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1章 旅立ちと始まり

1-50  馬鹿なことはして欲しくないのだが

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「ほっほっほ‥‥‥ふむ、それでどこの輩がやったのか分かるのかのぅ」
「すでにこちらで把握し、厳重な処罰を下す予定だが‥‥‥事前にある程度の話は出ているはずなのに、こうも出てくるとは、脅威というのを知らぬのだろうか」
「無理もないじゃろう。ろくに出てこぬような者たちは平和ボケというか、戦いすら知らぬからのぅ。貴族としての嗜みで決闘もできるようにある程度の戦闘技能を学び舎で学ぶ機会はあるのじゃが‥‥‥それでも、やはりもの知らぬものが出てしまうのは仕方がない事じゃよ」

‥‥‥メルドグランド王国の王城内、謁見室。

 そこでは今、この王国の王都のギルド長を務めるバルゾーンと、国王のベスタリアーン4世が本日入ってきた報告に対して意見を交わしていた。

 城にはただの都合の良い情報が入って来ることはない。きちんと審議を確認し、正しい情報をいかに正確にかつ即座に伝えることが出来るのかという仕組みが整備されており、既にある程度の情報は確実なものとして得ていたのである。

 ただし正確性に優れる分、内容の方に関して頭を抱えたくなるような心労も負うことがあるのだが、今入ってきた情報はその類だった。

「国滅ぼしの魔物に該当する従魔を連れた冒険者への、悪意を持った襲撃とはどう考えても馬鹿なのかとしか言えぬのぅ。進化条件やその他の情報で悪用を防ぐ意味で制限されている情報があるとは言え、多少はその危険性に気が付かぬのじゃろうか」
「そこが本当に、頭の痛い所だ‥‥‥」

 国滅ぼしの魔物に関しての情報は、物凄く公表されているわけではない。

 悪用を防ぐ目的で少しは情報が制限されており、一部の者たちを除くような者どもには伝わる事がないのだ。

 だが、その危険性に関しての記録や、実際に討伐された後に後世に伝えるための剥製などは残されており、どれほどの物なのかしっかりと感じ取ることが出来るはずなのだが、それでもどうしても「自分なら大丈夫だ」という根拠のないような自信を抱くようなものが出てしまうようである。

 そして今回入って来たのは、まさにその愚か者が動いた結果のようで…‥‥一応無事とは言え、それでも一歩間違えれば相当ヤバい事になったであろうことは目に見えていた。

 情報にある、襲われた従魔‥‥‥傾国の国滅ぼしの魔物ナイトメアラクネのハクロの実力は未知数であり、襲撃を掛ける様な馬鹿はいないと思ったのだが、残念ながら出てしまうようである。

「幸いなことに、彼女もその主の彼も温厚というか好戦的なものではないからすぐにやり返すとかは無いようだが、それでもやらかしたことには変わらないじゃろうなぁ」
「漆黒のゴラン、闇夜のタゴサック、うすらハゲのヴァルボに外道魔導士ゾンボなど、各家に密かに雇われているという話の有った者どもが出てきたおかげで、やらかした家に処罰を与えやすいのだが‥‥‥一歩間違えれば相当不味い事になりかねなかったことを、理解してもらえなかったのだろうなぁ」
「あ、それちょっと違うのぅ。今回の一件で全部失い、つるぴかに変更することになりそうじゃ」

 そんな異名の変更理由に関して何があったのか悟りつつ、頭を抱えたくなる国王。
 
 冒険者に対しての襲撃だけでも問題だが、自身の出した忠告に対して聞いていない者たちがいるのも問題ではあるのだ。

「一部粛清及び爵位下降、場合によっては剥奪とそれに伴う領地の再分配と…‥‥やることがおおくなるから、問題を起こさないでほしかった」

 下の者が起こしたことは上が責任を持って対処するのだが、その分厄介事を引き起こさないでほしい。

 今でこそ今回の襲撃に遭ったハクロという彼女は苛烈な性格でも好戦的な性格でもないのである程度落ち着いて対応できることにはなっているのだが、これがもしも過去に報告されているような類であれば、その時こそ色々と終わっていただろう。

「仕事はできるのに問題を起こす者と、仕事はできないけど問題を起こさない者と、どちらもできない大馬鹿者‥‥‥ああ、出来れば両方きちんと出来ている者がいればいいのに、数が少ないのは悲しい事だ」
「優秀な人材ほど、確保しづらいのはいつの時代も難しい事じゃのぅ」

 はぁぁぁっと溜息を吐きつつも、事態を出来るだけ平穏無事に収めようと国王とギルド長は動く。

 だがしかし、彼らのそんな努力もむなしくやらかす大馬鹿野郎の愚か者というのは、どうしようもないほどのものだったりするのであった…‥‥


「‥‥‥そう言えば国王陛下、先ほどから気になっていたことがあります」
「何だ?」
「部屋の隅の方に、これでもかと怪しい文字が書かれた怪しすぎるお札が貼られまくっているどう考えても危ない類の雰囲気を漂わせる壺、この間の謁見時にはありましたかのぅ?」
「あ、それか?王妃が何やら数日間ほどは、ここにおいてほしいと頼まれたものでな。なんでも厄介事の気配があればある程度のものを吸い取り、元凶へ送り返す呪術の試作品だといっておった」
「それ、ココにあって大丈夫ですかのぅ?というか、今の話から考えると彼らの方にも行きそうな‥‥‥」
「それは安心するがよい。悪意ある者にのみ対応するものだそうだ。現に、先日暗殺者が送り込まれてきたのだが、その雇い主が出席していた何かしらの催事にて酷い腹痛を起こし、社会的な死を招いたそうだからな」

‥‥‥厄介事を起こすような類よりも、恐ろしい呪術を扱える王妃の方がより危険ではなかろうか。

 そう心の中でギルド長のバルゾーンは思ったが、口には出さないのであった。自分も呪われたくはないので。

 
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