ダンジョン配信ですよ、我が主 ~いや、貴女が配信したほうが良いような~

志位斗 茂家波

文字の大きさ
64 / 69
チャンネル2 地道に広がる他者との交流

第五十七話 メイドだからこそ見ているのデス

しおりを挟む
―――深夜、寮の誰も彼もが寝静まり、寝息を立てていた。

 消灯され、本日は曇り空ゆえに星々の明かりが差し込むこともない、闇夜の中…その領の一室では目を光らせている存在がいた。


【---オートスキャン完了。本日も、その他怪しいものはいないようですネ】

 センサーを稼働させ、周囲に潜む悪意が無いのか確認するエリーゼ。

 マジックアイテムとして存在しているからこそ、他の生物のように眠る必要性もそこまでも無く…だからこそ、こういう夜間の油断する場に、文字通り警戒の目を光らせるのだ。

 

【ん…すぅ…】
【ふにゅっ…】

…すやすやと、室内で眠るクロハにサクラ。

 ハンモックに揺られ、巻き付く機を抱きしめ、穏やかに眠るのは個々がダンジョンの中ではない安全な場所だというのを理解しているからだろう。

 普段の配信時の中で、見せないような姿はこの場所限定と言うべきか。

(いえ、ご主人様の側で安らぐ時も見れますネ)


 ちゃっかりクロハが自身の器用さを活かして、異土を模して作ったぬいぐるみをぎゅうと豊満な胸で抱きしめ潰している姿を見ると、そんなことが容易に想像できる。

 あと絶対に、一緒に寝かせたらこのひしゃげかけて中身が飛び出かけているぬいぐるみのようなことになるのも目に見えているため、やらかす未来にならないようにしようとも心に思う。



 まぁ、それはどうでも良いとして、今は別のことに目を向けたい。


【…それで、そちらは起きているようですが、眠れていないのでしょうカ】
「…どうやら、わかっていたようですわね」

 エリーゼが目を向ければ、ベッドで寝息を立てていた雪夜が目を覚まし、そうつぶやく。

 むくっと体を起こし向き直るが…その目の色は、昼間に見たものとは異なっていた。



 昼間に見た時は、その透き通るような青白い髪色に合わせたような、深い蒼色。

 しかし今、その目の色合いは…薄い金色に変化していた。

「それに、その感じ…おそらく、わたくしがどういうものなのか、もうわかってますわね?」
【ええ、ハイ】

 メイドだからこそ、ご主人様の周囲にある者たちの素性を把握することは必要であり…許しが無ければそこまで調べることもなかったが、今回ここまで近くに来たからこそ、彼女は自動で解析してしまい…そして、雪夜が何なのか理解してしまった。

【見た目こそ人であり、風呂に入ったり布団で熱を籠ったりしてますが…?】
「…」

 センサーが捕らえた、人としてあってはならないもの。

 メイドたるもの、人の体調管理にしっかりと眼を光らせるのだが…雪夜のその中身は、人ではありえないほど低すぎる。

【そのうえで、色々と探った結果…おそらくは、『雪女』ですネ】
「…驚きましたわ。まさか、そこまで言い当てるとは」

 驚愕したように目を見開く雪夜。

 その姿はいつの間にか、先ほどまで来ていたパジャマ姿から昼間の着物…いや、氷を纏っているかのような透き通るもの変化しており、周囲の気温がわずかに下がった。




…そう、雪夜は人ではない。

 雪女…冷気を纏った、妖。


「でも、モンスターではないですわ。ダンジョンのほうが、外からのモノで、わたくしのようなのは…そうですわね、わかりやすく例えるのなら、在来種?とかそういうものですわ」
【外来種扱い…ううむ、間違ってはない…のかもデス?】

 その例えに首を傾げたエリーゼだったが、それでも正体を看破したのには間違いない。

 
【ですが…そうだとすると、貴女の元々の父親はその雪女の母親ト…】
「あ、そこは違いますわよ。あのドぐされ外道は、本当に最悪でしたもの」

 雪夜が人ではなく雪女であるのならば、その母親も雪女。

 ならば、かつてのDV下衆男がそのような存在と交われたのかと思ったが、そうではないらしい。

 かくかくしかじかと雪夜の説明によれば…かつての父親、異土にとっての二番目の父にして数々の最悪の愚行を犯した外道は…偶然、とある雪山にて、まだ赤子だった雪夜を見つけ攫ったのだ。

