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力の差
#57 忍び寄る悪は先に手を打つのデス
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SIDEとあるパーティリーダであった男
……見つけた。ついに見つけたぞ。
その男は欲望と歓喜が入り混じった声を、心の中で密かに繰り返しあげた。
目の前に見えるのは、あの時に見つけた、とあるアラクネである事は間違いないであろう。
そう、彼がかつていたパーティの解散のきっかけになった、傾国の美女、いや解散の美女と言うべき様な相手である事を‥‥‥
――――――――――――――――
つい数ヶ月ほど前、いや、数年前であったのだろうか?そのあたりはよく思い出せない。
だがしかし、その時までは、彼は人生の絶頂期と言うべきところにいた。
性格や素行に色々と問題があったとはいえ、実力だけは高かったパーティを結成しており、自由気ままに楽しんでいたのだ。
何かあろうとも力で脅し、繋がった腐れ貴族に頼んで権力でもみ消し、表向きではまだ妬まれる程度で、裏ではやらかしまくっていたのだが…‥‥
そんなある日、彼らはとある依頼を受注した。
それは、あるモンスターの群れがあり、被害が確認されたために、全ての討伐を頼みたいという物。
その群れの種族はアラクネ。人間の女性の身体を持ちつつも、下半身に蜘蛛の身体をもつ、残虐非道、冷徹なモンスターという話である。
とはいえ、見た目はそれなりに麗しいのも多いため、できれば剥製にしておきたいという要望もあったので、彼らはその依頼を受けることにした。
適当に捕まえたチンピラを適当な金で買収し、アラクネの群れがいる場所の近くを歩かせる。
そして、あるアラクネがそのチンピラを見つけ、種の繁栄やその他欲望のために巣へ持ち帰るところまで彼らは見とどけた。
そして、そのチンピラをアラクネたちが集まっていろいろやってしまおうとしていたところで……あらかじめ持たせていた、火薬に遠距離から小さな火の魔法で引火し、アラクネたちが気が付く前に爆発させたのである。
もちろん、チンピラの方には説明しておらず、ただのお守りみたいなものであると言っただけなので、あっけなくチンピラは犠牲となり、そして集まっていたアラクネたちはその爆発に巻き込まれ、混乱していた。
……そしてそのタイミングで、彼らは一気に奇襲を仕掛ける。
混乱していたアラクネの群れは統制がとれず、反撃しようと動いていたが、確実に一体ずつ仕留めていく。
森の中に出来ていた群れなので、まともに戦えば地の利はアラクネの方にあっただろう。
けれども、この爆発の混乱、奇襲によって思うように動けないようであり、地の利が生かされることはなかった。
そして、最後の一体‥‥‥アラクネマザーと呼ばれるような大型のアラクネを討伐し、これで終わりかと思っていたところで……彼らは気が付いた。
まだ、一体残っていたことに。
【あううううっ‥‥‥】
物凄い涙目になり、群れの死体と化した仲間の手を取り、慌てふためいている容子。
亜種なのか、色がどうも他のアラクネと異なって全体的に白く、なんにしてもこのアラクネを狩れば本当に終わりかと思っていたが…‥‥そこで彼らは、そのアラクネの容姿をまともに見た。
他の反撃しようとしてきたアラクネたちは全体的に黒く、残忍そうな眼付きで、明かに血の匂いがするような、おぞましさがあった。
だが、どういう訳だろうか。
目の前に涙目であたふたしているこのアラクネは、そのアラクネたちとは異なっている。
匂うとしても血や男のものではなく、花の蜜や野花といった柔らかい香り。
そして、その美しさは他のアラクネたちとは圧倒的に群を抜いており、人間でもこれだけの美女は泣かないない、相当素晴らしすぎる容姿だったのだ。
その美しき容姿を見て、彼らは絶句する。
このまま、このアラクネを討伐して良いものなのかと迷いが出る。
