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3の旅『運命に流された星』

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…‥‥多くの世界を駆け抜け、線路が無ければ仕方がなく適当な陸地に着陸していたこの私。

 でも、流石にこういうのはどうなのかと思う。

―――ボォォォォォ!!
ドッズゥゥン!!
『うおっと!?波打つ線路とはこれまた新鮮だ!!』

 汽笛を注意するリズムで鳴らし、この振動する線路の上を走りながら飛び跳ねされつつ、私は脱線しないように心がける。

 いや、脱線しても走ることはできるのだが、蒸気機関車の身としては、できれば駅とかに付くまで線路に乗りこなしていたいという思いはあるのだ。

 まぁ、牽引している客車とかも跳ねているし、これで中にお客さんでも乗っていたら、それはそれで酷い列車酔いに悩まされるとは思うが‥‥‥うん、乗客0で良かった。それはそれで悲しいような気がしなくもないが‥‥‥どこかの世界で、旅仲間でも募集するべきか?

 しかしながらこの世界、線路があるにしてはおかしなものである。

 リズムよくばうんばうんっと波打っており、その勢いのせいで時々軽く宙に浮く。

 全速力で駆け抜けようとしても車輪が浮き上がり、中々加速できない。

 というか、この蒸気機関車な身体だと、重量が結構あるからな…‥‥ドッスンドッスンっと波打っては着地するたびに音が鳴るのは何か怖い。

 いやまぁ、自分の体重ぐらいは気にしないけどね。人間体の時とはは天と地ほどの差もあるし、時折燃えている石炭がボイラーの外へ出そうになるのは怖いけどね。安全装置、しっかり働いているから良いけど。

 あ、でも一度垂直に上る羽目になって、燃えた石炭が全部後ろの炭水車に入って、大火事になりかけたことはあったな‥‥‥アレは正直、旅している中で一番ヒヤッとした。


 何にしても、波打つ線路とはこれまた珍しい。

 海の上にある線路や、宇宙空間というような場所にも線路はあったが、どれもこれも平坦というか、静かなモノばかり。

 なので、生き物のようにのたうち回る線路というのは今までに走ったことがない新鮮な感覚である。

(というか、何が走るんだろうかこの路線で‥‥‥‥)


 そう思っている中、ふと気が付けば前方の方で、線路が大きく二つに分岐しているのが見えた。

 左側の路線は今走っているのと同じように波打っているが、右の路線は見慣れた平常な波打たない路線。

 何か違いがあるのか気になったが、ポイントを見る限り左へ走るようだが…‥‥ここはちょっと右へ行ってみたいところ。

―――――ボォォォォ!!

 汽笛を鳴らし、軽くいつもの世界渡りの要領で、線路からいったん浮き上がり、宙を駆け抜ける。

 そしてポイントを切り替えることなく、波打ってない路線の方へ着地し、車輪を回転させ走り始める。

『さてさて、こっちの方は何があるんだろうなー?』

 波打たぬ路線はやっぱり走りやすいもので、楽に走行することができる。

 とはいえ何か理由がありそうなので、その情報を得るためにも人が良そうな場所まで進み抜くのであった。









ギ、ギ、ギブシュゥゥゥ!!っと蒸気を出してブレーキをかけ、駅に停車する。

 周囲に一目は無さそうなので、一旦人の姿を取り、駅から外に出て見たが…‥‥

「‥‥‥なんじゃこりゃ」

 そこに広がっていた光景は、あちこちの建物が壊れている廃墟。

 人っ子一人もい無さそうな街であり、そこまで年月も経過していなさそうだが、それでも悲惨な状態。

「ゴーストタウンってやつかな‥‥‥?今まで他の世界や国で見たことはあるけど、これはまだ新しいぞ」

 古びた廃墟であればコケや蔦、雑草などがはびこっているはずだが、ココにはその形跡がない。

 崩れた建物の内部を外から見れば、食事の用意がされているもダメになっており、生活感はあったようだが、つい数日前に全員いなくなったかのような状態である。

「大地震とか毒ガスとか‥‥‥でもないなぁ。死体とかもないし‥‥‥うーん?」

 謎と言えば謎だが、苦しんでというよりも自然のまま流されてなった感じのように思える。

 
「何か情報とか、書物関係の類は‥あ、ちょうど良さそうなのを発見」

 廃墟と化している街だが、商店街らしきものがあり、それぞれがどの様な店なのか示す看板がある。

 その中に本屋と思われるものがあり、その中へ入れば数多くの書籍が売られていた。

「印刷技術とかもあるし、翻訳できるけど…‥‥っと、これだこれだ」

 数多く並べられている書籍をざっと見て、そのうちの一冊を私は手に取った。

「『今日からわかる歴史書~1日3分3ページ~』‥‥‥分厚いけど‥‥‥あ、これだ」

 内容が非常にシンプルだったので、目的のページを捜すのにさほど手間はかからなかった。

「なるほど‥‥‥あの波打つ線路と関係があったのか」

 内容を理解し、私はそうつぶやく。




 本によれば、あの波打つ線路があるこの国‥‥‥いや、もっと大きく見れば、この星全体に巡っている線路は全て、波打っているらしい。

 というのも、この世界のこの星は機械で出来た星であり、あの線路が波打つと同時に地面に刺激が流れ、適切な微弱な電気信号が伝わり、各都市、村、などに規則正しく健康的な生活を与えるような影響があるらしい。

