絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~

志位斗 茂家波

文字の大きさ
13 / 238
運命の結びつき

log-011 穏やかな風の中の、ちょっとしたもの

しおりを挟む
…村の中での生活は、穏やかな時間が過ぎるだろう。
 のんびりとした田舎の村、ちょっとばかり行商人から仕入れる本で影響を受けて個性的になるところがあるとはいえ、それでも穏やかな場所である。

 穏やかゆえに刺激も少ないが…まぁ、平和に過ごせるのであればいいのだろう。

 しかしながら、この世の中、完全に安全というわけでもなく、先日のゴブリンのこともあってか多少は警戒する必要がある…はずだった。

「でも、この間のゴブリン以降、モンスターそのものを見かけないよなぁ。こういう田舎の場所こそ、実は増殖していましたとかあってもおかしくないのに」
【夜間、村の外からの侵入者に警戒していますけれども、獣以外これと言って出てこないですからね】

 イメージ的にはこういう田舎だからこそ、やばいモンスターが出てきてもおかしくはなかったが、見かけることが無い。
 教会の中で学んだ内容によれば、どうも田舎過ぎるとそれはそれでモンスターが出てくることが少なくなっており、程よく人がいる場所のほうが目に付きやすいようだ。

 このことから一説では、モンスターは一定以上の人数がいる場所でないと近寄らないような性質でもあるのかというものもあるらしいが…

【あながち間違っては無いとは思いますよ?私たちモンスターは、人を人としか見ていないですけれども、何となくその数ぐらいは理解していますからね。私は襲うタイプではないですが、襲う方々だと人が少ない場所よりも、多い方が狩りがいがある…そんな感じに見ているのかもしれないですよ】

 さらっとそんなことを口にしたが、どうやら人の数によって決めているところもある模様。
 そもそも人を襲うメリットがモンスター側にあるのかと思ったが、喰らうタイプの場合は獲物として見ていることが多いようで、たくさん食べられる人の多い場所を狙いやすいようだ。

 少なかったらそれはそれで労力もだいぶ減るとは思うが…そのあたりを考えているのだろうか。

 とにもかくにも、田舎過ぎる村ということが幸いして、モンスターがそんなに目を付けるような場所にはなっていないらしい。
 逆にそうなってくると、人口の多い都市部…王都とか言われるような場所は大丈夫なのかと気になるが、どうやらそちらはそちらで対策を取っているらしい。そうでもないと、国を創る前にモンスターの手で滅亡する可能性もあったか…。



【でも、そこそこの規模の村や都市であれば、狙うモンスターが出てくるとは思いますよ。ここはそんなにないですが、別の場所ならば、がっつり人を襲う系のものが…まぁ、そんなのが出てきても、私がジャックに危害を加えられるのを黙って見過ごすことも無いですけれどもね!来たら、ゴブリンと同じ末路を辿らせますよ!!】

 来て早々に、あのゴブリンたちと同じ末路を辿るモンスターたちか。
 首が無い相手の場合はどうするのかと思ったが、切り裂いたりなどができるので臨機応変に対応はできるだろう。

 そう考えると、彼女がいてくれてより一層、この場所は安全ということなのだろう。


【でも、まずはモンスターよりも…魚が来てほしいですね。さっきから、まったく釣れないですよ】
「そもそもヤバいモンスターが来ないほうが良いんだよなぁ…」

 本日は教会での学びもお休みで、昼食の足しにしようとハクロと一緒に近くの川にて釣りをしていたのだが、先ほどから全く魚が釣れる気配がしない。
 もしや、野生動物は何かと勘が鋭いというが、魚にとってもハクロはかなりの危険生物として認識されて、彼女の糸では絶対に釣れてなるものかとけいかいされているのではなかろうか。


「いつもなら、2~3匹は釣れるんだけどね」
【むぅ。網を使ってなら…それだと釣りの醍醐味が無いですね。仕方が無いです、気長に待つとしましょう】
「そう言いながら、ちゃっかり僕を膝…膝?に乗せて抱え込むようにするのは何?」
【ふふふ、ジャックにくっついていたほうが、待ちやすいですからね。…はっ、このまま何も来なければずっとこの状態でいることが】
「あ、ハクロ、引いているよ」
【空気読まない魚さあぁぁん!!】

…何やら思いついていたようだが、その企みは一匹の魚によって即座に打ち砕かれたのであった。
 この魚、モンスターとかではないよね?空気を読んだタイミングだったんだけど。