何しろ相手はしょせんモンスターであり、他のアラクネとは色々と異なっているようだが、それでも討伐対象である。
だが、その容姿は惜しい。殺害し、剥製にしてしまえば良いのかもしれないが、それでは「生きている美しさ」と言うものが損なわれ、二度と手に入らないかもしれないのだ。
ならばどうするか‥‥‥‥短い間に考え、そして答えが出た。
ああ、だったら自分の慰み者にしてやればいいじゃないかと。
聞く話によれば、モンスターや動物の中には、人と契約して使い魔になったりするようなものがある。
ならば、このアラクネも同じようにしてやり、そして夜の世話をさせれば良いと。
だが、この美しさは独占したい。
色欲、強欲に狩られ、とりあえずはそのアラクネを捕縛しようと彼が動いたその時……他の仲間たちが動き出した。
彼のパーティメンバーで有り、結束していた仲間。
だが、彼らもまた彼同様にアラクネの利用方法を考え、動いたのだ。
そして独占し、己のモノにするために、彼らは争った。
…‥‥そして数時間後、彼が何とか勝利したその頃には、そのアラクネの姿は消え失せていた。
あれは幻だったのだろうか?否、幻ではない。
逃亡したのだと思い、後を追おうとしたが、メンバーとの争いで彼自身も深く傷ついており、動くことができなかった。
数日が経過した時に、偶然にも他の冒険者たちが通りかかり、彼らは救助された。
その頃には、討伐したアラクネの群れは全て野生の獣たちによって奪われ、捕食されてしまい、結局彼らは何も得る事が出来なかった。
討伐はできても、仲違いをし、争ったメンバーでは、もうこの先やっていくことはできない。
そして、ギクシャクとした関係を続け、すぐに彼らは解散し、ソロになった。
‥‥‥それからは、語るまでもなく、あっという間の転落人生であった。
仲間がいたときにできた依頼もできなくなり、どんどん失敗が続き、酒におぼれ始め、喧嘩によって顔に大きな傷が残り、治療しても残ったままで、そしてまた増えていく。。
貯めてきた金も使い潰していき、借金が増加していく。
次第に冒険者としてふさわしくない行動をとり続け、乱暴になっていく。
他の冒険者たちは、どこまで堕ちるのか賭け事をしているようだが‥‥‥それでも彼はどうしようもない。
新たにメンバーを集め、結成しようにも評判は地に落ちており、誰も組んではくれない。
新人が来て、仲間にしようとしても他のパーティに取られ、力づくでしようとしたら返り討ちに会うまで自身の力は落ちていた。
ああ、今日の招集はつまらないものであると、もはや荒み切ったその心持で、本日彼はその招集場所へ向かい…‥‥そして、その場で見つけてしまったのであった。
――――――――――――――――――――――――
‥‥‥これは運命か、それとも神のいたずらか。
何にしても今、彼は心の中で歓喜を上げるのみである。
かつて討伐できず、モノにしようとした絶世の美女が、何の因果なのかこの場にいるのだ。
今すぐにでも、力づくでモノにしたい。そして美女を使って仲間を呼び戻し、再び栄光を取り戻したい。
だが、どうもその美女は、アラクネは今、使い魔となっているらしい。
なぜだ!!自分はできなかったことを、なぜあの彼女を使い魔に出来ているのだ!!
彼の怨嗟は、そのハクロという名になったアラクネと共に居る青年、魔法屋のシアンという人物へ向けられる。
それはもしかしたら、彼が得られたかもしれない場所。
美女が手元におり、使い魔として自分の好き勝手にできそうな、素晴らしい場所。
そこにいるべきなのは自分なのに、なぜあのような魔法屋に彼女は仕えているのだろうか。
ああ、もしやあの後魔法とかであの美女は操られ、使い魔にされてしまったのではなかろうか。
そして夜な夜な泣くような事になっているのではなかろうか。
そうであるならば、自分が彼女を救わねばならぬ。
ああ、そして彼女を手に入れられる資格を持つのは自分で有り、再びかつての栄光を取り戻せるはずだ!!
