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3章 学園中等部~
3-29 大体聞きまして
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‥‥‥侯爵家令嬢リリの前世が、アルスの前世の妹。
そして、ベイドゥとの出会いなども経て、ここに来ることができたというのは良く分かった。
「と言うか、僕の人生とはまた違う方向だけど、似ているような‥‥‥」
「ふふふ、お兄様の妹ですもの。お兄様と似たようなことになってもおかしくないのですわ」
一貴族家で、蜘蛛のモンスターに出会い、日々を過ごす…‥‥前世の妹らしいが、何気に似通った人生とも言えるだろう。
違うとすれば、こちらは一匹、あちらは三匹まとめてだとか、家の違いなどもあるのだが…‥‥話も聞き終えたところで、ふと一つの疑問が浮かんだ。
「そう言えば、ダンジョンで出会ったとか言うけど‥‥‥ベイドゥのいたダンジョンって、もしかしてゲードルンっていうダンジョンか?」
「おや、既に知っているのでございますか?」
「まぁ、ちょっと前に色々あって、ハクロがいたと思われるダンジョンの候補にはあげていたんだけど‥‥‥」
【キュル‥‥‥そこが、私のいた場所なのかな?】
「そうでございますねぇ。姉君も我々も、群れの中に過ごせども居場所の詳細までは気にしていなかったので…‥‥とは言え、お嬢様との出会いを経て、そこがそう呼ばれる場所であるという確認ができたのございます」
説明を終え、少し冷めたお茶を入れ直しながらそう答えるベイドゥ。
以前の皇女の騒動で候補に入れていたが、どうやらほぼ確定のようだ。
「しかし…‥‥姉君に聞きますが、我々のいた群れを襲った冒険者の顔は見ましたか?」
【‥‥‥あまり良く見ていない。でも、数が多かったのは覚えている】
ふと、ベイドゥが何やら体にしている人形の顔の表情を真剣なものに変え、ハクロに問いかけて来た。
彼女や彼らがいた群れに関しては、この話の中で冒険者にやられてしまったということを聞いたが‥‥‥
【それが、どうかしたの?】
「人数が多いのは我々も把握しており、お嬢様の執事をしていても復讐の事を考えておりました。我々の群れを、卑怯な手段で襲い、焼き払うという許されざる行為‥‥‥‥その恨みは忘れてはいません。ですが‥‥‥奇妙なことに、彼らの情報が入らないのでございます」
【どういうこと?】
ベイドゥの話によれば、群れを襲った者たちへ復讐をしようという心はあったらしい。
けれども、その前に相手がどの様な者たちであったのかということを詳しく調べて見たそうなのだが、色々と奇妙なことが発覚したそうだ。
「ダンジョン内で使用してはいけないような道具を使用したことで、証拠隠滅をしたのでございましょうが‥‥‥人数が多いのであれば目撃されやすいはずなのに、どういう訳か当時のダンジョンに冒険者が入ったという記録はございましたが、3名しか入っていなかったそうでございます」
【え?でも、私襲われた時、そこまでよく見なかったけど、20以上いたはずだよ?】
「我々も、物陰ながら確認していたのでございますが‥‥‥人数が合わないのでございますよ」
当時、彼らのいた群れを襲撃したのは20人以上の冒険者たちだったらしい。
だがしかし、襲撃された当時の記録を調べて見たところ、当日にダンジョン内に入った者たちは3名程度であり、容姿に関しての情報も得たのだが、どういう訳か全員違っていた。
「…‥‥冒険者とは言いましたが、どうも正規のではなかったようでございます」
「モグリ冒険者とか、そういう類か?」
「そうでございます」
…‥‥ダンジョンに潜り込む冒険者だが、全てがしっかりと記録されているような正規の者ばかりではなく。
命知らずの完全無謀な馬鹿なども自称したりする事例があるそうで、群れを襲ったのもその自称の類に当てはまりそうなのだ。
けれども、目撃情報なども調べて見ても、そこまでの大人数が入りこんだという者もなく、何者だったのか把握し切れていないようだ。
「そのため、今後もどこにどう出るのかが不明で、依然として行方知れず。ゆえに、姉君は万が一を考えて警戒を怠らないようにしてください」
【わかった】
ベイドゥの言葉に頷くハクロ。
群れを襲撃してきた相手への復讐心は、消えることがない。
優しいハクロでも、流石に兄弟姉妹、親の敵と言うべき相手は許せないのだろうが…‥‥まぁ、気持ちが分からないわけでもないから、止めることは無い。
でも、彼女が手を汚すの嫌だし…‥‥見つけたら薬でどうにかしようかな?