 つまり、最初から連れ子と言うよりも堂々とした誘拐犯だった。

【思いっきりその時点で、アウトですネ。いえ、まずその赤子の時のことを覚えているのハ】
「ええ、不思議かもしれないですけれども、覚えてますの。…あの外道、恐らくはわたくしをゆっくりと育て上げ、見世物小屋に売りつけるか、はたまたは考え無しか、あるいは本当に大馬鹿すぎて飛びぬけていたのか…そこまではわからないですわね」
【愚者の思考と言うものは、読めないものですからネ】

 とにもかくにも、そんな父親…いや、情報が集まってくるにつれて色々と頭のおかしすぎる父親に色々と恐れおののくが、まだ幼い時は逆らえなかった。

 暴力で脅され、将来を見越すあの外道な目。
 
 再婚した異土の母親に必死でやめるように説得しようも、何をどうしてかふせぎきれず、起きてしまった暴力の日々。

 そんな中で人に絶望する中だったが…それでも、消えることはなかった。

「…闇の中のような、最悪の中でもお兄様はわたくしを、助けてくださったのですわ」

 父からの暴力に耐え、雪夜が傷つかないようにして、少しづつその証拠も固めた日々。

しっかりと警察に訴えることができるようにして下地を固め、血のつながりが無いとはいえ妹を守ろうとする兄の姿はどれほどまで頼りになり、そして救われたか。


「まぁ、お兄様は今もですけれども、小柄なもので…わたしくも当時はまだまだ非力であと少しでと言う時で…あの愚か者はしでかしたのですわ」
【というト?】
「…わたくしたちの用意していた証拠を見つけて…愚者でも不味いことを理解して激高して大暴れして…お兄様が、命の危機に陥りかけたのですの」
【…】

 普段も酷かったが、その時はさらに比較にならないほど怒り狂った愚か者。

 雪夜を殴ろうとしたその拳を異土がかばい、それに余計に邪魔だてされたことに腹を立てたのか更に暴行を加え‥‥雪夜の目の前で、異土の命が奪われそうになった。

「あの時のことはもう、思い出したくもないですわね。…怒りに飲まれ、わたくしは何をしでかしたのか、よく覚えていなかったというのも正しいですわ。でも、気が付いた時には男は体の一部を残して消え失せ、部屋中が凍り付いて…ええ、暴走したともいえますわ」


 何が起きたのか、実は正確にはわかっていない。

 しかし、その後に起きた父の末路を考えると、何か気に触れるような…それこそ、瘴気を失わせるだけのことをやってしまったのだろう。

 幸いと言うべきか、異土自身も何が起きたのか、あるいは命の灯がギリギリだったゆえに覚えることができなかったのか、その真相は…闇に葬られた。

 それでも、何かしでかしたのは間違いないからこそ、雪夜は自身の力を畏れ、何よりも大事な兄に畏れられたくないと思い、隠すことにしたのだ。







―――そして現在、異土には雪夜の力は知られておらず、その容姿の違いも単純に彼女の本当の母親がそういう色合いの外人でもあったのだろうと思われている程度で済んでいるらしい。

「雪女と言いましても、わたくし熱に耐性があるようなので、常人とさほど変わらない生活が出来たのでほぼバレなかったですわね。というか、お兄様は自身の尊厳の危機とかには敏感なのに、家族を見る目は激甘なのか…問題は無いのですけれども、もうちょっとこう…」
【バレないほうが都合が良いけれども、どんかんすぎて逆に心配になってきてしまうト】
「そうなのですわよ!!ああもう、お兄様なら心配はないと思いたいけれども、うっかりあのドぐされ外道な人と再婚するようなお母様の血を引きますもの!!お兄様も一歩間違えて、ろくな女に引っ掛からないかそれはもう心配で心配で‥‥!!」



 心からの、思いのこもり過ぎているその言葉に思わずエリーゼは同情する。

 哀れなものを見る目と言うべきか、それとも苦労人な姿に本当はDV男よりも何よりも兄のことを心配しまくっていたのではなかろうかと。

【まぁ、大丈夫ですヨ。ご主人様ならば、変な女に引っ掛かることはないデス。そのようなもの、私たちのほうが許さないですからネ】
「あの、わたくしとしては貴女たちも十分変な女カテゴリですわよ」
【---え”】