‥‥‥もはや自分勝手、自己中心的、ご都合主義な腐れ頭と化した彼は、その思考で頭が埋め尽くされる。
だが、今の自分の実力ではどうしようもない事を流石には理解していた。
しかし、諦めることはできない。
そう、もはや彼にとってはそのアラクネを手に入れ、自分はかつてのパーティメンバーといた時以上の栄光をつかむ未来しか、妄想できないのだから。
‥‥‥そして、彼は愚かな手段を行う。
それこそ、彼の滅びを導くモノであると知らずに、彼はただ、自分の都合の良いようにしか解釈せずに動くのだ…‥‥
――――――――――――――――――――
SIDEシアン
‥‥‥とりあえず、20人ほどは相手をしただろうか。
「とは言え、全然疲れないというか、パターン化したよな」
【それもそうですよねぇ。シアンの魔力量もちょっとおかしいですが、それでも皆あっという間に蹴散らしてますからね】
それもそうである。
何しろ、ゲルグ以降の冒険者たちは魔法をかわそうとしたり、あるいは接近戦を挑もうとして動くのだが、デルタリアンさんの合図とともに僕は素早く魔法を放ち、あっという間に戦闘不能にしているのだ。
接近されたとしても、今回はハクロと一緒にやっているので、彼女によって運ばれ、素早くよけたり、上から奇襲をかけるなどの先方が取れて、現状無敗なのである。
ワゼは‥‥‥まぁ、彼女が参加すれば、それこそ阿鼻叫喚地獄になりそうなので、今の所は後方で応援をしてもらうのみだ。
時折喉の渇きが出たら、飲み物を持ってきてくれるのは良いだろう。
「んー、でもだいぶもう倒したかな?デルタリアンさん、これでそろそろ終わりですかね?」
「ああ、もう終わりであります。まだ数人は残っているでありますが、あれは見学の方を希望したので、対象外なのでありますよ。にしても、魔法をバンバン使いながらも、未だに平気そうな顔なんて……どれだけ魔力に余裕があるのでありますか?できればこの後、依頼達成確認と同時に、冒険者登録もしてほしい所でありますが‥‥‥」
「いえ、僕は討伐とかには興味がありませんし、魔法屋としてやっている方が楽しいですので、お断りさせていただきます。元々戦闘は得意でもありませんからね」
(((((どこがだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)))))
‥‥‥あれ?気のせいかな?今何かこう、倒された者たちの恨み声が聞こえたような。
何にしても、まだ数人ほどたっている冒険者の姿は見えるが、あれらは最初の模擬戦希望の時に見学の方を選んだ者たちである。
とは言え、色々とこれまで問題を起こしているそうなので、この時点で相当罰則も兼ねる予定もあるようだ。
「何にしても、今日は本当に苦労を掛けたことを、この首都のギルド長としてはお詫びしたいでありますな」
「いえ、こちらこそ魔法の練習台が出来たと思えたので、別に良いです」
ひとまずは模擬戦を終え、倒れている冒険者たちは搬送されていく。
冒険者ギルドへ戻り、手続きを経て、依頼達成の確認の印などもらい、これでもう帰還できるのだ。
「とはいえ、せっかくこの首都ボラーンまで来たんだからね。ボンブルビーさんに話して、明日一日僕らは遊んで、翌日に都市の方へ戻り、手続きを経て家へ帰ろうか」
【ええ、そうしましょう。せっかくここまで来たのですし、色々と楽しみたいですからね】
「私としても、首都内の販売している調味料などが気になりますからネ。ご主人様の意見には反対しませんよ」
ハクロとワゼの二人の了解を得られたので、とりあえず僕らは宿へ向かうのであった。
「‥‥‥ん?」
そこでふと、何かの視線を僕は感じた。
気になって振り向いてみたが、誰もいない。
「どうしましたかご主人様?」
「いや、なんでもないよ」
「そうですカ?」
まぁ、精神的に疲れたが故の錯覚なのかもしれないな…‥‥そう思い、僕は気にもせずに宿へ戻るのであった。
――――――――――――――――――――――――
SIDEワゼ
‥‥‥深夜、ワゼは宿屋から抜け出していた。
昼間、彼女はある視線に気が付いたのだ。
それはシアンに向けられたものであり、そしてその視線にはいろいろな負の感情がある事に。
その視線の主を見れば、見学している冒険者であったが…‥‥何と言うか、凄まじい邪気のような物を感じさせられた。
