絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~

志位斗 茂家波

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少し広がっていく関係性

log-137 なのがめざすものなの

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―――記憶とは、たまに不思議なものである。

 これは自分のものではないとどこかで理解しているというのに、その感じていたものや抱いているものを見てしまうことがあるだろう。

 そう、ミーではない、あの大木の記憶であり…


【そしてこの間の地脈の吸い上げで、でっかいエネルギーを得たせいかメッチャ体調悪いのなの…】
「大丈夫?カトレア」
【滅茶苦茶しおれてますね…】


 ぐでーっと力なくしおれるカトレアに対して、ジャックたちは不安に思っていた。

 ここはエルメリア帝国の帝都であり、医者がいないわけではない。

 しかし、人に近い様子をしている彼女たちではあるが、その中身は人ではなくモンスターであり、こういうことに関してはその専門家が必要なのだ。


 なので、探そうとしていた…その時だった。


【おい、今医者を連れて来てやったぞ】
「誰が医者だ。いや、一応はモンスターに関しての知識は悪魔の嗜みではあるが…」

 ルミが連れてきたのは、悪魔ゼリアス…改め、この帝都の学園内でモンスター学の教師を行っていたリア教師。

 どうやらこの学園に教師として潜り込んでいるらしいが、その際に選んだ分野がまさかのこの学問であり、呼び寄せるにはうってつけのものだったようだ。

「というか、悪魔がモンスター学を教える立場になるって…いや、ありなのか?」
「間違いではないぞ。人を襲わせるには都合が良いし、場合によっては人造モンスターでスライムやゴーレムの類も対応することがあるからな。まぁ、こういう学問は悪魔としては取得しておくものだが、熱意溢れる人間のほうがよりやばかったりするがな…確か、グラビティ王国の貴族学園のほうに、そのやばい一例がいるはずだろ?」
「あ、知っているんですね、あの先生」
「…過去に少々な。悪魔側でも何人かは密かに人間に化けて、その知識だけを目当てにして向かう奴もいるんだよ。何人かは、確実にやらかしたうえでトラウマを植え付けられて帰還してきたことがあったが…」

 何をやっているのだろうか、あの人は。
 そのうえしっかりと、悪魔にもトラウマを植え付けるとは、一体何をしているのだろうか。

「それを深く聞かないほうが良いぞ…聞く側もまぁゴリゴリ削れるからな」
「本当に何をやっているのあの人!?」

 とにもかくにも、それでも一応診察はできるようで、カトレアのことを診てもらう。

 手をかざし、何やら光る魔法陣のような物が展開され、CTスキャンのように全身を透過して消え失せた。

「…ふむ、こりゃ確かに先日の地脈が原因だな。一度吸い上げて放出したとはいえ、相当のエネルギーが入ったことで、一部の細胞が変な活性化作用を引き起こしている。植物系モンスターの出す症状の一例に、肥料過多による根腐れがあるが、その一歩手前と言ったところか」
「根腐れ!?それ、大丈夫なんですか!?」
「心配するな、一歩手前と言っただろ。起こしていないのは、それだけのエネルギーに耐えれるだけの強さを持っているようだからな。しかし、このモンスター、相当若い割には器部分がかなり年月を経た大樹のような…何かあったか?」
「あ、それって多分ですが…」

 かくかくしかじかと、カトレアの前に出会ったトレントに関して、軽く説明した。


「なるほど…そのトレントの類の引き継いだ種か。確かに、その説明ならば納得はできるだろう。その分の容量が、ギリギリ救ったようだ」
「良かった…」
「だが、それでもギリギリなところだ。なので、身体が自然とそれに対応しようと動いて、あちこちのバランスが崩れているようだな。乗り切れば、恐らく進化するだろう」
【進化!ミー、進化できるの?】
「ああ、アルラウネなら順当な進化先としては…ドリアードあたりか」
【ドリアード…!!嬉しいの、ミーそれ絶対になりたいのなの!!】

 リア教師の言葉に、目を輝かせるカトレア。

「モンスターとしての本能で、強くなれるからこそ喜んでいるのか?」
【違うのなの!!ドリアードとくれば大きくて立派なのあるのなの!!このでかいやつら全員、大差を付けれるような巨木になれるのなの!!】
「大きさかぁ…確かに、カトレアはこの面子の中で小さい方だからなぁ」
【前はオレが一番小さかったもんな。すぐに大きくなったけど】
【ルトライトはある意味裏切っているのなの…ぎぎぎなの】
【何故裏切りと!?】

 カトレアの言葉に返答していたルトライトだったが、返ってきた言葉に驚愕の顔を浮かべる。

【ついでにファイも、ずるいのなの!!スライムボディだから色々と変えれるのがうらやましいのなの!!】
【まぁ、変化は確かにできますネ。今はこの形が一番良いので、特に変える気はないですガ】
「そのスライムもおかしいといえばおかしいんだよなぁ…悪魔的に言えば。見た感じだと、どこかのぜっ…あ、いや、これ口に出したら不味いか。そのてのやつを作った輩の作品と何か似ているようだが…あいつの作風にしては違うからな…」

 ぷくーっと今度は頬を膨らませて、ファイのほうに憤るカトレア。 

 とにもかくにも、一応何とか元気は出てきた様子。

「今はまだ、不安定なバランスがその不調を起こしているようだ。処方箋としては…この薬と、後は光合成をひたすら行え。体内のエネルギーの循環を隅々にまでいきわたらせて、安定化をさせるんだ」
「わかりました」
「しっかりしないと、栄養不足で…こっちのデッドトレントになる可能性もあるからな」
【きちんと守るのなの!!】

 さささっとリア教師が書いたデッドトレントやらの絵を見た瞬間、びしっと綺麗に姿勢を正し答えたカトレア。

 そこに描かれていた絵は…何とも言えない不気味さがあった。

 確かに、このような怪生物にはなりたくないだろうなぁ…なんかオオォォウっとか叫んでいるような声が聞こえるような、本当に絵が生きているような…




【…お主、絵心だけは騎士時代と変わらないようだが】
「いや、これ忠実に再現した絵だからな?大体、それだったらあの聖女様の絵心のほうがヤバかっただろ」
【…否定できぬのが何とも言えぬな】
「そうだろ?俺たちを描いたという絵を見せてもらった時の、あの何とも言えなくなった空気を思い出すだろ?」
【…】

 
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