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1章 旅立ちと始まり
1-54 ひっそりと忍び寄る者も、あるらしい
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護衛依頼があるまであと2日ほどだが、それまでの間に学べることがないのかと思い、色々な本をギルドから借りることが出来た。
冒険者の技能が増えるのはギルドとしても良い事のようで、汚したり壊したり無断で売りに出すようなことがないと証明できればいいらしい。
実技の方が経験も得やすいので混ぜつつやっていたのだが…どうやらハクロは結構学習能力が高かったようである。まぁ、人の言葉を覚えてきた時点で今さらというべきか。
【シュルル!!できたよ!『おすすめ冒険者用衣服100選』にあった冒険者用衣服10着分!材料は私の糸のみでも、見た目だけは全部そっくりなものになったよ!】
「うわぁ、ハクロ、このメタルアーマーとかの鉄っぽいものも、これ糸なのか?」
【うん!】
【グラグラァ】
自身の糸で何かできないかなと思い、戦闘以外の方面として日常的に役立つ様なものを探していたようだが、彼女の得意分野である糸で、まさか見た目まで再現して作り上げるとは思わなかった。
100着全部は流石に無理なので、作りやすそうな10着を選んで同時に作り上げたようなのだが、それでも完成度の高さに驚かされるだろう。
「でも、こういうのを作ってくれるのはありがたいよ。鎧とかは重さもあるし、軽い糸で頑丈なものが出来るのは非常に助かるからね」
普通の皮や鉄の防具も使えないこともないのだが、如何せん僕らの戦い方を考えると重量面で少々難があるのだ。
だがしかし、ナイトメアアラクネである彼女の糸は同じ細さの鉄などとは比較にならないほど頑丈なようで、ただの衣服を作るだけでも下手な鉄の鎧以上の防御力を誇るのである。
そこにより防御面などを考えた専門的な技術を吸収させれば、更に実用的なものが出来るだろうとは思ってもいたけど、まさか数日で覚えて作り上げるとはね。
「うーん、こっちの武闘着っぽいのも良いけど、鎧っぽい質感に仕上がっているのも捨てがたい。染色とかも細かくされているせいで、本物を使っているようにしか見えないのも考えものだなぁ」
【ふふふ、染色用の小道具たっぷり購入して、繊細な色合いの表現もできるようになったの!】
基本的に糸は一色しかないのだが、瞬間的な着色によって色合いが鮮やかになった。
そこに工夫を凝らしまくった結果、糸だけなのに鉄のような金属光沢なども生み出せるようになったようで、本物を使っているように見えるのである。
まぁ、中身は本物以上の頑丈さや軽さを誇っている優れた衣服になっているのだが…‥‥これを生産して売るだけでも一財産を築けそうだ。国滅ぼしの魔物製ってことになるから、流通させるのは不味そうな気がするのでやる気はないけどね。
あとは、人型以外にも対応しているようで、他のバリュエーションも用意できたらしい。
「ラナにはカバーっぽい服か…‥‥ロイヤルチェスト用防護服ってところなのかな?」
【グラグラ】
防御力はこの面子の中で突き抜けすぎているので、正直防御用の品を使う必要はないラナ。
でも、万が一に備えてという事で、いざという時にすぐに着用できるようにしたラナ用の宝箱型の衣服も作ったらしい。
【でも、人間ってすごいね!魔物だとこういうの思いつきにくいもの】
「そうなのか?」
【うん。私達、本当は衣服着る必要がないんだよね】
言うのもなんだが、魔物の皮膚自体がそもそも人間以上に頑強なものも多いため、そんなに服を着るようなことがないというか、体格的に着れない者もいるというか作るようなものもいないらしい。
一応、例外も存在するので全部が全部衣服を着ないわけでもないのだが、こんなもので身を守る必要が無いものが多いゆえに、魔物界隈では衣服文化は未発達でもあるそうなのだ。
とは言え、人の中で過ごす以上、混ざるためにきちんと身なりを整える必要性もある事を理解しているようで、ハクロは人型の部分があるからこそ衣服をきちんと着こなすのだ。
【裸も楽なんだけどね。温かさを考えると、着ている方が良いのも分かる、シュル】
「身を守る以外にも、保温などの役目もあるんだよね」
【それなのに、ビキニアーマーとかどう見ても表面積が少ないものもあるのはどうしてなのか、という部分は疑問を持つよ?】
