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嫌な事は向こうからやってくる

#74 訳があるようなのデス

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SIDEシアン

‥‥‥道端で話すのもあれなので、とりあえず落ち着ける場所として、都市のある適当な飲食店の一角に、僕らは座った。

 目の前にいるのは、あの盗賊たちに襲われていたところを助けた者たちであったが‥‥‥女性の方は初顔合わせである。いや、交渉の際にワゼとは対話していたか。

 着ている衣服の質や、あの馬車などからそれなりに高い身分の人物のようだが…‥‥容姿としては15~17歳ほどであり、髪色はちょっと薄めの金髪と言ったところであろうか。貴族令嬢なのかもしれないけれど、ドリルではないのはちょっと残念だったりする。


 そんな彼女と護衛一同は何者なのか、互に軽くあいさつした後、すぐにその正体が判明した。


「‥‥‥え?ボラーン王国の王女様?」
「ええ、そうです。でも、わたくしの立場としては王子たちである兄たちよりも王位継承権が低い、第2王女なのですわ」
【第2王女様ですか?】

 彼女はこのボラーン王国の第2王女である「ミスティア・ザ・ボラーン」というらしい。

 兄である王子たちもそれなりにおり、王家の中では王位継承権が低いそうだが、それでも敬うべき王族。

 敬語が必要かと思ったが、別に堅苦しくなる必要もないと第2王女様もといミスティアが言ったので、僕らも自然体で会話することにした。


 ただ、そんな彼女が何故この都市にいるのかと思えば‥‥‥どうやら元々、ここへ来る目的があったらしい。

「最近ね、国内の情勢をいろいろと調べて見たのだけれども、この都市にある異変が見つかったのよ」
「異変ですか?」
「ええ、この国にいくつもある都市の中でも、何故か最近以上に治安・流通・活気など、プラスとなるような面が大幅に向上していたの」

――――――
 ミスティアは第2王女という立場であり、他に兄の王子たちもいるのでそこまで王位継承権が高いわけではない。

 通常であれば、そういう王女は政略結婚などの手に使われて、婚約者もいそうである。

 だがしかし、現在の国王エドワード・ザ・ボラーンはその政略結婚などで権力のパワーバランスを取ったのは良いのだが、王妃や側室たちに完全に尻に敷かれてしまっているそうなのだ。一応、愛はあるゆえにそこまでひどいという訳でもないそうだが…‥‥

 とにもかくにも、その経験上、出来るだけ周囲には配慮しつつも、子どもたちである王子や王女には自由な恋愛結婚を推奨しているので、ミスティアもそれにならい、婚約者がいないのだとか。

 なお、王子の方は既に婚約者が出来ているらしい。相手は幼馴染らしいが、国王陛下いわく「下手すると二の舞」などとつぶやかれているそうだが…‥‥そんな王家の話なんぞ、僕らは聞きたくなかった。

 というか、国王陛下尻に敷かれている生活なのか……王妃に側室って、数が多そうで大変そう‥‥‥
――――――

 それはそうとして、元の話に戻す。

 この都市アルバスでの様々な面での向上を確認したミスティアは、他の都市に活かせるかもしれないと思い、その原因を探るために自ら都市へ訪れようとして、あの盗賊たちの襲撃に出くわしてしまったらしい。

 そして偶然にも僕らがその現場に巡り合い、助け、そして彼女達は盗賊たちの引き渡しも兼ねて当初の目的地であった都市アルバスにたどり着いたという訳だそうだ。

 で、これからその向上原因の調査を行おうとした矢先に、魔法ギルドから出されたヌルダニアン王国軍侵攻の話を聞いて、慌てていたらしい。

 王家が既に把握している物だと思っていたが、こういう時に限って第2王女という地位の低さもあって、その連絡が遅れていたらしい。

 ゆえに、今のうちに王城のある首都の方へ帰還したかったのだが、王家に連なる者としては都市アルバスを見捨てることもできず、ヌルダニアン王国軍に蹂躙されたくもないし、どうしたものかと悩んでいたその時に…‥‥