 人間で言う所の心臓や血管に近く、振動を伝えてこの星の生命体を生きて動かすための仕掛けとも言えるだろう。

 何故ならば、この星に入る生命体もここで作られた機械のようなものであり、生身に見えるけれども異なり、振動による電流で動かして生活させることにより、とある特殊なエネルギーを生み出すそうなのだ。

 そしてそのエネルギーは星の各所にある電波塔みたいな場所から外部へ送信され、ココを作った人たちがいる星へ送られているのだとか。

‥‥‥要は機械仕掛けで自然に動くような仕組みを作らせ、半永久的なエネルギー供給プラントである、というのがこの星の真実である。

 死んでいるように見えたのも、完全に生きた生物そっくりに作られており、私はそれに騙されたというべきらしい。




 とはいえ、いつまでも続く仕組みではない。

 半永久的にエネルギーを増産させ続けてきたこの星であったが‥‥‥どうもここ数年の間に長期にわたる稼働の影響か故障し始め、動かなくなった部位が出てきたらしい。

 それが、あの波打たない線路であり、そこからの振動による電流がなくなった町や村は全滅し、誰一人として動かなくなったようだ。

 故障したのであれば、修理すればいいだけの話だが、実はもう、誰もする人がいないそうだ。

 送信先の星では新エネルギーが開発され、この星からのエネルギーはまだ少々もらいつつも、もうほとんど用が無くなってしまい、直す意味がないのだとか。

 ゆえに、放置され始め…‥‥


「‥‥予定では、あと3年以内には全部が停止し、あの恒星へ廃棄するのか」

…‥‥必要が無くなり、直す意味もなくなった。

 しかも、新しいエネルギーはこの星レベルの大規模なものも必要なく、既に廃棄処分が決定しているようなのだ。

 もうここは、死にゆく星。

 少しづつ波打つリズムも消え失せ、用意されていた生活をして生み出す者たちは全て動かなくなり、時を止めていく。


「‥‥‥どうしようもないのか」

 時代の流れというべきものせいで、ここはもう、用済みの廃棄される星。

 私のような蒸気機関車も、昔は元の世界で多く走っていたというが、時代と共に消え失せたという話もあるし、何となく他人ごとでもない気がするのだが…‥‥どうすることもできない。

 私はただの旅人であり、全てを変えるほどの力もない。

 何もできないからこそ、今はもう、去るしかなさそうだ。


「せっかくだし、その星とやらにも向かいたい気もするけど…‥‥何かなぁ」

 宇宙空間を経由して走行して向かう事も可能と言えば可能なのだが、この星の状況などを聞くとなんとなく向かいたくない気持ちがある。

 ならば、せめて空高く走り抜け、この星全体を改めて見て、心の中に記憶しておくべきかとは思う。







―――――ボォォォオ!!
 
 波打たず、普通に見える線路の上で汽笛を鳴らし、私は走り始める。

 ここへ訪れる際に利用した路線を今度は逆に走行して見たのだが‥‥‥‥

『‥‥‥ああ、ここもか』

 乗りこなそうと思っていた、波打ちまくる線路。

 だが、今はもう静まり返っており、微動だにせず、ただそこに敷かれているのみである。

 走り抜け、車輪を浮かし、空へ駆けあがって雲を突き抜け、この世界の宇宙空間内へ私は出た。

 そして、衛星軌道と呼べる場所に軌道を修正し、はるか上空から見下ろしてみると、この星の表面には確かに無数の線路が敷かれており、波打っている個所もあったが、既に動かなくなった部位も見えた。


『線路に見えているのは、偶然的なモノか、はたまたはこの星を作ったものの意図があったのか‥‥‥今となっては分からないか』

 本を一冊頂戴してきたが、その内容には作った人に関しては掲載されていなかった。

 相当昔に作られた星でもあるようで、製作者の情報は無くしたようである。


 ともあれ、ここはもう、私がいていい場所ではない。

 段々とその活動を停止させ、死の星となるところだ。


 時代の移り変わりと共に不必要と判断され、消えゆく星となったその運命に私は同情しよう。

―――ボォォォ!ボォォォ!!ボォォォォォォ!!

 空気の無い宇宙空間とは言え、何故か響き渡る星への手向けの汽笛。

 後に、その音ははるか離れたあの星からエネルギーを摂取していた星々へ響き、驚かせたらしいが、そんなことは私は知らない。

 そして、新しいエネルギーを利用しており、古くなったものに目を向けなかったその星が、実は重要な部分での代替えが済んでおらず、予定よりもはるかに早く機械仕掛けの星が失われたその瞬間に、滅びの道を歩みだしたことも知らない。

 もう二度と訪れる事の無い世界。

 それでも、時代の流れによって消えた星には同情し、その星の歴史書だけは、私の牽引する列車のうち、各世界から集めた蔵書を補完する図書室がある車両に、ひっそりと追加されるのであった…‥‥
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