「‥‥‥それは僕も、疑問しかないよ」
【グラ】
‥‥‥動きやすさの意味もあるだろうが、人の生活になじんできて当り前の疑問も持てるようだ。
こういうのをみるとハクロはハクロで、成長してきているんだなと思えるだろう。
僕の方も、出来るだけ生長したいけどなー。森から出て結構日が経つけど、ちょっとは成長しているのだろうか。
そう疑問を持ちつつ、分かる時はあるだろうと思い、深く気にしないことにするのであった‥‥‥
【あ、でもいいなとも思うよ?動きやすそうだし、大事な部分の守りはあるしね】
【グラグラァ】
「いや、でも着ない方が良いかもよ」
如何せん、ハクロのスタイルは良いからね‥‥‥こんなもん、着たら他に戦う冒険者がいたらまともに集中できなくなる気がする。よく読むと、女盗賊とかが好んで着用して油断を誘う可能性もあるから注意とも書かれているから、実用性はあるのだろうけどね‥‥‥
‥‥‥はははっと、軽くジークが苦笑いを浮かべていた丁度その頃。
王都内のとある貴族家の屋敷内では、集められた情報を確認している者たちがいた。
「国滅ぼしの魔物というが、危険性はそんなにないか…‥‥あくまでも、こちらから対立するようなことが無ければ、の話だけのようだがな」
「魔物討伐の実績もあるし、戦闘時の情報も収集出来たが、下手に手を出さないのが正解というべきだろう」
各地に配下の者を遣わし、集積された情報を正確に彼らは読み取っていく。
下手に間違えればいざという時の対処法もできないので、慎重に信憑性なども確認を行っているのだ。
ある程度の良識的な貴族家ならばこの程度の判断は出来るのだろうが‥‥‥そうでないところが、問題である。
「人を襲うようなそぶりも見せず、むしろ主である少年を慕う様子を見て、『国滅ぼし』のものとは思えずに手を出そうとする輩はどうしても出るか」
「その動き自体はあちこちで探られているのに、どれほどの痛い目を見るのか、あるいはせいこうしたらどうなるのかを見るために黙認する家もあると」
「起きてからでは遅いのだが…‥‥そうなった時の都合の良い生贄にもできるからこそ、止めるようなところもないと」
真偽が不明だと思い、身をもって確かめようとする勇者がどうやら動くようだ。
どうなっても良いとは思うが、出来れば面倒なことにして欲しくはないだろう。
何にしても、この場にいる彼らもどう動くべきか、選択するのであった‥‥‥
冒険者の技能が増えるのはギルドとしても良い事のようで、汚したり壊したり無断で売りに出すようなことがないと証明できればいいらしい。
実技の方が経験も得やすいので混ぜつつやっていたのだが…どうやらハクロは結構学習能力が高かったようである。まぁ、人の言葉を覚えてきた時点で今さらというべきか。
【シュルル!!できたよ!『おすすめ冒険者用衣服100選』にあった冒険者用衣服10着分!材料は私の糸のみでも、見た目だけは全部そっくりなものになったよ!】
「うわぁ、ハクロ、このメタルアーマーとかの鉄っぽいものも、これ糸なのか?」
【うん!】
【グラグラァ】
自身の糸で何かできないかなと思い、戦闘以外の方面として日常的に役立つ様なものを探していたようだが、彼女の得意分野である糸で、まさか見た目まで再現して作り上げるとは思わなかった。
100着全部は流石に無理なので、作りやすそうな10着を選んで同時に作り上げたようなのだが、それでも完成度の高さに驚かされるだろう。
「でも、こういうのを作ってくれるのはありがたいよ。鎧とかは重さもあるし、軽い糸で頑丈なものが出来るのは非常に助かるからね」
普通の皮や鉄の防具も使えないこともないのだが、如何せん僕らの戦い方を考えると重量面で少々難があるのだ。
だがしかし、ナイトメアアラクネである彼女の糸は同じ細さの鉄などとは比較にならないほど頑丈なようで、ただの衣服を作るだけでも下手な鉄の鎧以上の防御力を誇るのである。
そこにより防御面などを考えた専門的な技術を吸収させれば、更に実用的なものが出来るだろうとは思ってもいたけど、まさか数日で覚えて作り上げるとはね。
「うーん、こっちの武闘着っぽいのも良いけど、鎧っぽい質感に仕上がっているのも捨てがたい。染色とかも細かくされているせいで、本物を使っているようにしか見えないのも考えものだなぁ」
【ふふふ、染色用の小道具たっぷり購入して、繊細な色合いの表現もできるようになったの!】
基本的に糸は一色しかないのだが、瞬間的な着色によって色合いが鮮やかになった。