そう心の中で、僕は決めるのであった。
何にしてもそこそこ時間が経過したようで、日が暮れ始める。
「っと、そろそろ寮に戻らないといけないけど…‥‥今日はこれで、話も終わったってことでいいよね?」
「ええ、そうですわね。わたくしの今回の目的は、お兄様に話をするだけでしたけれども‥‥‥ああ、前世で終わってしまった兄様の生が、ここで無事に新しく歩みだしているようで良かったですわ」
ほっとするかのように安堵の息を吐きつつ、リリはそう口にする。
「とは言え今世は血も繋がらないのですが‥‥‥‥今後は人前でないならば、お兄様と呼び続けてもいいでしょうか?」
「んー‥‥‥まぁ、良いかな。前世からの妹なら、兄の立場としては断る気もないよ」
「ありがとう、お兄様。それでは、わたくしたちもこれで去りますわね」
そう言いながら、彼女はベイドゥと共に一足先にこの場を去るのであった。
「…‥‥何と言うか、濃い一日だったなぁ」
【キュルゥ、アルスの前世の妹、私の弟たち…‥‥色々あった】
僕らもさっさとこの場を片付けつつ、ハクロの背中に乗せてもらいながら寮へ向かい、一日を振り返る。
時間はどこまで長くとは取らなかったが…‥‥不思議な縁っていうのは存在するんだなぁ。
「でも、血の繋がらなくなった妹を妹と呼んで良いのかがわからないね」
【アルス、好きなように呼べばいいと思う。私も、弟たちを弟たちと呼ぶもの】
「それもそうかな」
情報量も多かったので、今晩はゆっくりと整理しながら寝たほうがいいかなと思うのであった‥‥‥‥
「‥‥‥にしても、良いのでございますか?お嬢様、せっかく再会できたのであれば、もう少し時間をとっても‥‥‥」
「ええ、今日はこれでいいのよ。長すぎると夜になりますし、時間はまだまだありますものね」
アルスたちが帰宅に向かう一方で、リリもまたベイドゥと共に話しながら女子寮の方へ向かっていた。
「お兄様が今世で生きていて、ゆっくりと過ごせている‥‥‥前世の事を思えば、これが幸せなのだと思えますもの」
‥‥‥実はリリは、前世のことに関してアルスに話していないことがあった。
確かに、彼らは前世で兄妹関係であったが…‥‥その家に関しては、とあるものがあったのだ。
「でも、お兄様は自分自身の前世を忘れなさっているようですけれども…‥‥わたくしの場合は神様と言う方に対してお話してしまったから、覚えていることが違うのかしら?」
「それは、我々には分かりませぬが‥‥‥‥」
「分からなくてもいいのよ。そもそも、家のことに関しては私が覚えているだけで良いもの。…‥‥お兄様が辛かった時の話は、今の生で知らなくていいのよ」
前世の兄であった者の今の幸せを考えるのであれば、その話題は出さないほうがいい。
いや、そもそも前世の詳しい内容に関しては、今の彼らには不必要なものでもあるだろう。
「ああ、お兄様が今世で本当に幸せそうで良かったわ。…あのまま失っていても、血生臭かった、闇の家業をしていたあの家ならば良かったかもしれないけれど…‥‥この生で幸せにやっているのが、本当に嬉しいですわ…‥‥」
「お嬢様‥‥‥‥」
令嬢たるもの、そうそう涙を見せるものでもないかもしれないが、歓喜のあまりに涙が出そうになり、そっとベイドゥがハンカチを取り出して拭ってあげる。
素早い動きで誰にも見せなかったが、そうとう彼女にとっては嬉しい事だったようだ。
「それにベイドゥ、あなたたちにとっても姉である方と再会できたのは嬉しいでしょう?」
「そうでございますな。我々の姉が無事に生き延びていたのは朗報でございますが…‥‥姿の変化には驚かされましたなぁ」
同じ蜘蛛のモンスターだったのに、どこをどう違ったのか、ここまで変わるのかがわからない。