「偶然にも、あなたたちの会話が耳に入ったのよ」
「それで、ワゼの話も聞いてしまったのか…‥‥」


 話し終え、一息ついたところで、僕らはようやくここまでのつながりが見えて、納得した。

 というか、その話しだと盗賊たちからの襲撃に間に合わなかったら、それはそれで大問題だったという話になるのだが…‥‥まぁ、解決したからいいだろう。

 とにもかくにも、地位が低い方とは言え、王家の者としては自国の領地を守りたい。

 そんな侵略行為・略奪行為をするようなヌルダニアン王国を許せるわけもなく、かと言って戦闘できない無力さを実感していた時に、ワゼの話を聞いて閃いたそうなのである。


「あの盗賊たちとの戦闘で、既にかなりの戦力であるのかは十分理解しています。そのワゼさんのミニワゼシスターズ?というものが量産できるのであれば、わたくしたちもできる限りの援助を行いたいですわ」

 真剣な表情で、彼女はそう口にした。


 つまり、ヌルダニアン王国軍の侵攻を止めるために、ミニワゼシスターズを作る手助けをしたいということのようだ。

 でも、その事は別の面で考えると‥‥‥

「‥‥‥いいのですか?僕らはただの魔法屋。そんな戦争に関わる義理もありませんし、そもそもミニワゼたちは家事の方の手伝いを行ってもらってます。戦争に利用されることは避けたいし、下手をすると目を付けて悪事を企むような方々もでるかもしれません」

 ワゼもそうだが、ミニワゼたちも戦力としては強い力である。

 そんな彼女達を増やした場合、その戦力に目を付ける者たちも出る可能性があるのだ。

「ええ、そのような馬鹿たちが出るのは百も承知です。それに、あなた方にそれだけの戦力がある時点で、国としては色々と問題なのですが…‥‥それでも、わたくしとしてはこの都市も国民たちのものであり、それらを守るべき王族の義務があると考えているのです」

 ぎゅっと拳を握り締め、そう語るミスティア。

「そして、戦闘終了後には騒ぎを大きくしないようにわたくしたちの方でも動きます。今は非常時なので良いですが、非常時でなければ当然馬鹿も出ますので、それらが出ないように、防ぐために色々と行う事をここで約束させてもらいます。ゆえに、ミニワゼ?たちとやらの材料を提供しますので、どうかここを守る協力を、お願いいたします」


 ぐっと見てくるその瞳には、意志の強さが感じられた。

 僕自身、この世界に来て色々な人を見てきたが、この力強い意志は、曲げてはいけないものだと思える。

「…‥‥わかりました、では協力いたしましょう」
「ありがとうございます。それでは、今回の件での色々な話し合いのための契約書も作成いたしましょう。後で互いに約束を違えてしまっても、どうにかなるようにしておくのです」

‥‥‥かなり真面目だったので、そこから交渉が数時間かかり、気が付けば夕暮頃になっていた。

 とにもかくにも、ミニワゼたちの増設にも時間がかかるので、明日の昼までには材料が集まるらしく、そこから生産できるとしても、ワゼいわく3体が限界だとか。

 何にしても、協力を約束したし、関係ない事のようでもあるが、それでもこの都市に愛着がないわけでもない。

 とりあえずは、一度僕らは帰宅し、三日後に来るとされるヌルダニアン王国軍へ対抗するために、動生き出すのであった‥‥‥‥

「‥‥‥ワゼに負担をかける様な事でもあるけど、大丈夫?」
「大丈夫デス。私は元々、ご主人様のために尽くす者。ゆえに、どのようなご命令でも、なんなりとこなしてみせまショウ」

 ワゼに確認を取ったが、彼女としても大丈夫らしい。

 今回は他のミニワゼたちもいるし、改良などもついでに行うようだが…‥‥果たして、本当にヌルダニアン王国軍とやらに太刀打ちできるのであろうか?

