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4章 中等部後期~高等部~

4-47 お休みとは言い切れない時間ではあったが

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 夏の日差しも徐々に収まり始め、もう間もなく終わりの時が来るだろう。

 日の長い時間もだんだん短くなってきて、次第に夜が迫りくる。

「でも、なる前に予定地点に着けばいいだけの話だけど‥‥‥ハクロ、もうそろそろ減速してほしい」
「わかったよー!」

 ごうっと周囲があっという間に流れていた光景が緩められ、慣性で進む状態へ変わりゆく。

「んー、結構飛んだけど、このぐらいでいいの?もっとギリギリで出ても、間に合うと思う、キュル」
「全速力で向かうのも良いけど、余裕をもって道中の景色を眺めたいからね。そこまで速度を出さなくていいんだよ」

 首をかしげて考えるハクロに対して、僕はそう答えた。


 

‥‥‥夏季休暇がうもう間もなく終わりに近づき、僕らは帝都の学園へ帰還しに向かっていた。

 牧場経営の状態も試験結果としてはまずまずであり、本格的な運用計画を少し早めることにして領内での仕事を終え、こうやっても帰還の旅路についているのだが、空の旅路というのはやっぱり陸路とは違う味わいを感じさせられる。

 蜘蛛の体が合ったハクロの背中に乗せてもらっていた時も良かったが、こうやってちょっと某妖怪少年カラス移動風味の移動方法も面白いものだ。

 そう思いつつも急ぐ旅路でもないので、今晩の野宿の予定地点へ近づいてきたところで速度を落としてもらったが、大空から見る景色は中々爽快なものである。

 晴れていてよかったなぁ…‥‥大雨などは悲惨なことになりかねない移動方法だから、テルテル坊主を作って祈っておいて良かったかもしれない。

 
 何にしても予定地点まで近づいてきたところで高度を落とし始め、ゆったりと着陸態勢へ移ろうとしていた時だった。

「キュル、アルスとの空の旅♪空間から糸出してぶら下げて、重くもないし近づける♪楽しい空の‥‥‥キュル?」
「ん?どうしたの、ハクロ」

 適当な歌を口ずさんで楽しんでいたところで、ふとハクロが何かに気が付いた。

「んー‥‥‥なんかちょっと向こう、変な煙出ているよ?」
「あそこかな?‥真っ黒な煙だね」

 何かが燃やされているようだが、真っ黒な煙というのはちょっとおかしいやつだ。

 普通の焚火などだと白いのだが、あの手の煙だと何かが勢いよく燃えすぎて酸素が足りていないとかそういう話を聞いたことがある。

「ハクロ、近づけるかな?」
「わかった」

 ぶわっさと減速していたところで大きな翼を羽ばたかせ、煙の出る場所へ向かって加速する。

 そしてその現場に近づくにつれ、何が起きているのか目に入って来た。

「…‥‥盗賊か。しかも、馬車を襲うやつか」
「帝国内で、盗賊、珍しいかも」

 帝国の治安はかなり良く、盗賊被害も結構少ない。

 だがしかし、それでも完全に国内から消すことはできておらず、国外から流れ着くこともあるのだが、この様子を見る限りその国外の盗賊団でも押し寄せてきた可能性があるだろう。

 放置しておくと他の領地に来るだろうし、ここで根絶する必要がある。

「ハクロ、いけるかな?」
「大丈夫!このぐらいなら、捕らえられるよ!」

 とにもかくにも、盗賊団を根絶する目的と襲われている人たちの救助も兼ねて、僕らは急ぐのであった‥‥‥








「くぅ!!まさか盗賊に襲われるとは、不覚だな!!」
「帝国内に流れ着くとは、なんというものだ!」

 盗賊団に襲われる中、その襲われている中で反撃を試みている者達‥‥‥本来は思いっきり護衛対象として守られるべきはずの第2皇子のダニエルが剣を振りかぶってそう叫ぶと、護衛の騎士はそう答えた。

「というかダニエル皇子!積極的に出てこないでください!!剣の腕前が高いのは分かっていますが、守るべき人が積極的に出てどうする気ですか!!」
「黙れ!帝国を支える父上の子として産まれた身としては、帝国の民たちへ害をなす盗賊たちを身をもって倒さなければ駄目ではないか!!守るべきものは上の者ではなく支えてくれている下の者たちであり、いなければ国が成り立たないからな!!」
「本音は?」
「全力でやって、ちょっとはいい刺激がないかなぁっと思っている!!」
「「「「単純に傷つけられる被虐性癖を満たすためじゃないかぁぁぁぁあ!!」」」」

 盗賊たちと応戦しつつ、護衛の騎士たちは声をそろえてツッコミを入れる。

 良い事を言っているようでありながらも、その本心をまったく隠す気のない皇子に思わず呆れてしまった。

「だが、こうやって相手をするとやっぱやらなきゃよかった!!綺麗な女王とかそう言う相手なら良いのだが、むさくるしい男どもだと気分が乗らん!!‥‥‥あ、でもこれはこれで」
「おい、本当にこの馬車襲って良い奴だったか!?不味い変態を引き当てた気がするぞ!!」
「帝国の皇子となれば、こちらの身も危ないが、人質にできればいい金づるになるぞ!!‥‥‥でもちょっと、度が過ぎた変態の匂いがして駄目な気もするなぁ!!」

 皇子の様子を見て、襲っていた盗賊たちも思わずそう口にしてしまう。

 ツッコミ役が不在の中で混戦としていたのだが‥‥‥その中で、盗賊の一人が騎士たちを奇跡的にかいくぐり、皇子のもとへ辿り着く。

「うぉぉぉ!!なんか怖い変態皇子様のようだが、とったぁ!!ココで大人しくしやがれぇぇ!!」
「「「「皇子!!」」」」
「しまった!!」

 一生の不覚と言いそうな表情と、これはこれで刺激としては強いのではないかというような表情を浮かべる皇子に対して、刃が向けられようとしていた…‥‥その時だった。


「シュルルルルルルキィィィック!!」
「ぶげぇっばぁぁぁあ!?」
「ああ、なんか羨ましい攻撃が!?」

 刃を振り下ろそうとしていた盗賊の顔面目掛けて、強烈な蹴りがさく裂し、吹っ飛んだ。

 その様子を見て思わず自身の正直な気持ちを叫ぶ皇子ではあったが、直ぐに何事なのかと状況を確認する。

「っと、翼の生えた女性‥‥‥いや、女王様というべき華麗な蹴りの貴女は?」
「私?女王じゃなくて、アルスのお嫁さんなの!」

 皇子の問いかけに対して答えつつ、宝石のような翼を羽ばたかせる女性。

 手の先から糸を飛ばし、盗賊たちへ巻き付けていく。

「アルス、薬!」
「わかっているよ!!眠り薬たっぷりと生成済みだ!!」

 そしてその女性の側にはいつの間にか少年と呼ぶべき子供がおり、縛り上げられた盗賊たちへ向かって尽きることが無いような薬瓶を投げ、次々に眠りへ落としていく。

 そしてものの数分後には、盗賊たちは全員捕縛完了していたのであった…‥‥
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