…フォローしたつもりが、何の慰めにもなっていないようであった。
しおりを挟む
感想 137

あなたにおすすめの小説

裏庭係の私、いつの間にか偉い人に気に入られていたようです

ルーシャオ
恋愛
宮廷メイドのエイダは、先輩メイドに頼まれ王城裏庭を掃除した——のだが、それが悪かった。「一体全体何をしているのだ! お前はクビだ!」「すみません、すみません!」なんと貴重な薬草や香木があることを知らず、草むしりや剪定をしてしまったのだ。そこへ、薬師のデ・ヴァレスの取りなしのおかげで何とか「裏庭の管理人」として首が繋がった。そこからエイダは学び始め、薬草の知識を増やしていく。その真面目さを買われて、薬師のデ・ヴァレスを通じてリュドミラ王太后に面会することに。そして、お見合いを勧められるのである。一方で、エイダを嵌めた先輩メイドたちは——?

悪徳領主の息子に転生しました

アルト
ファンタジー
 悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。  領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。  そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。 「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」  こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。  一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。  これなんて無理ゲー??

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

神眼のカードマスター 〜パーティーを追放されてから人生の大逆転が始まった件。今さら戻って来いと言われてももう遅い〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「いいかい? 君と僕じゃ最初から住む世界が違うんだよ。これからは惨めな人生を送って一生後悔しながら過ごすんだね」 Fランク冒険者のアルディンは領主の息子であるザネリにそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 父親から譲り受けた大切なカードも奪われ、アルディンは失意のどん底に。 しばらくは冒険者稼業をやめて田舎でのんびり暮らそうと街を離れることにしたアルディンは、その道中、メイド姉妹が賊に襲われている光景を目撃する。 彼女たちを救い出す最中、突如として【神眼】が覚醒してしまう。 それはこのカード世界における掟すらもぶち壊してしまうほどの才能だった。 無事にメイド姉妹を助けたアルディンは、大きな屋敷で彼女たちと一緒に楽しく暮らすようになる。 【神眼】を使って楽々とカードを集めてまわり、召喚獣の万能スライムとも仲良くなって、やがて天災級ドラゴンを討伐するまでに成長し、アルディンはどんどん強くなっていく。 一方その頃、ザネリのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 ダンジョン攻略も思うようにいかなくなり、ザネリはそこでようやくアルディンの重要さに気づく。 なんとか引き戻したいザネリは、アルディンにパーティーへ戻って来るように頼み込むのだったが……。 これは、かつてFランク冒険者だった青年が、チート能力を駆使してカード無双で成り上がり、やがて神話級改変者〈ルールブレイカー〉と呼ばれるようになるまでの人生逆転譚である。

異世界ラーメン屋台~俺が作るラーメンを食べるとバフがかかるらしい~

橘まさと
ファンタジー
脱サラしてラーメンのキッチンカーをはじめたアラフォー、平和島剛士は夜の営業先に向けて移動していると霧につつまれて気づけばダンジョンの中に辿りついていた。 最下層攻略を目指していた女性だらけのAランク冒険者パーティ『夜鴉』にラーメンを奢る。 ラーメンを食べた夜鴉のメンバー達はいつも以上の力を発揮して、ダンジョンの最下層を攻略することができた。 このことが噂になり、異世界で空前絶後のラーメンブームが巻き起こるのだった。

剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎町に住んでいたロボット好きの宮本荒人は、交通事故に巻き込まれたことにより異世界に転生する。 転生した先は、古代魔法文明の遺跡を探索する探索者の集団……クランに所属する夫婦の子供、アラン。 ただし、アランには武器や魔法の才能はほとんどなく、努力に努力を重ねてもどうにか平均に届くかどうかといった程度でしかなかった。 だがそんな中、古代魔法文明の遺跡に潜った時に強制的に転移させられた先にあったのは、心核。 使用者の根源とも言うべきものをその身に纏うマジックアイテム。 この世界においては稀少で、同時に極めて強力な武器の一つとして知られているそれを、アランは生き延びるために使う。……だが、何故か身に纏ったのはファンタジー世界なのにロボット!? 剣と魔法のファンタジー世界において、何故か全高十八メートルもある人型機動兵器を手に入れた主人公。 当然そのような特別な存在が放っておかれるはずもなく……? 小説家になろう、カクヨムでも公開しています。

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

処理中です...