片や、3体で一組となり、人形を内部から操って人に成りすますのだが、もう片方が人の姿を得ているとは流石に想像していなかったのだ。
「いや、姉君の場合は…‥‥あれは、人になろうとしているのかもしれません。そして様子を見る限りでは‥‥‥お嬢様の前世の兄君に懸想しており、番になろうとしているようでございましたな」
「ええ、無理もないわね。お兄様は前世の時から、何かと惹きつけていつつも…‥‥ドが付くほど鈍かったのですものねぇ。わたくしもブラコンの自覚はありましたけれども、それを全然わかっていないというか、何と言うか…‥‥」
先ほどまで歓喜していたはずだが、当時の事を思い出すと溜息を吐くリリ。
一体どういう前世だったのかと言うところが気になるが、色々と事情はあるらしい。
「‥‥‥あれ?でも、もしもあなたの姉が、お兄様と結婚出来たらどうなるのかしら?ベイドゥ、あなたを義弟と呼ぶべきなのかしら?」
「いえ、我々はお嬢様の執事のままでございます」
前世で兄妹だったとはいえ、今世で血がつながっていないのであれば言う必要もない。
とは言え、考えると確かにそうなるかもしれないと同意できるだろう。
「何にしても、今日は充実しましたし…‥‥また、話せる機会があればゆっくりとしましょう。今度の話し合いの場までに、お兄様や将来の義姉様と言えるような方のために、良いお茶や茶菓子を用意しなさい」
「かしこまりました、お嬢様」
リリの命令に対して、深々とお辞儀をしながら了承するベイドゥ。
…‥‥ベイドゥもまた、群れをやられた時に、人間に対して強い復讐心を抱いていた。
けれども、その相手がわからない今では、こうやってその人間に対しての執事をやっている今を楽しみたいのである。
いや、むしろこの仕えている方を幸せにすることこそが、人を不幸にするしかできないような輩に対しての復讐にもなり得るかもしれないとまで思ってしまう。
「‥‥‥しかし、こうして考えると、お嬢様もその兄君様とやらも似た人生を送ってますなぁ」
同じように蜘蛛の相手を傍に置き、貴族であり、ゆっくりと過ごす。
血の繋がりが無いとはいえ、人生がこうも似るものなのかと思う。
「それなら、あなたの姉がメイドになれば丁度対比の存在になったかもしれないわねぇ」
「姉君がメイドにですか…‥‥‥ふむ、それはそれで悪くはないかもしれませぬ」
人ではなくモンスターではあるが、想像してみると似合いそうかもしれない。
「折角ですし、ここはひとつ、姉君にメイド服を送ってみるべきでございましょうか‥‥?そうですね、燕尾服を発注した全国メイド・執事協会に注文することにしましょう」
「弟から姉への贈り物が、それで良いのかしら…‥?まぁ、それでしたらわたくしもお兄様のために、何かプレゼントを用意したほうがいいかもしれませんわねぇ」
ふふふ、はははっと、主従はそろって似たような笑い声をあげ、想像して楽しむのであった…‥‥
「でも、そんな協会って存在しますの?」
「ええ、有るのでございますよ。執事やメイドに関してはいろいろと伝手が多くありましてな‥‥‥ああ、メイド服でしたら出張異界メイド商会などのほうに注文したほうがいいかもしれませぬな…‥‥」
そして、ベイドゥとの出会いなども経て、ここに来ることができたというのは良く分かった。
「と言うか、僕の人生とはまた違う方向だけど、似ているような‥‥‥」
「ふふふ、お兄様の妹ですもの。お兄様と似たようなことになってもおかしくないのですわ」
一貴族家で、蜘蛛のモンスターに出会い、日々を過ごす…‥‥前世の妹らしいが、何気に似通った人生とも言えるだろう。
違うとすれば、こちらは一匹、あちらは三匹まとめてだとか、家の違いなどもあるのだが…‥‥話も聞き終えたところで、ふと一つの疑問が浮かんだ。