 悲しき蜘蛛の声が響き、魚が瞬時に生きたままの活け造りにされていたその頃。

 ナモアリ村から離れた場所…カルク領内の都市カルクリアン。
 その場所にある冒険者ギルド内部で、ある情報が入ってきていた。

「…ロードゴブリンの群れの発生情報だと?」
「どうやら、ゴブリンの上位種であるロードゴブリンが、通常は群れの長となっているはずですが、何故かロードが群れとなっているとの目撃情報が入ってきました」

 ギルド内の室長室。
 ギルドを治めるギルドマスターの元に、ある報告が入ってきていた。


 先日、ここから少し離れた場所にある村にてあった、ゴブリンの発見情報。
 この領内でのモンスターの目撃情報は少なく、都市の名が付くとは言えそれほどの規模が無いこの場所でもそんなに見かけることはなかった。

 そのため、どこから来たのかという調査を行っていたが…その最中に、群れの情報が入ってきたのだ。

「情報によると、通常の群れと比較して通常種のゴブリンの行う雑務が200%以上となっており、負担が爆増して逃げ出しているものもおり…そのうちの一部が、先日ナモアリ村にて出てきたゴブリンだと思われます」
「そこから出てきたのか…しかしなぜ、ロードばかりの群れが?」
「原因は不明。出現の仕方からして、自然発生版…としたいですが、それにしても数が多すぎます」

 この世界のモンスターの発生の仕方に関して、大きく分けて三つある。

 一つ目は、自然発生。何もない場所にいつの間にか生まれ落ちており、大半のモンスターはそれによってこの世界にいる。
 何故、そんなことが起きるのかは不明なことが多いが、人間の負の感情や何かしらの儀式が呼び水となって、どこかの世界から引っ張ってきたのではないかという説がある。

 二つ目には、生殖活動による発生。自然発生の後のほうにできたものである。
 ただし、増え方は獣たちと同様にバラバラであり、卵だったり、胎生、分裂、寄生、集合による個から大きな個への変貌等がある。

 三つ目には、人工的な発生。ゴーレムやスライムなど、人間の手によって生み出されるものが存在しており、自然発生の中の儀式系もこれに近いのではないかと言われている。


 その中で、今回のロードに関しては、周囲一帯にゴブリンの目撃情報がこれまでなかったことから、自然発生に近いものに見えるが、それにしてはおかしなものになっている。
 上位種はその種族の上に立つ立場のものだが、通常種と比較して発生する数は少ない。

 それなのに何故か、その上位種ばかりの群れとなっているのだ。

「…ロードが長となっているはずが、そのロードばかりか…もしや、さらに上のゴブリンキングでも生じているのか?」
「その可能性は大きいかと。通常種のゴブリンであればまだ良かったのですがその上の者ばかりだと…今あるこのギルドの戦力では、厳しいかと」

 モンスターの中では思いっきりザコ扱いになるゴブリン。
 だがしかし、その上位種ばかりの群れとなれば、危険度は一気に増す。

「…ギルドの冒険者及び他のギルドにも応援要請を。すぐに潰さねば、被害が出るぞ」
「了解。緊急ギルド間連絡用マッチョポッポ及び伝達魔道具をフル起動させます」

 何故その群れが出来たのかの発生原因も知りたいが、下手に時間をかければ、領内のどこかで…いや、場合によっては他の領地に流れて、大きな被害が出る可能性もある。

 すぐさま他の場所への応援を要請し、殲滅へ動き出すのだった…



「まったく、なぜこんな事態に…いや、早期に気が付けたからまだ良かったか」
「元々は、ナモアリ村からの情報でしたからね。これが無ければもう少し後の、被害が出たほうで情報が入ってきたかと思われます。情報源は村の少年と、従魔登録されたモンスターのようですが」
「そのモンスターに関しても、頭が痛い話があるが…出来れば詳細を確認したいから、ここまで来てほしいが…」
しおりを挟む
感想 488

あなたにおすすめの小説

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される

秋.水
ファンタジー
記憶を無くした主人公は魔法使い。しかし目立つ事や面倒な事が嫌い。それでも次々増える家族を守るため、必死にトラブルを回避して、目立たないようにあの手この手を使っているうちに、自分がかなりヤバい立場に立たされている事を知ってしまう。しかも異種族ハーレムの主人公なのにDTでEDだったりして大変な生活が続いていく。最後には世界が・・・・。まったり系異種族ハーレムもの?です。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

なんか修羅場が始まってるんだけどwww

一樹
ファンタジー
とある学校の卒業パーティでの1幕。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

精霊王の愛し子

百合咲 桜凜
ファンタジー
家族からいないものとして扱われてきたリト。 魔法騎士団の副団長となりやっと居場所ができたと思ったら… この作品は、「小説家になろう」にも掲載しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...