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4章 中等部後期~高等部~
4-9 暖かい時はもう間もなくで
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一時期は脱獄で騒がせたラダーの話題もあっという間に廃れていき、冬季休暇の時は過ぎてゆく。
降り積もる雪の中で、ハクロの魔法で作った雪の警備隊が踊り、領民たちが楽しみ合う祭りなどもしつつ、雪が去っていくとその姿も消していく。
徐々に気温も上がり始め、もう間もなく冬季も終え、高等部へ進学する時が近づいているだろう。
「とはいえ、やっぱり肌寒い夜もあるね。ハクロのおかげで温かいから、大丈夫だけどさ」
【キュル、私も、アルスにくっ付けて、温かい♪】
もう間もなく進学のために、学園の寮へ戻る用意をし始めつつ、今晩の寝床はほんのりと温かさを増していた。
いつもならば枕かベッドのどちらかの選択をしていたハクロだったけれども、今日は邸内に作った特注のベッドで、一緒に横になって寝ているのである。
明かりは既に消しているけれども、月明かりが少々窓から差し込んでおり、完全に真っ暗という訳でもないので互いに顔が見えるのだ。
‥‥‥一応、健全な付き合いのままなので、きちんと寝巻は来ているけどね。この時期、春風が吹こうとしている中だけど防寒は欠かせないからなぁ。
とにもかくにも、眠気もちょっとはありつつも、まだ夢の中へ向かうまで時間はある。
なので、こうやって横になり合い、互いに手を握り合いつつ、温かさを認識し合う。
「しかし、高等部になるのに…‥‥僕の身長、まだ伸びてないんだよね…‥‥薬でずるすべきか、ソレはソレで負けを認めるべきなのか」
【負けって、何に対してなの?】
「何かこう、便利なものに溺れそうな自分自身に対してかな‥‥‥」
こうやって横になるのは良いけど、僕の身長というか容姿全体が、本当に成長の兆しをあまり見せてないのが分かってしまうのは、どことなく悲しい。
出来れば彼女以上の身長にとも思っていたのに、本当に伸びていないのだ。
まぁ、この現象について以前ちょっとだけドマドン所長に調べてもらったが…‥ハクロと一緒にいることがその成長の遅さの要因かもしれないという話が出たんだけどね。
ハクロは元々周囲を癒す能力を持っており、人の体を得たり大空を飛翔できる翅を手に入れても、元からあるその能力は消えてはいない。
むしろ、魔法も扱えるようになったことで全体的な能力が向上しているのか、ちょっとした傷でも彼女の側にいるといつの間にか消えているし、疲れ果てるまで動いても体力がかなり早く回復するのだ。
その回復能力がもしかすると人間の成長・老化などにも影響を与えている可能性もあり、ゆえに彼女の側に一番いる僕自身に強く影響してしまい、成長の妨げになっている可能性があるのだとか。
とは言え、逆に言えば老化が非常に遅くなるというので、若い容姿のままでいられるという事にもなるのだろうが…‥‥うん、それでもやっぱり、きちんと成長したいとは思う。
でも、離れるのも嫌だしなぁ…‥‥完全に止まっているわけでもないので、ゆっくりと成長を待つ方がいいのかも知れない。
‥‥‥僕自身の成長が遠い未来になるという残酷な現実が見えてきそうなことはさておき、高等部になれば、いよいよ卒業の時は見えてくるだろう。
「そして卒業出来たら、男爵家当主として、その後には侯爵家にもなっていくんだよなぁ」
今はまだ男爵家だが、元をたどると侯爵家。
いきなり侯爵にするのも何なので、機会をうかがいつつ、地道に爵位を上げていくのは決まっているのである。まぁ、上げるための功績などに関しても、色々と根回しはしているらしいからね。
ただ、個人的に心配なのは、それ以上の爵位の可能性だろう。
というのも、僕自身の意思ではないとしても、皇帝陛下及びそのご家族と関わる機会がそれなりにあったからね‥‥繋がりを見て動く輩でも出てくるかもしれない不安もある。
貴族の世界は策略なども渦巻く世界でもあり、油断はできない。
いくら帝国が他国よりも洗練された貴族世界を築き上げていたとしても、完全に清らかであるとは言えないのだ。良い例というか悪い例というか、あの父のことがあるからね。
「そう思うと、ハクロの方にも何かとしてきそうな人も出るかも…‥‥大丈夫かな?」
