絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~

志位斗 茂家波

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少し広がっていく関係性

log-115 狩り時はいつになるのか

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…悪魔の騒動も乗り越えつつ、季節は巡り、歳月は過ぎる。

 流石にあのような一年のうちに何度も大きな騒動があってからは、しばらくの間はそこまで目立つ者もなく、ちょっと怪しい動きもあったが…ジャックたちの周囲ではすぐに駆け付けられるような場所ではなかったようだ。

 悪魔側が警戒しているのか、それとも悪魔が一体失われた故の補填活動でもしているのか、その理由は定かではないが、手出しを出してこずに平穏に過ごさせてくれるなら良いだろう。

 何ならば、寿命を終えて生を謳歌しきったあたりまで、何もしないでほしいほどだ。


「そして今年でついに、14歳になって、ぐんぐん背が伸びてほしかったけど…」
【あまり変わってませんものね】
「そこなんだよねぇ…」

 自由にのびのびしたいところだが、そう伸びない悲しい成長。
 とはいえ、まだまだ若いので、将来の可能性は大きくあるだろう。

「まぁ、そんなことよりも今は勉強のほうが大事だけどね。えっと、課題はこれで終わりっと…」

 悪魔騒動も過去になるが、未だに油断は禁物。
 そんな中でもしっかりと将来を見据えたほうが良いので、そこも気を付けつつ気が付けば4年の歳月が経過しており、将来の進路に関してジャックは固めつつあった。

 面子的に見れば、武勲を取るなども可能だろう。
 ハクロ、カトレア、ルミ、ファイ、ルトライト…彼女たちの力が相当大きいのもあって、もしも戦闘があれば即座に潰せそなほどでもある。

 しかし、平時の世の中戦争でもない限りはその必要性も薄く、むしろ平和な方で使いたいところ。
 頼り過ぎないようにもしたいが、流石に完全に頼り切らない道と言うのは難しそうでもあり…どうしたものかと考えながら過ごした結果、出てきた折衷案は…

「それでファイ、そっちはもらえた?」
【大丈夫だったでス。ギルドのほうの人員はいつでも募集中、冒険者の資格を有していても、問題なくなることは可能そうでス】
【ふむ、ギルド職員の道か…そっちの方が、案外主殿に向いているかもしれぬな】


 そう、決めた道は冒険者ギルドの職員への道。
 受付嬢とかは流石に無理だが、このご時世その方が安定しやすいだろう。

 各地に点在しており、いざとなれば冒険者たちへの支援活動もあり、職としては忙しい面もあれども、困る部分は少ない。
 商人の道もあったが、そちらはそちらでこの面子ならば賊に襲われるリスクも減らせるとはいえ、商才が無ければ大成しづらいだろう。

 ならば、もう少し生かしやすい方を考えた結果、ギルド職員になることを進路に決めたのである。


 なお、学園を経なくとも試験や研修を経て受かることもできるが、給与や待遇などで差が生じるらしいので、今すぐになるわけではない。
 じっくりと必要な資格や知識を仕入れて、積み重ねていくべきなのだ。

【ふふん、マスターが入ってくれればそれだけでも良いですからネ。あたしも、他の皆も一緒に働けれえば職場も賑やかになりますヨ】
【いつの間にかバイトから、正規職員とほぼ変わらない立場になった人が言うと説得力がありそうなの】
「そうなるとファイが先輩扱いみたいなものだけど…まぁ、どこのギルドになるかは決まってないからまだいいか」

 ギルドの職員の仕事場所も色々とあり、何も王都に限った話ではない。
 聞いた話ではダンジョンと呼ばれる場所にあるものや、いざという時の緊急対策場所などもあるようで、勤め先として見ても種類が多い。

 そこからいかにして、より良い職場と安定性を求められるかがカギとなるが…今のところはこの王都のギルドが最有力候補だろうか。


「王都にいたほうが都合が良いってのもあるしね…この数年で、皆ここで色々やっているもんね」

 ルミが王城のほうで騎士たちとの鍛錬を積んでいるが、それに加えてルトライトも実は王城のほうに出向き、宮廷魔導士などと組んで魔法の鍛錬を積んでいたりもするのだ。

 そのおかげで、王城の警備を行っている兵士たちや魔導士の実力が向上したのもあって、ルがつく名前の彼女たちだからルー姉妹だとか愛称を持ったらしいが、それはさておき、他の面子も似たようなことをやっている。

 ファイの場合は最初はギルド職員での鑑定士のバイトをしていたはずだったが、正規職員と変わらない待遇へ…いや、むしろその能力の高さゆえにより出世しており、ここ数年の中で大闘争会での実況役を担ったりしているだろう。

 カトレアも当初はこの面子の中で特に外に出ないほうが多かったが…薬草や野菜果物、その他諸々の栽培をして販売していたりするし、ハクロも自身の糸を降ろしてブランドが出来上がっていたりするほど。