「そう言えば、ダンジョンで出会ったとか言うけど‥‥‥ベイドゥのいたダンジョンって、もしかしてゲードルンっていうダンジョンか?」
「おや、既に知っているのでございますか?」
「まぁ、ちょっと前に色々あって、ハクロがいたと思われるダンジョンの候補にはあげていたんだけど‥‥‥」
【キュル‥‥‥そこが、私のいた場所なのかな?】
「そうでございますねぇ。姉君も我々も、群れの中に過ごせども居場所の詳細までは気にしていなかったので…‥‥とは言え、お嬢様との出会いを経て、そこがそう呼ばれる場所であるという確認ができたのございます」
説明を終え、少し冷めたお茶を入れ直しながらそう答えるベイドゥ。
以前の皇女の騒動で候補に入れていたが、どうやらほぼ確定のようだ。
「しかし…‥‥姉君に聞きますが、我々のいた群れを襲った冒険者の顔は見ましたか?」
【‥‥‥あまり良く見ていない。でも、数が多かったのは覚えている】
ふと、ベイドゥが何やら体にしている人形の顔の表情を真剣なものに変え、ハクロに問いかけて来た。
彼女や彼らがいた群れに関しては、この話の中で冒険者にやられてしまったということを聞いたが‥‥‥
【それが、どうかしたの?】
「人数が多いのは我々も把握しており、お嬢様の執事をしていても復讐の事を考えておりました。我々の群れを、卑怯な手段で襲い、焼き払うという許されざる行為‥‥‥‥その恨みは忘れてはいません。ですが‥‥‥奇妙なことに、彼らの情報が入らないのでございます」
【どういうこと?】
ベイドゥの話によれば、群れを襲った者たちへ復讐をしようという心はあったらしい。
けれども、その前に相手がどの様な者たちであったのかということを詳しく調べて見たそうなのだが、色々と奇妙なことが発覚したそうだ。
「ダンジョン内で使用してはいけないような道具を使用したことで、証拠隠滅をしたのでございましょうが‥‥‥人数が多いのであれば目撃されやすいはずなのに、どういう訳か当時のダンジョンに冒険者が入ったという記録はございましたが、3名しか入っていなかったそうでございます」
【え?でも、私襲われた時、そこまでよく見なかったけど、20以上いたはずだよ?】
「我々も、物陰ながら確認していたのでございますが‥‥‥人数が合わないのでございますよ」
当時、彼らのいた群れを襲撃したのは20人以上の冒険者たちだったらしい。
だがしかし、襲撃された当時の記録を調べて見たところ、当日にダンジョン内に入った者たちは3名程度であり、容姿に関しての情報も得たのだが、どういう訳か全員違っていた。
「…‥‥冒険者とは言いましたが、どうも正規のではなかったようでございます」
「モグリ冒険者とか、そういう類か?」
「そうでございます」
…‥‥ダンジョンに潜り込む冒険者だが、全てがしっかりと記録されているような正規の者ばかりではなく。
命知らずの完全無謀な馬鹿なども自称したりする事例があるそうで、群れを襲ったのもその自称の類に当てはまりそうなのだ。
けれども、目撃情報なども調べて見ても、そこまでの大人数が入りこんだという者もなく、何者だったのか把握し切れていないようだ。
「そのため、今後もどこにどう出るのかが不明で、依然として行方知れず。ゆえに、姉君は万が一を考えて警戒を怠らないようにしてください」
【わかった】
ベイドゥの言葉に頷くハクロ。
群れを襲撃してきた相手への復讐心は、消えることがない。
優しいハクロでも、流石に兄弟姉妹、親の敵と言うべき相手は許せないのだろうが…‥‥まぁ、気持ちが分からないわけでもないから、止めることは無い。
でも、彼女が手を汚すの嫌だし…‥‥見つけたら薬でどうにかしようかな?
