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4章 中等部後期~高等部~

4-10 高等部と書いても、実感としては

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…‥‥冬季休暇も終え、春風が吹いて花が咲き誇りだす季節。

 エルスタン帝国の学園も新年度を迎え、入学直後の学力測定のためのテストを新入生たちは受けていた。

 テスト中の間に、カンニングなどが無いように教師が見回ることがあるだろう。

 とは言え、それでも盗み見ようと悪だくみする輩もいるのだが、今年はそうは問屋が卸さなかった。


じーーーーーーっ
「「「「‥‥‥」」」」

 思いっきり感じる視線によって、ズルをしようとしていた新入生たちは背中に冷や汗をかく。

 今まさに、ちょっと他人の回答を盗み見ようとしていた瞬間に、強い視線を感じ取ったのだ。

 何が見ているんだと思い、ふと上からの視線だと気が付き、顔を向け、彼らは即座に手元の解答用紙の方へ顔を戻した。

((((なんか目が合った!!ヤッヴァイ感じの人形が、ずらっと見ていた!!))))

 世のなか気が付かないほうが良い事もあるのだが、どうやらそれはその一例らしい。

 というのも、彼らが視線を向けた先にある天井には‥‥‥‥無数の目玉が見開いていたのであったからだ。

じいいいいいいいいいいい!!
((((ひいいいいいいいぃぃぃぃぃl!!))))

 正体は不明だが、ズルは絶対に許さないというようにかけてくる視線の圧力に、ズルを目論んでいた生徒たちは非常に後悔する。

 テストが終わるまでの間中ずっと圧力をかけられ、以降は品行方正な姿勢を貫き通し、真面目になっていくのであった…‥‥






【‥‥‥キュル、上から見るだけに見せかける人形、ちょっと効きすぎたかも?なんか、汗びっしゃりだったよ】
「無理もないとは思うけどね‥‥‥‥でもまぁ、この手が使えるのならそれはそれでいいかも」

 お仕置き顧問という役目も持っているハクロが、操作をしていた人形たちの様子をそう口にする。

 この新入生たちの学力テストにおいて、そこそこ出てしまう問題児たちをどうにかできないかという話が前々からあったが、今回ちょっと解決策になりそうな手段を提案したのである。

 それがこの「天井びっしり百目人形監視作戦」。

 某妖怪少年の父親をモデルにした目玉の人形を、できるだけ気配を薄くさせつつ、貼り付けまくった。

 後はハクロが魔力の糸を繋げ、怪しい動きをした人がいれば瞼を開閉させて視線を感じさせ、自らの罪の自覚をじっくりと認識させる手ではあったが‥‥‥どうやら思いのほかうまくいったらしい。

 ただまぁ、これ問題は片付ける時なんだけどね。

 何しろ、そのテスト用の部屋の天井にびっしり作ったからなぁ…‥‥作りものだとしても、それが大量にある光景はどんなホラーだと言いたくもなる。

「とは言え、こういう視線を利用した監視手段は効果的だし、今後は先生たちにも操作できるように、ちょっと改造したものを送るのもいいか」
【全部繋げてみる?】


 今回限りの試作品なのももったいないし、これは学園に寄付をすることにしよう。

 そう思いつつ、僕らは回収作業へと移り始めるのであった…‥‥










‥‥‥ところ変わって、ここは学園外のとある貴族街。

 貴族たちが自分の子息たちがきちんと学んでいるかどうかを確認したり、気になって出来るだけ近くで過ごそうとする別荘としての役目を持つ邸が多い中、とある邸内に集まる者たちがいた。


「‥‥‥そうか、奪還は無理か」
「そのようだ。この周辺にもあちこちで警戒態勢が開かれ、油断できない状況であり、失敗作の回収も無理だろう」

 円卓上に報告書が出され、その内容を読みつつ、彼らはそう口にしあう。

「だが、失敗作からはそうそう情報が漏れることはあるまい。あれは単純に、我々の作ったものがどの様な効果を発揮するかどうかを試すために、後先考えないようないなくなっても困らない大馬鹿者を選んだからな」
「むしろ、都合よくそんな人材がいてよかったな‥‥‥‥この帝国内には、本当に腐った輩が少なくて、実験しにくいからなぁ」