 いざとなれば、僕が魔法で支援をしたいが…‥‥まぁ、それは最後まで取っておくとしようかな……




――――――――――――――――――
SIDEミスティア・ザ・ボラーン

「ふぅ‥‥‥なんとか交渉がまとまってよかったわ」
「ご苦労様です、第2王女様」

 シアンたちが去った後、ミスティアは安堵の息を吐きつつ、護衛隊長であるムッツに喉の渇きを潤すために飲み物を貰い、飲み干した。


 この都市での再会を喜びつつも、すぐにミスティアは行動に移す。

「では、あの魔法屋の者達……シアンさんのメイドであるワゼさんから言われた材料を、明日までにすぐに取り寄せなさい。この都市の住民たちは避難中ですが、それでも商人などは商機を逃すはずがないのですわ」
「はっ、では今すぐ手配いたします!」

 護衛隊長が答え、護衛達は必要な人数を残しつつ、各自は材料集めへ走り出した。

 その様子を見つつ、ミスティアは心の中でつぶやく。

(……あの盗賊との戦闘で見る限り、あのミニワゼシスターズとやらを増やすだけで、軍勢を相手にすることは可能かもしれないわ。でも…‥‥それ以上に、彼らには目を付けていかなければいけないわね)

 
‥‥‥あの盗賊たちの戦闘時に、シアンたちの戦闘力をある程度ならば理解していた。

 加減していた様子もあり、本来の実力を考えるのであれば、より格上なのは間違いない。

 けれども、それ以上に彼女が気になったのは‥‥‥‥とある情報筋から得た、一つの予言である。


 
 神聖国にて出された予言なのだが、魔王が出現したという話であった。

 ただ、刺激しなければ良さそうな内容でもあるし、本当かどうか疑わしいという人もいたのだが…‥‥今回の件で、彼女はその予言を信じざるを得ないかもしれないと思った。

 そう、あのシアンたちの実力は…‥‥魔王、もしくはそれに準ずるものに匹敵するのではなかろうかと考えられたのだ。

 流石にあのメイド及び、その配下のミニワゼたちが魔王なわけではなさそうだが‥‥‥‥そんな実力を持った者たちの主となっているシアンはどうなのか。

 彼の実力だけはまだ見ていない。

 けれども、彼女の勘はこうささやいている。

(「彼こそが、魔王に違いない」…‥‥と。そう警戒せざるを得なかったわ)

 あの使い魔のアラクネも美しく、同じ女としては嫉妬したくなるほどであったが、そんな使い魔を持っている時点でも既に色々とおかしくも思えたのである。



 ただ、現状シアンには怪しい様子もなく、もしかすると魔王かもしれないという予想は外れているかもしれないが、もう一つの予想では彼自身が自覚していないという可能性もあった。

 何にしても、この都市へ迫る軍へは彼に力を頼るしかなく、協力を仰ぐしかなかった。

 一応、得られたのは良いし、軍への対抗手段を得たのも良かったが‥‥‥‥ここで一度きりの縁にするのも色々とダメなのかもしれない。

(…‥‥今はまだ、様子を見る必要はありそうですわね。なんにしても、とりあえずは約束したのだし、違えないように誠心誠意、こちらも動かなくてはいけないですわ)

 近くの魔王疑惑者よりも、今は国へ迫る脅威への対応を彼女は優先することにした。

 分からないことをできないので、今は分かる事のみに集中し、後からゆっくりと調べれば良いのだ。

 何にしても、護衛達に任せるだけではなく、彼女自身も動き始めるのであった…‥‥


「‥‥‥ところでムッツ」
「どうしたのでしょうか、王女様」
「この材料リストを元に、ゴーレムを作る事って可能なのかしら?」
「ふむ、それは分かりません。ですが、こういう時は城の魔導士長殿に尋ねればいいかと思われますが…‥‥なぜそのような質問を?」
「交渉の最中に、ちらちらと見えていたあのミニワゼたちが1体ほど、お友達として欲しくなっただけなのですわ」
「ああ、王女様はボッチでござ、」


…‥‥護衛隊長ムッツの言葉は、そこで途切れた。

 後に、ムッツは語る。

「ああ、流石に国王陛下を尻に敷いている方々の血を引いているだけあって、それはそれは綺麗なコークスクリューブローが、顔面に来ましたねぇ…‥‥」と。

 なお、別に第2王女はボッチなわけではない。ただ、友達が少ないだけなのである。

 それでも、一応気にしていたことなのであろうか…‥‥‥
 
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