そこに工夫を凝らしまくった結果、糸だけなのに鉄のような金属光沢なども生み出せるようになったようで、本物を使っているように見えるのである。
まぁ、中身は本物以上の頑丈さや軽さを誇っている優れた衣服になっているのだが…‥‥これを生産して売るだけでも一財産を築けそうだ。国滅ぼしの魔物製ってことになるから、流通させるのは不味そうな気がするのでやる気はないけどね。
あとは、人型以外にも対応しているようで、他のバリュエーションも用意できたらしい。
「ラナにはカバーっぽい服か…‥‥ロイヤルチェスト用防護服ってところなのかな?」
【グラグラ】
防御力はこの面子の中で突き抜けすぎているので、正直防御用の品を使う必要はないラナ。
でも、万が一に備えてという事で、いざという時にすぐに着用できるようにしたラナ用の宝箱型の衣服も作ったらしい。
【でも、人間ってすごいね!魔物だとこういうの思いつきにくいもの】
「そうなのか?」
【うん。私達、本当は衣服着る必要がないんだよね】
言うのもなんだが、魔物の皮膚自体がそもそも人間以上に頑強なものも多いため、そんなに服を着るようなことがないというか、体格的に着れない者もいるというか作るようなものもいないらしい。
一応、例外も存在するので全部が全部衣服を着ないわけでもないのだが、こんなもので身を守る必要が無いものが多いゆえに、魔物界隈では衣服文化は未発達でもあるそうなのだ。
とは言え、人の中で過ごす以上、混ざるためにきちんと身なりを整える必要性もある事を理解しているようで、ハクロは人型の部分があるからこそ衣服をきちんと着こなすのだ。
【裸も楽なんだけどね。温かさを考えると、着ている方が良いのも分かる、シュル】
「身を守る以外にも、保温などの役目もあるんだよね」
【それなのに、ビキニアーマーとかどう見ても表面積が少ないものもあるのはどうしてなのか、という部分は疑問を持つよ?】
「‥‥‥それは僕も、疑問しかないよ」
【グラ】
‥‥‥動きやすさの意味もあるだろうが、人の生活になじんできて当り前の疑問も持てるようだ。
こういうのをみるとハクロはハクロで、成長してきているんだなと思えるだろう。
僕の方も、出来るだけ生長したいけどなー。森から出て結構日が経つけど、ちょっとは成長しているのだろうか。
そう疑問を持ちつつ、分かる時はあるだろうと思い、深く気にしないことにするのであった‥‥‥
【あ、でもいいなとも思うよ?動きやすそうだし、大事な部分の守りはあるしね】
【グラグラァ】
「いや、でも着ない方が良いかもよ」
如何せん、ハクロのスタイルは良いからね‥‥‥こんなもん、着たら他に戦う冒険者がいたらまともに集中できなくなる気がする。よく読むと、女盗賊とかが好んで着用して油断を誘う可能性もあるから注意とも書かれているから、実用性はあるのだろうけどね‥‥‥
‥‥‥はははっと、軽くジークが苦笑いを浮かべていた丁度その頃。
王都内のとある貴族家の屋敷内では、集められた情報を確認している者たちがいた。
「国滅ぼしの魔物というが、危険性はそんなにないか…‥‥あくまでも、こちらから対立するようなことが無ければ、の話だけのようだがな」
「魔物討伐の実績もあるし、戦闘時の情報も収集出来たが、下手に手を出さないのが正解というべきだろう」
各地に配下の者を遣わし、集積された情報を正確に彼らは読み取っていく。
下手に間違えればいざという時の対処法もできないので、慎重に信憑性なども確認を行っているのだ。
ある程度の良識的な貴族家ならばこの程度の判断は出来るのだろうが‥‥‥そうでないところが、問題である。
「人を襲うようなそぶりも見せず、むしろ主である少年を慕う様子を見て、『国滅ぼし』のものとは思えずに手を出そうとする輩はどうしても出るか」
「その動き自体はあちこちで探られているのに、どれほどの痛い目を見るのか、あるいはせいこうしたらどうなるのかを見るために黙認する家もあると」
「起きてからでは遅いのだが…‥‥そうなった時の都合の良い生贄にもできるからこそ、止めるようなところもないと」
真偽が不明だと思い、身をもって確かめようとする勇者がどうやら動くようだ。
どうなっても良いとは思うが、出来れば面倒なことにして欲しくはないだろう。
何にしても、この場にいる彼らもどう動くべきか、選択するのであった‥‥‥
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