【大丈夫、私、アルス以外の人にひっかかることない。前に、操られかけた例もあったけど、精神しっかり鍛えているしね!】
ぐっと指を立て、自信満々にそう口にするハクロ。
確かに数年前、研究所の襲撃事件の際に、暴れさせられていたこともあったけれども、ハクロ自身もきちんと成長しているのだ。
【そもそも、私に対して何かする人、いるのかな?基本、仲の良い人多いし、意地悪な人、見ないよね?】
「慣れというか、学園内で既に名物と化しているのもあるんだろうけれども、そんなに変人がいないというのも理由かもね」
異世界転生としては、こういう学園内でロクデナシの輩が出る可能性は想定していたが、帝国の学園の教育はしっかりしたものである。
どのぐらいきちんとしているのか、一応他国から編入してきたリリに対して問いかけて見たことがあったが、月とスッポン、いや、それ以上の差があるそうで、ここまで礼儀正しかったりさわやかだったりするのは他国から見れば珍しいそうで、教育はもちろん倫理や道徳が行き届いているとも言っていたのである。
そう考えると、他国の貴族とかがどの様なものなのかちょっと怖くもあるが、出くわす機会はそんなにない。
基本的に国内ばかりだし、他国へ出向くようなことも少ないからね。
後は耳に挟んだ話だと、ハクロファンクラブなる組織が…‥‥いや、その規模は既に一国を凌駕しているだとか、数か国も手中に収めているとか、裏の帝国だとか言われているものが事前に災いになりそうなものを排除して動いているという事も聞く。
そんな物があるのかと疑いたいが、以前にそれらしいのは見ているし、幻ではないのだろう。というか、ハクロのファンクラブができるのはまだ理解できるけど、流石に裏の帝国とか言われるほどはないと思いたい。真実だったら、ハクロが女王になれそうじゃん。
ツッコミどころが色々とありそうだけど、頭の隅へ追いやって、深く考えないようにしよう。
もうそろそろ眠気も強くなってきたし、今日はこのまま夢の中へ行く。
「それじゃ、お休みハクロ…‥大好きだよ」
【キュルゥ、私も、アルス、大好き‥‥‥ふふふ】
手だけでは流石に足りなかったのか、僕の側に寄ってきてぎゅっと抱きしめてくるハクロ。
良い匂いというか、柔らかいというか、安心させられるというか…‥‥うん、今日も穏やかな眠りを約束してくれるのだろう。
そう思いつつ、僕もそっと手を回し、ぬくもりを共に認識し合う。
雪の降っていた寒い季節はそろそろ去り、温かい春風がもうここで吹いていそうな一夜を過ごすのであった‥‥‥‥
‥‥‥そしてアルスとハクロが互いに安心感を抱き合い、ぐっすりと眠っていた丁度その頃。
帝国のとある機関…‥‥モンスター研究所ではなく、清濁併せ呑むために作られていた施設内では、ラダーに関しての調査が進んでおり、皇帝が訪れて報告を聞いていた。
「‥‥‥ふむ、つまり見た目通りというか、この者は誰かに体に何かを施され、モンスターと化していると?」
「ええ、そうでございますぜぇ。ただ、これはちょっとモンスターとは言い切れないというか、成りそこないの失敗作扱いとなってもいいかもしれないのですぜぇ」
皇帝の言葉に対して、この施設の責任者であるとある博士がそう回答する。
胡散臭そうな顔つきではあるが腕は確かなものでありつつ…‥‥ちょっとマッドサイエンティスト風な容姿ゆえに直視はし辛いので、皇帝はそっとガッチガチに固められた鉄格子ではなく頑丈な透明な壁の奥に、氷像のまま固まっているラダーへ目を向けた。
全身触手まみれともいえる男だが、こっちの方がまだマシである。
「陛下が以前、公認されていらしゃった、民の間では白き蜘蛛の姫とも言われる彼女とは逆の類かと思いましたが、モンスター研究所の方と連携調査したところ、それとはまったくの別物だったということが判明したぜぇ」
そんな皇帝の想いとはさておき、博士は白き蜘蛛の姫‥‥‥ハクロのことを話題に出してきた。
正妃も何かと気にかけているし、皇帝自身も色々と考えこむのだが…比較することで色々とわかることがあったらしい。
例えば、ハクロの場合はモンスターから人へなろうとしているような変化を起こしており、今回のラダーの例は人からモンスターへ変貌しようとしているようにも見えるのだが、それとは違うそうなのだ。
「彼女の場合は、自身の身体が時間をかけ、ゆっくりとなじみ合いつつ、無理のない変化を起こしているのだぜぇ。モンスターは環境によって変化したりする例もあるが、あれはあれで無理のない変化を素早く起こすものなのだぜぇ。…‥‥だが、あの触手男は違うのだぜぇ」