ああいう類は、放置しておくとより厄介なことをしてくる。
そうデータに似たような事例があったので、彼女は防止するために動きだす。
首都という事もあって、ここは人の数も多い。
そして、木を隠すには森の中と言うように、人を隠すには人の中とも解釈が可能であり…‥‥
「…‥‥そして案の定といいますか、こんなところにある裏ギルドで、その本部の裏ギルド長に出会えるとは運が良かったデス」
「我、ニトッテハ、最悪」
巧妙に偽装されていた、裏ギルド。
そこに向かっていたワゼであったが、監査でもしていたのかそれとも見回りなのか、偶然にも裏ギルドマスターとされるディアマンに彼女は出会えた。
そして裏ギルドマスターのディアマンにとっては、物凄く扱いずらい、下手をすれば滅びる運命しか見えない悪魔のメイドゴーレムに出くわした運命を、非常に呪いたくなったという。
「アア、何故、メイド、ココニ…‥‥」
「まぁまぁ、今回は私から依頼したいことがありましテ…‥‥」
物凄く嘆きまくっているディアマンに対して、ワゼはひとまず落ち着かせる。
そして、ある話をして、半ば無理やりに近いかもしれないが、とりあえずその依頼を受け持ってもらうことに成功したのであった。
「一応、前払いとしてこれをどうゾ」
「ナンダ?」
「裏ギルド構成員の、各自の改善点をまとめたリストデス。こうすれば、もっと良くなると思いマス」
「…‥‥我ヨリ、裏ギルドマスターニ、向キスギデアロウ。座、譲ロウカ?」
「いえ、私はご主人様のメイドですのでお断りデス」
「‥‥‥‥‥ハァ、メイド、トハ、コウモ恐ロシキモノナノカ…‥‥」
……見つけた。ついに見つけたぞ。
その男は欲望と歓喜が入り混じった声を、心の中で密かに繰り返しあげた。
目の前に見えるのは、あの時に見つけた、とあるアラクネである事は間違いないであろう。
そう、彼がかつていたパーティの解散のきっかけになった、傾国の美女、いや解散の美女と言うべき様な相手である事を‥‥‥
――――――――――――――――
つい数ヶ月ほど前、いや、数年前であったのだろうか?そのあたりはよく思い出せない。
だがしかし、その時までは、彼は人生の絶頂期と言うべきところにいた。
性格や素行に色々と問題があったとはいえ、実力だけは高かったパーティを結成しており、自由気ままに楽しんでいたのだ。
何かあろうとも力で脅し、繋がった腐れ貴族に頼んで権力でもみ消し、表向きではまだ妬まれる程度で、裏ではやらかしまくっていたのだが…‥‥
そんなある日、彼らはとある依頼を受注した。
それは、あるモンスターの群れがあり、被害が確認されたために、全ての討伐を頼みたいという物。
その群れの種族はアラクネ。人間の女性の身体を持ちつつも、下半身に蜘蛛の身体をもつ、残虐非道、冷徹なモンスターという話である。
とはいえ、見た目はそれなりに麗しいのも多いため、できれば剥製にしておきたいという要望もあったので、彼らはその依頼を受けることにした。
適当に捕まえたチンピラを適当な金で買収し、アラクネの群れがいる場所の近くを歩かせる。
そして、あるアラクネがそのチンピラを見つけ、種の繁栄やその他欲望のために巣へ持ち帰るところまで彼らは見とどけた。
そして、そのチンピラをアラクネたちが集まっていろいろやってしまおうとしていたところで……あらかじめ持たせていた、火薬に遠距離から小さな火の魔法で引火し、アラクネたちが気が付く前に爆発させたのである。
もちろん、チンピラの方には説明しておらず、ただのお守りみたいなものであると言っただけなので、あっけなくチンピラは犠牲となり、そして集まっていたアラクネたちはその爆発に巻き込まれ、混乱していた。
……そしてそのタイミングで、彼らは一気に奇襲を仕掛ける。
混乱していたアラクネの群れは統制がとれず、反撃しようと動いていたが、確実に一体ずつ仕留めていく。
森の中に出来ていた群れなので、まともに戦えば地の利はアラクネの方にあっただろう。
けれども、この爆発の混乱、奇襲によって思うように動けないようであり、地の利が生かされることはなかった。
そして、最後の一体‥‥‥アラクネマザーと呼ばれるような大型のアラクネを討伐し、これで終わりかと思っていたところで……彼らは気が付いた。