 帝国内の政治的な意味合いでの清掃や、きちんとした倫理や道徳が行き届いているからこそ、そうそう馬鹿な事をしでかすような輩がいない。

 他国であればそれなりに存在しており、ちょっとした誘惑などによって見事に手駒として扱えるのだが‥‥‥帝国内では都合よく見つからず、いたとしても既に帝国外に出ていたりするのである。

「とは言え、人体実験としては失敗作だが、これはこれで囚人たちや都合の悪い奴らを材料にして兵士を作れることができる証明にはなっただろう。後は、帝国の兵力を色々と探りたいところだが‥‥‥」
「難しい‥‥‥兵士たちの練度は高く、こちらが観察しようにも気配を悟られやすいからな」
「攻める際に必要な情報なのに、そこが集まりにくいのは辛い所だ」

 はぁぁっと溜息を吐きつつも、彼らは自分たちの目的を諦める気はない。

 まぁ、そもそも上からの命令をこなしているだけなので、それがどういう結果を招こうが特に気にすることは無い。

 やるのであればそれは上の人達が実行することであり、自分達はその為の情報を提供するに過ぎない存在であると理解しているのである。

「何にしても、集める中で欠かしてはいけない情報があるという命令も下っていたな」
「ああ、確かゲシュタリアとかいう若造が偉そうに命じていたが…‥‥それがどれだけ重要なのか、こちらもわかるものだ」
「白き蜘蛛の姫…‥‥彼女が帝国側についた場合、戦争になって争えばそれこそ勝ち目はないと言えるからな」

 彼らの話題に出てきたのは、この帝国内でたびたび噂になる白き蜘蛛の姫。

 元は大きな蜘蛛の少女という話があったが、気が付けば空を飛んでいたり魔法を扱えていたり‥‥‥噂になればなるほど、色々とツッコミどころが多くなってくる。

 けれども、その情報が的外れなものというわけでもなく、彼らの上の人達にとっては非常に脅威になる存在であるということぐらいは分かっている。

「一番良いのは、事を起こす前に手中に収めることだが‥‥‥ダメか」
「ああ、無理すぎる、周囲からかなり守られているようだし、下手に手を出そうとしても返り討ちに遭う未来しか見えないからな」

 ハクロファンクラブとか言う組織も存在しており、それらを敵に回す厄介さを、情報を集めていくにつれて理解させられる。

 そもそもの話、無理やりいう事をきかせられるような手段もないし、実行できたとしても彼女の能力が高すぎて、どう考えても歯が立たないのだ。

「人質として、蜘蛛の姫の相手とされる少年を狙う事からと思ったが、ソレはソレで無理だな」
「そもそも蜘蛛の姫と四六時中一緒だからなぁ‥‥‥‥離れている場面もあるが、容易くいかないぞ」

 流石に入浴中や授業中では離れていることはあるらしいが、それでも隙らしい隙が見つからない。

 それでもどうにかしなければいけない問題として、後回しができないのを分かっているがゆえに、頭が痛くなろうとも手段を考えなければいけない。

「何か、目を引くような陽動で隙を作るという手もあるが…‥‥その方法でも、こちらに目を付けられる可能性はある」
「何で、上のやつらはこのヤヴァイことを知りつつも、全然理解してくれないのだろうか」
「諦めろ、他人の思考というのは、本当に理解できないからな‥‥‥」


 あちこちで春風が吹く中、不穏な風も吹こうとしている。

 けれどもその前に、まずはどうやって風を吹かせようかと悩みまくっている様子であった‥‥‥‥

「それはそうと、その手に持っている品々は何だ?全部白き蜘蛛の姫関連ではないか?」
「ああ、ファンクラブの市とやらに出向いて、嵌ってしまって‥‥‥前借した給料も使ってしまった」
「破産させるためにおびき寄せられただけではないか‥‥?」
「それをする時点で、既にバレていないか?」

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