そう言いながら、ラダーの方へ目を向ける博士。
胡散臭さはあふれ出ているが、その顔は真剣な表情そのものだ。
「人の肉体を構成するのは、本当に小さなもので、過去の研究から細胞と呼ばれたりするのだけれども、それに異常な細工が見つかったのだぜぇ。分かりやすく言えば、そのまま生長させるための設計図に、人為的な細工が施されているようだぜぇ」
アルスがいれば、それは前世の遺伝子操作に近い物なのか、と問いかけただろう。
近いものではあるが、この世界の科学技術から考えると無理ではあるのだが…‥‥魔法がある世界だからこそ、魔法や魔道具、呪いなどによって操作は可能なようだ。
「細工か?」
「ああ、そうだぜぇ。とは言え、無理やりな変貌を物凄く短い期間でやるゆえに、体中のエネルギーを必要以上に削り、下手すると寿命そのものも削ってしまっているぜぇ。この男も今は凍って保存されているが、解凍しても持って数日だったかもしれないのだぜぇ」
それも自覚症状のないもののようで、糸が切れたように動かなくなる可能性があるらしい。
ならば、そのような細工を施したのは何者なのか、という疑問が出てくる。
「こういう技術は、他の国にあるのか?」
「無いとも言いきれないぜぇ…‥‥ただ、この手の類がいかに神の領域に至っているのか、ということぐらいは大勢が分かっているはずで、そう簡単に手を出すことはないはずだぜぇ。となると、ここまでのものを施すのであれば、そんな事も考えない馬鹿かあるいは神に対して挑む命知らずかというようなものだぜぇ。研究するにしても、生半可なものではできないだろうし…‥‥バックには、相当面倒な者がいると考えてもいいのだぜぇ」
調べれば調べる程、色々と面倒な要素が見つかってくる。
捕縛できたからこそ情報を得られるのだが…‥‥非常にどす黒いものが出てきそうで、皇帝は眉を顰める。
「‥‥‥なら、もっと調べさせよう。影やそのほか間諜なども回して、情報を集め、整理せよ」
「分かったぜぇ」
色々と関わりたくはないような、まっくろくろすけすぎる黒い話題。
だが、それでも帝国内で自由にさせるわけにはいかないので、皇帝はすぐに動き始める。
愛すべき民たちのために皇帝として、国を治める者として、守るために。
頂点に立っている立場だからこそ、惜しまずに消し去ってゆくために‥‥‥‥
降り積もる雪の中で、ハクロの魔法で作った雪の警備隊が踊り、領民たちが楽しみ合う祭りなどもしつつ、雪が去っていくとその姿も消していく。
徐々に気温も上がり始め、もう間もなく冬季も終え、高等部へ進学する時が近づいているだろう。
「とはいえ、やっぱり肌寒い夜もあるね。ハクロのおかげで温かいから、大丈夫だけどさ」
【キュル、私も、アルスにくっ付けて、温かい♪】
もう間もなく進学のために、学園の寮へ戻る用意をし始めつつ、今晩の寝床はほんのりと温かさを増していた。
いつもならば枕かベッドのどちらかの選択をしていたハクロだったけれども、今日は邸内に作った特注のベッドで、一緒に横になって寝ているのである。
明かりは既に消しているけれども、月明かりが少々窓から差し込んでおり、完全に真っ暗という訳でもないので互いに顔が見えるのだ。
‥‥‥一応、健全な付き合いのままなので、きちんと寝巻は来ているけどね。この時期、春風が吹こうとしている中だけど防寒は欠かせないからなぁ。
とにもかくにも、眠気もちょっとはありつつも、まだ夢の中へ向かうまで時間はある。
なので、こうやって横になり合い、互いに手を握り合いつつ、温かさを認識し合う。
「しかし、高等部になるのに…‥‥僕の身長、まだ伸びてないんだよね…‥‥薬でずるすべきか、ソレはソレで負けを認めるべきなのか」
【負けって、何に対してなの?】
「何かこう、便利なものに溺れそうな自分自身に対してかな‥‥‥」
こうやって横になるのは良いけど、僕の身長というか容姿全体が、本当に成長の兆しをあまり見せてないのが分かってしまうのは、どことなく悲しい。
出来れば彼女以上の身長にとも思っていたのに、本当に伸びていないのだ。
まぁ、この現象について以前ちょっとだけドマドン所長に調べてもらったが…‥ハクロと一緒にいることがその成長の遅さの要因かもしれないという話が出たんだけどね。
ハクロは元々周囲を癒す能力を持っており、人の体を得たり大空を飛翔できる翅を手に入れても、元からあるその能力は消えてはいない。