そう心の中で、僕は決めるのであった。
何にしてもそこそこ時間が経過したようで、日が暮れ始める。
「っと、そろそろ寮に戻らないといけないけど…‥‥今日はこれで、話も終わったってことでいいよね?」
「ええ、そうですわね。わたくしの今回の目的は、お兄様に話をするだけでしたけれども‥‥‥ああ、前世で終わってしまった兄様の生が、ここで無事に新しく歩みだしているようで良かったですわ」
ほっとするかのように安堵の息を吐きつつ、リリはそう口にする。
「とは言え今世は血も繋がらないのですが‥‥‥‥今後は人前でないならば、お兄様と呼び続けてもいいでしょうか?」
「んー‥‥‥まぁ、良いかな。前世からの妹なら、兄の立場としては断る気もないよ」
「ありがとう、お兄様。それでは、わたくしたちもこれで去りますわね」
そう言いながら、彼女はベイドゥと共に一足先にこの場を去るのであった。
「…‥‥何と言うか、濃い一日だったなぁ」
【キュルゥ、アルスの前世の妹、私の弟たち…‥‥色々あった】
僕らもさっさとこの場を片付けつつ、ハクロの背中に乗せてもらいながら寮へ向かい、一日を振り返る。
時間はどこまで長くとは取らなかったが…‥‥不思議な縁っていうのは存在するんだなぁ。
「でも、血の繋がらなくなった妹を妹と呼んで良いのかがわからないね」
【アルス、好きなように呼べばいいと思う。私も、弟たちを弟たちと呼ぶもの】
「それもそうかな」
情報量も多かったので、今晩はゆっくりと整理しながら寝たほうがいいかなと思うのであった‥‥‥‥
「‥‥‥にしても、良いのでございますか?お嬢様、せっかく再会できたのであれば、もう少し時間をとっても‥‥‥」
「ええ、今日はこれでいいのよ。長すぎると夜になりますし、時間はまだまだありますものね」
アルスたちが帰宅に向かう一方で、リリもまたベイドゥと共に話しながら女子寮の方へ向かっていた。
「お兄様が今世で生きていて、ゆっくりと過ごせている‥‥‥前世の事を思えば、これが幸せなのだと思えますもの」
‥‥‥実はリリは、前世のことに関してアルスに話していないことがあった。
確かに、彼らは前世で兄妹関係であったが…‥‥その家に関しては、とあるものがあったのだ。
「でも、お兄様は自分自身の前世を忘れなさっているようですけれども…‥‥わたくしの場合は神様と言う方に対してお話してしまったから、覚えていることが違うのかしら?」
「それは、我々には分かりませぬが‥‥‥‥」
「分からなくてもいいのよ。そもそも、家のことに関しては私が覚えているだけで良いもの。…‥‥お兄様が辛かった時の話は、今の生で知らなくていいのよ」
前世の兄であった者の今の幸せを考えるのであれば、その話題は出さないほうがいい。
いや、そもそも前世の詳しい内容に関しては、今の彼らには不必要なものでもあるだろう。
「ああ、お兄様が今世で本当に幸せそうで良かったわ。…あのまま失っていても、血生臭かった、闇の家業をしていたあの家ならば良かったかもしれないけれど…‥‥この生で幸せにやっているのが、本当に嬉しいですわ…‥‥」
「お嬢様‥‥‥‥」
令嬢たるもの、そうそう涙を見せるものでもないかもしれないが、歓喜のあまりに涙が出そうになり、そっとベイドゥがハンカチを取り出して拭ってあげる。
素早い動きで誰にも見せなかったが、そうとう彼女にとっては嬉しい事だったようだ。