まだ、一体残っていたことに。
【あううううっ‥‥‥】
物凄い涙目になり、群れの死体と化した仲間の手を取り、慌てふためいている容子。
亜種なのか、色がどうも他のアラクネと異なって全体的に白く、なんにしてもこのアラクネを狩れば本当に終わりかと思っていたが…‥‥そこで彼らは、そのアラクネの容姿をまともに見た。
他の反撃しようとしてきたアラクネたちは全体的に黒く、残忍そうな眼付きで、明かに血の匂いがするような、おぞましさがあった。
だが、どういう訳だろうか。
目の前に涙目であたふたしているこのアラクネは、そのアラクネたちとは異なっている。
匂うとしても血や男のものではなく、花の蜜や野花といった柔らかい香り。
そして、その美しさは他のアラクネたちとは圧倒的に群を抜いており、人間でもこれだけの美女は泣かないない、相当素晴らしすぎる容姿だったのだ。
その美しき容姿を見て、彼らは絶句する。
このまま、このアラクネを討伐して良いものなのかと迷いが出る。
何しろ相手はしょせんモンスターであり、他のアラクネとは色々と異なっているようだが、それでも討伐対象である。
だが、その容姿は惜しい。殺害し、剥製にしてしまえば良いのかもしれないが、それでは「生きている美しさ」と言うものが損なわれ、二度と手に入らないかもしれないのだ。
ならばどうするか‥‥‥‥短い間に考え、そして答えが出た。
ああ、だったら自分の慰み者にしてやればいいじゃないかと。
聞く話によれば、モンスターや動物の中には、人と契約して使い魔になったりするようなものがある。
ならば、このアラクネも同じようにしてやり、そして夜の世話をさせれば良いと。
だが、この美しさは独占したい。
色欲、強欲に狩られ、とりあえずはそのアラクネを捕縛しようと彼が動いたその時……他の仲間たちが動き出した。
彼のパーティメンバーで有り、結束していた仲間。
だが、彼らもまた彼同様にアラクネの利用方法を考え、動いたのだ。
そして独占し、己のモノにするために、彼らは争った。
…‥‥そして数時間後、彼が何とか勝利したその頃には、そのアラクネの姿は消え失せていた。
あれは幻だったのだろうか?否、幻ではない。
逃亡したのだと思い、後を追おうとしたが、メンバーとの争いで彼自身も深く傷ついており、動くことができなかった。
数日が経過した時に、偶然にも他の冒険者たちが通りかかり、彼らは救助された。
その頃には、討伐したアラクネの群れは全て野生の獣たちによって奪われ、捕食されてしまい、結局彼らは何も得る事が出来なかった。
討伐はできても、仲違いをし、争ったメンバーでは、もうこの先やっていくことはできない。
そして、ギクシャクとした関係を続け、すぐに彼らは解散し、ソロになった。
‥‥‥それからは、語るまでもなく、あっという間の転落人生であった。
仲間がいたときにできた依頼もできなくなり、どんどん失敗が続き、酒におぼれ始め、喧嘩によって顔に大きな傷が残り、治療しても残ったままで、そしてまた増えていく。。
貯めてきた金も使い潰していき、借金が増加していく。
次第に冒険者としてふさわしくない行動をとり続け、乱暴になっていく。
他の冒険者たちは、どこまで堕ちるのか賭け事をしているようだが‥‥‥それでも彼はどうしようもない。
新たにメンバーを集め、結成しようにも評判は地に落ちており、誰も組んではくれない。
新人が来て、仲間にしようとしても他のパーティに取られ、力づくでしようとしたら返り討ちに会うまで自身の力は落ちていた。
ああ、今日の招集はつまらないものであると、もはや荒み切ったその心持で、本日彼はその招集場所へ向かい…‥‥そして、その場で見つけてしまったのであった。
――――――――――――――――――――――――
‥‥‥これは運命か、それとも神のいたずらか。
何にしても今、彼は心の中で歓喜を上げるのみである。
かつて討伐できず、モノにしようとした絶世の美女が、何の因果なのかこの場にいるのだ。
今すぐにでも、力づくでモノにしたい。そして美女を使って仲間を呼び戻し、再び栄光を取り戻したい。
だが、どうもその美女は、アラクネは今、使い魔となっているらしい。
なぜだ!!自分はできなかったことを、なぜあの彼女を使い魔に出来ているのだ!!
