転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波

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3章 学園中等部~

小話 執事は語る

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‥‥‥ことことと音を立て、ポットの湯が沸いた。

 そしてちょうどいい温度になるように調節しつつ、我々は寸分の狂いもなく、お嬢様のお茶の時間に合わせて紅茶を注ぐ。

「‥‥‥お嬢様、本日のお茶の時間でございます」
「ええ、ありがとうねベイドゥ」
「いえいえ、我々はお嬢様の執事でございますからな。このぐらい、できて当然でございますよ」

 お嬢様の元へ参り、お茶を届けて我々はそう返答する。



 エルスタン帝国の学園へ、編入されたリリお嬢様。

 かねてより考え、そして実行したとはいえ、見知らぬ異国での生活は負担になるはずである。

 それでも学びを捨てず、学習意欲をたぎらせているようで、お嬢様は提出物を片付けながらも予習復習を欠かさないようであった。


「ふぅ、美味しいわ…‥‥それにしても、ここに来て正解だったわね。帝国の教育機関は進んでいると聞いてましたけれど、これはこれで中々いい刺激になりますわね」
「そうでございますか?」
「そうよ。祖国のものもいいけれども‥‥‥異なる国での学習はね、普通に学ぶ以上に色々と学ぶことが多くなるのよ」

 貴族の作法に関しても、国ごとに微妙に異なる部分がある。

 それに、学ぶ内容にしても数学などに関しては同じところも多いが、国の歴史に関しては他国の視点から見ることが可能であり、どこでどう異なっているのかもよく学べる。

「それ以外にも、お友達もできましたけれど…‥‥ああ、この国はさっぱりしているわね」
「そうでございますね。帝国の貴族への教育内容はアンドゥラ王国よりも洗練されているのでございましょう」

 お嬢様の言葉に、我々も同意して答える。


‥‥‥お嬢様がいた、アンドゥラ王国。

 エルスタン帝国よりも歴史が浅い王国ではあるが、それでもそれなりに重みはあるはずである。

 だがしかし、そうであっても長く続く国と言うのは何処かで腐敗する者もいるようで、腐る輩が出てきてしまうのだ。

 そう言った類の輩が上層部に出てくると、トラブルが絶えないものになりやすく…‥‥その対処に苦労はさせられる。

 何故、人と言う輩はその立場に胡坐をかいていると堕落していくのやら‥‥‥‥我々では、そうなることはそうそうないというのに。

 いや、堕落していたらその時点で己の力を見ることもできず、結果として喰われていくのは変わらぬのか。


「それに、お兄様もいますからね…‥‥ああ、前世のお兄様に比べると、今世は本当に楽しそうですわ‥‥‥」

 ふぅっと安堵するかのように息を吐くお嬢様。

 お嬢様の話では、今のお嬢様になる前の、この世界に生れ落ちる前にも人生があったそうで、我々の姉君を相手をしている少年が、前世の兄らしい。

 今は血がつながらずとも、かつては繋がった仲。

 そのあたりで、色々と思うところがあるのだろうが…‥‥兄弟姉妹、何かとつながりがある相手に対して思うのも、人もモンスターも変わらぬか。

「しかし、今世は楽しそうとおっしゃってますが…‥‥前世はそこまで過酷だったのでございましょうか?」
「過酷だったというべきか、何と言うべきか…‥お兄様は全く覚えていないようですけれども、あの家は闇の家業の家…‥‥そこに深く、関わってましたもの」

 いうのであれば、間諜とかその類よりもより深い部分。

 この世界とはまた職業などは色々と違うそうだが、前世のその時点で既に相当危険な域に踏み込んでいたそうで、お嬢様はお嬢様で命の危機も感じた時があったらしい。

 けれども、そのお兄様とやらはそれでも妹であった前世のお嬢様のためにも一生懸命だったそうで、感じさせないように努力していたようだ。

 今となってからわかるようだが、遊園地と言う場所に連れて行ってもらったり、温泉宿では湯で離れさせられるけれどもともに行ってくれたり、お菓子作りでは毒見をしてくれたり…‥‥何かと世話焼きでもあった様子。

‥‥‥それ、人で言うところのオカンに近いのでは?と我々は思ったが、そうでもないようだ。


「でも、結局お兄様は亡くなって…‥‥あの時は、本当に悲しかったですわ。そして後になって、お兄様はわたくしを守ってくださっていたのを知ったのよ‥‥‥だからこそ、転生した今は、お兄様が幸せになれるようにしたいのよねぇ」

 紅茶を飲みつつ、そうつぶやかれるお嬢様。

 前世での恩を今世でしっかりと返しつつ、幸せを祈る姿はけなげに見える。

 まぁ、アンドゥラ王国ではちょっとした女傑でもあったが…‥‥あの国でお嬢様に喧嘩を売ったものたちが今の姿を見れば、驚愕するであろう。人間とは、見た目で印象を抱くようだし、その差に頭が付いていけなくなって慌てふためくかもしれない。

 
「そういえばベイドゥ、ハクロファンクラブとやらの接触は?」
「良好でございます。何かとあちらでも我々の事を探り始めたようでございますが、幸せを思うのであれば仲間であるという回答を貰いました。…‥‥しかし、良いのでございますか、お嬢様?」
「何ですの?」
「前世とやらでは血縁でしたが、今世では互いに違う国の貴族同士。互に思いあって、婚姻する手段もありそうですが‥‥‥」
「あのねぇ、ベイドゥ。いくらわたくしがお兄様を好きだとしても、そこまで行かないのよ。記憶がある分、その辺の境界は分けているのよね」

 ふむ、ここまで兄君としての彼を慕っているのであれば、婚姻なども手ではないかと思ったが、どうやらその気はないらしい。

 あくまでも純粋に、前世からの縁としてだけで支援をするようだ。

「それに、あなたの姉さんが兄様を慕っているのでしょう?むしろ、そっちの応援をしたくなるわよ」
「そういうものでございますか」



…‥‥今はハクロという名を持った姉君の想いを考えるのであれば、そうなのだろう。

 あの様子では、まだまだ想いは通じ切らずとも仲は良いようだし…‥‥本能的に番として認識している様子。

「ふむ、それはそれでいいのでございますがねぇ…‥‥‥お嬢様の兄君に、義弟と呼ばれるのは複雑でございます」
 
 そもそも、人間を血縁者にいれるような真似をして良いのかと言う疑問も抱く。

 群れを壊滅させたのも人間であれば、我々を拾いなさったのも人間であり、姉君の相手も人間。

 憎くもあればこうやって過ごし、心を理解させられることで親しみも抱く。

 そう考えると、恨みの力と言うのは長続きはしないというか…‥‥方向性は変わるだろう。

 暴力には暴力ではなく、違うもので。

 我々の場合は、お嬢様を幸せにすることで、誰かを不幸にしかできないような相手を見返すことができるはずだ。

 執事と言う道に色々あって入ったとはいえ、こうやって妙な縁も混じり合い、触れ合う事を考えると、人間の世界も悪くはない物だなと我々は思うのであった。

「…‥‥ついでに聞くけどベイドゥ、あなたの、いえあなたたちの場合は結婚願望は無いの?」
「…‥‥どうしたものかと悩むのでございます」

 3つの蜘蛛が人形を操り、執事として仕えている現状、我々の場合番探しはそれなりに大変そうである。

 そもそも、我々に似たような相手の方が好みなのだが…‥‥見つかるだろうか?

「そう考えると、姉君の方は運がいいのでございますかねぇ…」

 番探しとは結構ままならないものであり、相手を見つけたとしても、どうやって結ばれるかが課題になる物である‥‥
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