「それにベイドゥ、あなたたちにとっても姉である方と再会できたのは嬉しいでしょう?」
「そうでございますな。我々の姉が無事に生き延びていたのは朗報でございますが…‥‥姿の変化には驚かされましたなぁ」
同じ蜘蛛のモンスターだったのに、どこをどう違ったのか、ここまで変わるのかがわからない。
片や、3体で一組となり、人形を内部から操って人に成りすますのだが、もう片方が人の姿を得ているとは流石に想像していなかったのだ。
「いや、姉君の場合は…‥‥あれは、人になろうとしているのかもしれません。そして様子を見る限りでは‥‥‥お嬢様の前世の兄君に懸想しており、番になろうとしているようでございましたな」
「ええ、無理もないわね。お兄様は前世の時から、何かと惹きつけていつつも…‥‥ドが付くほど鈍かったのですものねぇ。わたくしもブラコンの自覚はありましたけれども、それを全然わかっていないというか、何と言うか…‥‥」
先ほどまで歓喜していたはずだが、当時の事を思い出すと溜息を吐くリリ。
一体どういう前世だったのかと言うところが気になるが、色々と事情はあるらしい。
「‥‥‥あれ?でも、もしもあなたの姉が、お兄様と結婚出来たらどうなるのかしら?ベイドゥ、あなたを義弟と呼ぶべきなのかしら?」
「いえ、我々はお嬢様の執事のままでございます」
前世で兄妹だったとはいえ、今世で血がつながっていないのであれば言う必要もない。
とは言え、考えると確かにそうなるかもしれないと同意できるだろう。
「何にしても、今日は充実しましたし…‥‥また、話せる機会があればゆっくりとしましょう。今度の話し合いの場までに、お兄様や将来の義姉様と言えるような方のために、良いお茶や茶菓子を用意しなさい」
「かしこまりました、お嬢様」
リリの命令に対して、深々とお辞儀をしながら了承するベイドゥ。
…‥‥ベイドゥもまた、群れをやられた時に、人間に対して強い復讐心を抱いていた。
けれども、その相手がわからない今では、こうやってその人間に対しての執事をやっている今を楽しみたいのである。
いや、むしろこの仕えている方を幸せにすることこそが、人を不幸にするしかできないような輩に対しての復讐にもなり得るかもしれないとまで思ってしまう。
「‥‥‥しかし、こうして考えると、お嬢様もその兄君様とやらも似た人生を送ってますなぁ」
同じように蜘蛛の相手を傍に置き、貴族であり、ゆっくりと過ごす。
血の繋がりが無いとはいえ、人生がこうも似るものなのかと思う。
「それなら、あなたの姉がメイドになれば丁度対比の存在になったかもしれないわねぇ」
「姉君がメイドにですか…‥‥‥ふむ、それはそれで悪くはないかもしれませぬ」
人ではなくモンスターではあるが、想像してみると似合いそうかもしれない。
「折角ですし、ここはひとつ、姉君にメイド服を送ってみるべきでございましょうか‥‥?そうですね、燕尾服を発注した全国メイド・執事協会に注文することにしましょう」
「弟から姉への贈り物が、それで良いのかしら…‥?まぁ、それでしたらわたくしもお兄様のために、何かプレゼントを用意したほうがいいかもしれませんわねぇ」
ふふふ、はははっと、主従はそろって似たような笑い声をあげ、想像して楽しむのであった…‥‥
「でも、そんな協会って存在しますの?」
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