むしろ、魔法も扱えるようになったことで全体的な能力が向上しているのか、ちょっとした傷でも彼女の側にいるといつの間にか消えているし、疲れ果てるまで動いても体力がかなり早く回復するのだ。
その回復能力がもしかすると人間の成長・老化などにも影響を与えている可能性もあり、ゆえに彼女の側に一番いる僕自身に強く影響してしまい、成長の妨げになっている可能性があるのだとか。
とは言え、逆に言えば老化が非常に遅くなるというので、若い容姿のままでいられるという事にもなるのだろうが…‥‥うん、それでもやっぱり、きちんと成長したいとは思う。
でも、離れるのも嫌だしなぁ…‥‥完全に止まっているわけでもないので、ゆっくりと成長を待つ方がいいのかも知れない。
‥‥‥僕自身の成長が遠い未来になるという残酷な現実が見えてきそうなことはさておき、高等部になれば、いよいよ卒業の時は見えてくるだろう。
「そして卒業出来たら、男爵家当主として、その後には侯爵家にもなっていくんだよなぁ」
今はまだ男爵家だが、元をたどると侯爵家。
いきなり侯爵にするのも何なので、機会をうかがいつつ、地道に爵位を上げていくのは決まっているのである。まぁ、上げるための功績などに関しても、色々と根回しはしているらしいからね。
ただ、個人的に心配なのは、それ以上の爵位の可能性だろう。
というのも、僕自身の意思ではないとしても、皇帝陛下及びそのご家族と関わる機会がそれなりにあったからね‥‥繋がりを見て動く輩でも出てくるかもしれない不安もある。
貴族の世界は策略なども渦巻く世界でもあり、油断はできない。
いくら帝国が他国よりも洗練された貴族世界を築き上げていたとしても、完全に清らかであるとは言えないのだ。良い例というか悪い例というか、あの父のことがあるからね。
「そう思うと、ハクロの方にも何かとしてきそうな人も出るかも…‥‥大丈夫かな?」
【大丈夫、私、アルス以外の人にひっかかることない。前に、操られかけた例もあったけど、精神しっかり鍛えているしね!】
ぐっと指を立て、自信満々にそう口にするハクロ。
確かに数年前、研究所の襲撃事件の際に、暴れさせられていたこともあったけれども、ハクロ自身もきちんと成長しているのだ。
【そもそも、私に対して何かする人、いるのかな?基本、仲の良い人多いし、意地悪な人、見ないよね?】
「慣れというか、学園内で既に名物と化しているのもあるんだろうけれども、そんなに変人がいないというのも理由かもね」
異世界転生としては、こういう学園内でロクデナシの輩が出る可能性は想定していたが、帝国の学園の教育はしっかりしたものである。
どのぐらいきちんとしているのか、一応他国から編入してきたリリに対して問いかけて見たことがあったが、月とスッポン、いや、それ以上の差があるそうで、ここまで礼儀正しかったりさわやかだったりするのは他国から見れば珍しいそうで、教育はもちろん倫理や道徳が行き届いているとも言っていたのである。
そう考えると、他国の貴族とかがどの様なものなのかちょっと怖くもあるが、出くわす機会はそんなにない。
基本的に国内ばかりだし、他国へ出向くようなことも少ないからね。
後は耳に挟んだ話だと、ハクロファンクラブなる組織が…‥‥いや、その規模は既に一国を凌駕しているだとか、数か国も手中に収めているとか、裏の帝国だとか言われているものが事前に災いになりそうなものを排除して動いているという事も聞く。
そんな物があるのかと疑いたいが、以前にそれらしいのは見ているし、幻ではないのだろう。というか、ハクロのファンクラブができるのはまだ理解できるけど、流石に裏の帝国とか言われるほどはないと思いたい。真実だったら、ハクロが女王になれそうじゃん。
ツッコミどころが色々とありそうだけど、頭の隅へ追いやって、深く考えないようにしよう。
もうそろそろ眠気も強くなってきたし、今日はこのまま夢の中へ行く。
「それじゃ、お休みハクロ…‥大好きだよ」
【キュルゥ、私も、アルス、大好き‥‥‥ふふふ】
手だけでは流石に足りなかったのか、僕の側に寄ってきてぎゅっと抱きしめてくるハクロ。
良い匂いというか、柔らかいというか、安心させられるというか…‥‥うん、今日も穏やかな眠りを約束してくれるのだろう。
そう思いつつ、僕もそっと手を回し、ぬくもりを共に認識し合う。
雪の降っていた寒い季節はそろそろ去り、温かい春風がもうここで吹いていそうな一夜を過ごすのであった‥‥‥‥
