絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~

志位斗 茂家波

文字の大きさ
3 / 238
運命の結びつき

log-002 アラクネの少女

しおりを挟む
…さて、どうにかこうにか服を着てもらったところで、この状況をどうするかが問題である。
 
 周囲には、哀れな獲物を狩るはずが、逆に命を失う結果になってしまったゴブリンたちの死骸。

 そしてもう一つは…


しゅるしゅるるるぅ…ぽふん
【良し、これで問題ないよね?】
「問題ないし、結構似合うよ」

 糸で器用に作り上げ、即席のワンピースを着こなして問いかけてくる彼女…上半身は少女だけれども、下半身は蜘蛛の体があるモンスターに対して、そう答える。

 流石に素っ裸のままでは見づらかったが、こうやって衣服を着てくれたことで多少は色々なものが収まってくれただろう。



 ひとまず落ち着いたようだし、どうやらゴブリンたちとは異なって、彼女のほうは敵意も無いどころか助けてくれたので、ある程度の意思疎通が可能そうなので話しかけることにした。


「えっと…まずは、助けてくれてありがとう。ゴブリンたちに、もう少しでやられるところだったよ」
【危ないところだったもんね。首がある相手だったからよかったけど、流石に実体のないモンスターとかだったら助けられなかったもの】

 本当に、良かったと思う。
 実体のない相手、ゴーストのような類に襲われたくもないが、今回は実体がある相手だったからこそ、彼女の救いの手が間に合ってくれたたようだ。

「それで、助けてくれてなんだけども…君は、誰なの?」
【私?えっと、どういえばいいのか…うーん、朝露大好き、運命のつがいを探すために、お母さんのもとから旅立って、相当時間をかけた、人間でいえばモンスターだよ!!】
「モンスターなのはわかっているって」

 ツッコミどころがある話なのはさておき、どうやら彼女の種族的なものとかはわからない模様。
 モンスターであるという自覚はしっかりと持っているようだが、個としてのものはどういうものなのか理解していないらしい。

 要は名前のないただの一般モンスター…ゴブリンたちを瞬殺した実力を見るとそう言って良いのかはわからないが、とりあえず分かった情報から察するに、その番とやら探すために旅をしていたモンスターのようだ。

「運命の番って?」
【人間にもあると聞くけど、運命の出会いって言うんだっけ?そういう相手が、この世界のどこかにいるって感覚が、何故かあって…その相手を探すために、旅をしていたの。そして今、見つけたの!!】

 そう言いながら彼女は駆け寄り、抱きしめてきた。

ぎゅう!!
【私、何となくわかった!!あなたから、運命の糸を感じるもの!!私の運命の番、ここにいたんだ!!】
「えっ!?」

 モンスター同士で相手を見つけるものかと思っていたが…どうやらそうでもなかったらしい。
 いやいや、自分は人間でまだ幼いし、そんなことを言われても戸惑うしかないだろう。


【山を貫き、谷を埋めて、川を干上がらせて、ようやく出会えた!!わーい!!】
「ちょっと待って待って、いや、その他に何か色々しでかしている気がするんだけど!?」

 喜ぶ声を上げる彼女に対して、そうツッコミを入れざるを得ない。
 さらっとやばいことを自白しているのだが…この世界ならではの比喩的なものだと思いたい。




 とにもかくにも再度落ち着いてもらう。
 抱きしめられたままだと、衣服越しでもわかる双丘の感触にドキドキしてこちらが落ち着かないのもあるため、降ろしてもらった。

【ふふふ、運命の相手、ついに見つけた!!私の旅、これで完了!!お母さんに良い報告が、報告が…あ】
「…どうしたの?」
【…えっと、私のお母さんの場所、どこだっけ】
「そんなこと、出会ったばかりの自分が知るわけもないってば!!」

 目的を果たしたのは良いのだが、その後を考えていなかったのだろうか、この天然蜘蛛モンスターな彼女は。
 ゴブリンを倒した実力は持っていても、どこか抜けているようであった。


「この様子だと、お母さんとやらも同じような…下手すると、旅立ったこともわかっていなかったりして」
【そんなこと、無い…と、言い切れないかも。お母さん、たまにうっかりで私たち食べるからね】
「うっかりで子供を捕食する親って大丈夫なの!?」
【大丈夫大丈夫、もう兄弟姉妹慣れちゃって、お母さんに喰われても出られるように、専用の出入り口作ったからね】

…本当にこの子のお母さんはどういう人、いや、モンスターなんだろうか。
 見た目こそアラクネというモンスターだからと言って、親も同じ姿とは限らないが…怖いなぁ。
しおりを挟む
感想 488

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~

志波 連
ファンタジー
息子と一緒に事故に遭い、母子で異世界に転生してしまったさおり。 自分には前世の記憶があるのに、息子は全く覚えていなかった。 しかも、愛息子はヘブンズ王国の第二王子に転生しているのに、自分はその王子付きのメイドという格差。 身分差故に、自分の息子に敬語で話し、無理な要求にも笑顔で応える日々。 しかし、そのあまりの傍若無人さにお母ちゃんはブチ切れた! 第二王子に厳しい躾を始めた一介のメイドの噂は王家の人々の耳にも入る。 側近たちは不敬だと騒ぐが、国王と王妃、そして第一王子はその奮闘を見守る。 厳しくも愛情あふれるメイドの姿に、第一王子は恋をする。 後継者争いや、反王家貴族の暗躍などを乗り越え、元親子は国の在り方さえ変えていくのだった。

なんか修羅場が始まってるんだけどwww

一樹
ファンタジー
とある学校の卒業パーティでの1幕。

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される

秋.水
ファンタジー
記憶を無くした主人公は魔法使い。しかし目立つ事や面倒な事が嫌い。それでも次々増える家族を守るため、必死にトラブルを回避して、目立たないようにあの手この手を使っているうちに、自分がかなりヤバい立場に立たされている事を知ってしまう。しかも異種族ハーレムの主人公なのにDTでEDだったりして大変な生活が続いていく。最後には世界が・・・・。まったり系異種族ハーレムもの?です。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

うるせえ私は聖職者だ!

頭フェアリータイプ
ファンタジー
ふとしたときに自分が聖女に断罪される悪役であると気がついた主人公は、、、

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...