彼の怨嗟は、そのハクロという名になったアラクネと共に居る青年、魔法屋のシアンという人物へ向けられる。
それはもしかしたら、彼が得られたかもしれない場所。
美女が手元におり、使い魔として自分の好き勝手にできそうな、素晴らしい場所。
そこにいるべきなのは自分なのに、なぜあのような魔法屋に彼女は仕えているのだろうか。
ああ、もしやあの後魔法とかであの美女は操られ、使い魔にされてしまったのではなかろうか。
そして夜な夜な泣くような事になっているのではなかろうか。
そうであるならば、自分が彼女を救わねばならぬ。
ああ、そして彼女を手に入れられる資格を持つのは自分で有り、再びかつての栄光を取り戻せるはずだ!!
‥‥‥もはや自分勝手、自己中心的、ご都合主義な腐れ頭と化した彼は、その思考で頭が埋め尽くされる。
だが、今の自分の実力ではどうしようもない事を流石には理解していた。
しかし、諦めることはできない。
そう、もはや彼にとってはそのアラクネを手に入れ、自分はかつてのパーティメンバーといた時以上の栄光をつかむ未来しか、妄想できないのだから。
‥‥‥そして、彼は愚かな手段を行う。
それこそ、彼の滅びを導くモノであると知らずに、彼はただ、自分の都合の良いようにしか解釈せずに動くのだ…‥‥
――――――――――――――――――――
SIDEシアン
‥‥‥とりあえず、20人ほどは相手をしただろうか。
「とは言え、全然疲れないというか、パターン化したよな」
【それもそうですよねぇ。シアンの魔力量もちょっとおかしいですが、それでも皆あっという間に蹴散らしてますからね】
それもそうである。
何しろ、ゲルグ以降の冒険者たちは魔法をかわそうとしたり、あるいは接近戦を挑もうとして動くのだが、デルタリアンさんの合図とともに僕は素早く魔法を放ち、あっという間に戦闘不能にしているのだ。
接近されたとしても、今回はハクロと一緒にやっているので、彼女によって運ばれ、素早くよけたり、上から奇襲をかけるなどの先方が取れて、現状無敗なのである。
ワゼは‥‥‥まぁ、彼女が参加すれば、それこそ阿鼻叫喚地獄になりそうなので、今の所は後方で応援をしてもらうのみだ。
時折喉の渇きが出たら、飲み物を持ってきてくれるのは良いだろう。
「んー、でもだいぶもう倒したかな?デルタリアンさん、これでそろそろ終わりですかね?」
「ああ、もう終わりであります。まだ数人は残っているでありますが、あれは見学の方を希望したので、対象外なのでありますよ。にしても、魔法をバンバン使いながらも、未だに平気そうな顔なんて……どれだけ魔力に余裕があるのでありますか?できればこの後、依頼達成確認と同時に、冒険者登録もしてほしい所でありますが‥‥‥」
「いえ、僕は討伐とかには興味がありませんし、魔法屋としてやっている方が楽しいですので、お断りさせていただきます。元々戦闘は得意でもありませんからね」
(((((どこがだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)))))
‥‥‥あれ?気のせいかな?今何かこう、倒された者たちの恨み声が聞こえたような。
何にしても、まだ数人ほどたっている冒険者の姿は見えるが、あれらは最初の模擬戦希望の時に見学の方を選んだ者たちである。
とは言え、色々とこれまで問題を起こしているそうなので、この時点で相当罰則も兼ねる予定もあるようだ。