 モンスターなのに、これほどまでに人々との生活に密接につながり、関わり合うことが出来ているというのもすごいことなのかもしれない。


「だからこそ、ここでの就職も都合が良いけど…他の経験もそろそろ必要になりそうだよなぁ」

 よく言えば安定した生活になっているが、ゆったりしてくると少しは刺激が欲しくなってくるもの。
 
 無茶苦茶すぎることはやる気はないが、変わったこともあってほしくなるのだ。
 もちろん、悪魔関係は超絶NGだが…刺激欲しさにやらかす気もないし、明らかにヤバい奴らだとわかっているので、索敵即滅…面倒事を引き起こされるまでに叩き潰したほうが良いのには変わりはない。



 そんなことを思っている中で…ある日、学園よりある誘いが告げられた。

「…短期留学ですか?」
「ええ、そうよ。あなたにその話が出ているの」

 そう言いながら説明してくれるのは、魔法の授業の担当教師クジャーラ先生。
 授業が終わった後に呼び出されたかと思えば、まさかの話が飛び込んできた。


 なんでも、このグラビティ王国と友好関係を結んでいる国々の中で、各々の教育機関で学ぶ生徒の一部を、世界を見てより知見を広めてもらうために留学をしてもらう制度があるらしい。

 自国だけではなく世界を見て、異なる常識や文化を学び、それをより良い形で発揮できるようにするらしいのだが…その中の推薦で、選ばれたようだ。

「と言うのも、元から成績自体も悪くはないし、その真面目な態度等で評価はあったのよね」
「まぁ、ハクロ達がいろいろとおしえてくれますので…」

 正直に言えば、勉学などでも彼女たちに世話になっている部分も多いだろう。

 ハクロは数学のほうが強かったし、魔法や剣術はルトライトやルミがいるし、万能的な知識ならファイ、受けている授業の中で薬草系はカトレアに教えてもらうなど、各分野で強い面々がいるからだ。

 そのおかげもあって、成績自体も良い方向だったが…そこで白羽の矢が当たったようである。

「とはいえ、留学と言っても短期よ。およそ半年~1年ほどだけど…そこはまぁ、予算の問題ね」
「割と世知辛い問題が絡むんですね」
「単純に、往復にかかる旅費や、保険金ね。留学に行く生徒の中には、貴族側のほうで行くか子供たちもいて、その安全対策のためにガッチガチに警備を雇ったりするから…」

 色々と大人の事情もあるし、この世界は前世の世界ほど凄い安全と言うわけでもない。
 と言うか、悪魔とか竜種騒動がある時点で、比較にもならないほどやばい面もちらほらと見えていたりするのだ。


 それはさておき、出てきた短期留学の話。
 せっかくならば経験を積むことを考えても、受けたほうが良いだろう。

「あ、でも僕の場合は従魔たちがいるのですが…彼女たちも一緒に向かえますかね?流石に無理でしょうか?」
「それは大丈夫よ。あちらも事前にどのような生徒か調べて、対応してくれるもの。大きな従魔や、数が多い相手にも対応した特別留学寮も用意してくれるわ」
「なるほど」

 国の面子と言うのもあって、どのような生徒であっても確実に受け入れられるようにするらしい。
 流石に限度もあるが、それでもそれ相応の対応はしてくれるようなので、安心と言えば安心か。

「それで、留学先と言うのはどこになるのでしょうか?」
「そうねぇ…今のところ、エルメリア帝国となっているわ。この国の友好国の一つで、実力主義な面も多くて…しっかりと学んできてほしいわね」

 留学先となったのは、グラビティ王国と友好関係にある国。
 流石に関係がない国との相手はできないだろうし、そうなるといくつかの候補があったが、その中でもこの帝国になったようだ。

「エルメリア帝国か…」

 帝国…名前の通り、王国とは異なり、皇帝が治める国だが、何でも近年は現在の皇帝が隠居を考えているらしく、帝位継承でのごたごたもあるらしい。
 巻き込まれる気もないが、気を付けておいたほうが良いだろう。

「あれ、そういえばあれもあったな」

 ふと、考えている中であるものを思い出した。


 数年前に王都で起きた誘拐未遂事件。
 あれで助けた少女から、お礼にもらった代物があったことを。

「これも何かの縁かな…もしも、出会えたら改めて挨拶でもしようかな?」

 世の中、そううまく再会するようなめぐりあわせはない。
 それでも、もしもを考えれば0ではないというのもあるだろう。


 そんなわけで、戻った後に皆に伝え、留学の用意をし始めるのであった…




【…まぁ、ここから離れても大丈夫と言えば大丈夫だぜ、我が君】
「え?なんでなの、ルトライト?」
【いざとなれば、オレの魔法で送り迎えできるからな!雷と同じぐらいの速度で行き来が可能だぜ】

…移動手段は何も、馬車とかそういったものにも限らず、早いものもある。
 魔法での移動もありだが…そこまで急ぐようなものも必要ないので、別に良いかなぁ…


 
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