、何度も何度も繰り返し……結果として依頼の失敗を積み重ね、大怪我を負うようになり、色欲に逃げ、さらに怠惰を重ねて弱くなるという悪循環を積み重ね…‥‥もはやかつてSランクになれるだろうという栄える風は無くなり、敗北の風を漂わせていた。
しかし、人と言うのは一度贅沢を知るとその生活から抜け出しにくい。
今の状態でも、なんとか心入れ替えて鍛え直せば、まだよかったのかもしれない。
だがしかし、彼らは改める事もなく、自分たちが元々ダメで強化魔法に頼りまくっていたという事実を認識できず、落ちぶれに落ちぶれたのだ。
そして今回、その依頼を失敗すれば確実に冒険者登録剥奪になる状況であった。
「依頼内容は、この都市にあるという強化店とやらでギルドが発注した製品の受け取り・・・・・か」
「もう、ただの小遣い稼ぎよね」
「戦闘ない、物足りない。けれどもまだマシ」
ぶつぶつと言いながらも、この程度の簡単な依頼なら失敗することが無いだろうと思い、まだ冒険者業を続けられることに、彼らは安堵していた。
ここから地道に依頼を成功し続け、再びあの栄光を得られるかと思っていた…‥‥その時である。
「あれが強化店か……っ!!」
店を見つけ、依頼のために向かおうとしたその時、ギルディは見た。
その店の中へ、今一人の女性が入っていったことを。
その女性はかつて、パーティから追放したレーラだったのだ。
しかも、いた当時よりも美しく感じ、充実していそうな雰囲気である。
ギルディの様子に他二人は疑問をいだきつつも、すぐに何があったのか彼女達も理解した。
「あれって…‥‥レーラよね。あの役立たずだったはずの彼女よね?」
「なぜ、ここにいるの?」
「知るか!!ここにいるとは思わなかったぞ!!」
驚愕しつつも、ふとギルディはある事を思いつく。
レーラが抜けてから、このパーティが落ちぶれ続けていた。
ならば、今、再び取り入れる事が出来れば…‥‥復活するのではなかろうか。
そう、あのまだ稼ぎに稼ぎ、絶頂の栄光があった時のように。
・・・‥‥そのよこしまな想いを抱いて、ギルディ達は店に乗り込もうとした。
ギルドからの依頼?そんなものは知った事ではない。
再び彼女を仲間に引き入れることができれば、あの輝かしい時のようになれると思い、力ずくで脅迫しようとしたのである。
流石に装備も何もかもボロボロだが、女一人程度この人数であれば大丈夫だろうともタカをくくり、暴力で訴えようともしたが・・・・残念ながら、その企みは失敗した。
ぱかっ
「「「ふぁっ!?」」」
今まさに、戸を蹴破って突撃しようとした瞬間、床が急に開き、足場が無くなる。
そして、悲鳴を上げる間もなくその中に吸い込まれ、彼らはそこから姿を消したのであった。
・・・‥‥強盗などに備えて、どうやら防犯が徹底されていたようで、悪人に対して反応する罠が仕掛けてあったのだ。
そして、彼らはその日から姿を消し、ギルドからは冒険者登録が抹消され、いなかったことにされた。
何処へ行ったのか、知る者はいない…‥‥
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