「何にしても、今日は本当に苦労を掛けたことを、この首都のギルド長としてはお詫びしたいでありますな」
「いえ、こちらこそ魔法の練習台が出来たと思えたので、別に良いです」
ひとまずは模擬戦を終え、倒れている冒険者たちは搬送されていく。
冒険者ギルドへ戻り、手続きを経て、依頼達成の確認の印などもらい、これでもう帰還できるのだ。
「とはいえ、せっかくこの首都ボラーンまで来たんだからね。ボンブルビーさんに話して、明日一日僕らは遊んで、翌日に都市の方へ戻り、手続きを経て家へ帰ろうか」
【ええ、そうしましょう。せっかくここまで来たのですし、色々と楽しみたいですからね】
「私としても、首都内の販売している調味料などが気になりますからネ。ご主人様の意見には反対しませんよ」
ハクロとワゼの二人の了解を得られたので、とりあえず僕らは宿へ向かうのであった。
「‥‥‥ん?」
そこでふと、何かの視線を僕は感じた。
気になって振り向いてみたが、誰もいない。
「どうしましたかご主人様?」
「いや、なんでもないよ」
「そうですカ?」
まぁ、精神的に疲れたが故の錯覚なのかもしれないな…‥‥そう思い、僕は気にもせずに宿へ戻るのであった。
――――――――――――――――――――――――
SIDEワゼ
‥‥‥深夜、ワゼは宿屋から抜け出していた。
昼間、彼女はある視線に気が付いたのだ。
それはシアンに向けられたものであり、そしてその視線にはいろいろな負の感情がある事に。
その視線の主を見れば、見学している冒険者であったが…‥‥何と言うか、凄まじい邪気のような物を感じさせられた。
ああいう類は、放置しておくとより厄介なことをしてくる。
そうデータに似たような事例があったので、彼女は防止するために動きだす。
首都という事もあって、ここは人の数も多い。
そして、木を隠すには森の中と言うように、人を隠すには人の中とも解釈が可能であり…‥‥
「…‥‥そして案の定といいますか、こんなところにある裏ギルドで、その本部の裏ギルド長に出会えるとは運が良かったデス」
「我、ニトッテハ、最悪」
巧妙に偽装されていた、裏ギルド。
そこに向かっていたワゼであったが、監査でもしていたのかそれとも見回りなのか、偶然にも裏ギルドマスターとされるディアマンに彼女は出会えた。
そして裏ギルドマスターのディアマンにとっては、物凄く扱いずらい、下手をすれば滅びる運命しか見えない悪魔のメイドゴーレムに出くわした運命を、非常に呪いたくなったという。
「アア、何故、メイド、ココニ…‥‥」
「まぁまぁ、今回は私から依頼したいことがありましテ…‥‥」
物凄く嘆きまくっているディアマンに対して、ワゼはひとまず落ち着かせる。
そして、ある話をして、半ば無理やりに近いかもしれないが、とりあえずその依頼を受け持ってもらうことに成功したのであった。
「一応、前払いとしてこれをどうゾ」
「ナンダ?」
「裏ギルド構成員の、各自の改善点をまとめたリストデス。こうすれば、もっと良くなると思いマス」
「…‥‥我ヨリ、裏ギルドマスターニ、向キスギデアロウ。座、譲ロウカ?」
「いえ、私はご主人様のメイドですのでお断りデス」
「‥‥‥‥‥ハァ、メイド、トハ、コウモ恐ロシキモノナノカ…‥‥」
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