‥‥‥そしてアルスとハクロが互いに安心感を抱き合い、ぐっすりと眠っていた丁度その頃。
帝国のとある機関…‥‥モンスター研究所ではなく、清濁併せ呑むために作られていた施設内では、ラダーに関しての調査が進んでおり、皇帝が訪れて報告を聞いていた。
「‥‥‥ふむ、つまり見た目通りというか、この者は誰かに体に何かを施され、モンスターと化していると?」
「ええ、そうでございますぜぇ。ただ、これはちょっとモンスターとは言い切れないというか、成りそこないの失敗作扱いとなってもいいかもしれないのですぜぇ」
皇帝の言葉に対して、この施設の責任者であるとある博士がそう回答する。
胡散臭そうな顔つきではあるが腕は確かなものでありつつ…‥‥ちょっとマッドサイエンティスト風な容姿ゆえに直視はし辛いので、皇帝はそっとガッチガチに固められた鉄格子ではなく頑丈な透明な壁の奥に、氷像のまま固まっているラダーへ目を向けた。
全身触手まみれともいえる男だが、こっちの方がまだマシである。
「陛下が以前、公認されていらしゃった、民の間では白き蜘蛛の姫とも言われる彼女とは逆の類かと思いましたが、モンスター研究所の方と連携調査したところ、それとはまったくの別物だったということが判明したぜぇ」
そんな皇帝の想いとはさておき、博士は白き蜘蛛の姫‥‥‥ハクロのことを話題に出してきた。
正妃も何かと気にかけているし、皇帝自身も色々と考えこむのだが…比較することで色々とわかることがあったらしい。
例えば、ハクロの場合はモンスターから人へなろうとしているような変化を起こしており、今回のラダーの例は人からモンスターへ変貌しようとしているようにも見えるのだが、それとは違うそうなのだ。
「彼女の場合は、自身の身体が時間をかけ、ゆっくりとなじみ合いつつ、無理のない変化を起こしているのだぜぇ。モンスターは環境によって変化したりする例もあるが、あれはあれで無理のない変化を素早く起こすものなのだぜぇ。…‥‥だが、あの触手男は違うのだぜぇ」
そう言いながら、ラダーの方へ目を向ける博士。
胡散臭さはあふれ出ているが、その顔は真剣な表情そのものだ。
「人の肉体を構成するのは、本当に小さなもので、過去の研究から細胞と呼ばれたりするのだけれども、それに異常な細工が見つかったのだぜぇ。分かりやすく言えば、そのまま生長させるための設計図に、人為的な細工が施されているようだぜぇ」
アルスがいれば、それは前世の遺伝子操作に近い物なのか、と問いかけただろう。
近いものではあるが、この世界の科学技術から考えると無理ではあるのだが…‥‥魔法がある世界だからこそ、魔法や魔道具、呪いなどによって操作は可能なようだ。
「細工か?」
「ああ、そうだぜぇ。とは言え、無理やりな変貌を物凄く短い期間でやるゆえに、体中のエネルギーを必要以上に削り、下手すると寿命そのものも削ってしまっているぜぇ。この男も今は凍って保存されているが、解凍しても持って数日だったかもしれないのだぜぇ」
それも自覚症状のないもののようで、糸が切れたように動かなくなる可能性があるらしい。
ならば、そのような細工を施したのは何者なのか、という疑問が出てくる。
「こういう技術は、他の国にあるのか?」
「無いとも言いきれないぜぇ…‥‥ただ、この手の類がいかに神の領域に至っているのか、ということぐらいは大勢が分かっているはずで、そう簡単に手を出すことはないはずだぜぇ。となると、ここまでのものを施すのであれば、そんな事も考えない馬鹿かあるいは神に対して挑む命知らずかというようなものだぜぇ。研究するにしても、生半可なものではできないだろうし…‥‥バックには、相当面倒な者がいると考えてもいいのだぜぇ」
調べれば調べる程、色々と面倒な要素が見つかってくる。
捕縛できたからこそ情報を得られるのだが…‥‥非常にどす黒いものが出てきそうで、皇帝は眉を顰める。
「‥‥‥なら、もっと調べさせよう。影やそのほか間諜なども回して、情報を集め、整理せよ」
「分かったぜぇ」
色々と関わりたくはないような、まっくろくろすけすぎる黒い話題。
だが、それでも帝国内で自由にさせるわけにはいかないので、皇帝はすぐに動き始める。
愛すべき民たちのために皇帝として、国を治める者として、守るために。
頂点に立っている立場だからこそ、惜しまずに消し去ってゆくために‥‥‥‥
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