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序章 妖怪に出会いました
はじめまして
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「タカヒロ、あくび」
恵理さんの噛みつくような声に、俺は自然と出てしまったあくびを抑え込む。
金曜昼のピークを過ぎた店内にはお客さんは一組だけだ。フォークやナイフをセットしていく単調な作業の中、ついあくびが出てしまった。
「寝不足?」
「は、はい。昨日アニメ一気見しちゃって……」
恵理さんは呆れた目でこちらを見てきた。否定したいが、夜更かししたのは本当だ。
昨日家に着いたのは真夜中。十時出勤だから少しは寝れたが、慣れない事をしたあとは疲れもくる。昼休憩を終え、夕方に差し掛かった今眠気はピークだ。今日はフル出勤だから、まだ先は長い。
「今はお客さんもいないし、少し仮眠とってもいいよ。その代わり、新人さん来たらちゃんとしてよね」
「いえいえ、大丈夫です。てあれ、新しい人来るんすか?」
尋ねると、すごい勢いで睨まれた。たじろいでいると「朝言ったよね?」と低い声で言われる。
「今日だと思ってませんでした……」
「はぁ……大学生で、バイト初めてらしいから。よろしくね」
「女の子ですか?」
「変なちょっかい出したらシメるから」
恵理さんの忠告に、俺は苦笑いをする。心配せずとも、アルバイト生活の肩身狭い身分ではそんな行動とても出来ない。
カランカランとドアが鳴ったので見ると、肩ほどの長さの黒髪の女の子が入ってきた。服は紺色のジャージ上下に、中にTシャツを着ている。
「あ、来たね」
恵理さんがその子に向かって言ったので、彼女が新しいバイトさんなのは分かった。
「タカヒロ。この子が今日から働く島中ツバキさん」
「はじめまして、沢木タカヒロです。フリーターで、ここでは大学生の時から働いてて三年目になります」
俺の挨拶に、ツバキさんは顔を真っ赤にさせながら挨拶を返す。
「は、はじめまして! 島中ツバキです。ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」
その挨拶に、俺と恵理さんは顔を見合わせ小さく笑う。ツバキさんはそのやり取りに戸惑っている。少し天然みたいだが、良い子そうだ。
「じゃあ、中で制服に着替えようか。更衣室案内するよ」
「はい、有難うございます!」
恵理さんに連れられ、中に入っていく姿を見る。ジャージで来たということは、何かサークルでもやってるんだろうか。まぁ自分も家が近くジャージで来る事もあるから、その可能性もある。
出てきた彼女は、よく制服が似合っていた。黒いシャツとズボンに、麻色の腰掛けエプロンを巻いている。髪も恵理さんからゴムを借りたのか、高めの位置でポニーテールをしていた。
「おー、似合ってる似合ってる」
「有難うございます」
ツバキさんは俺が褒めると、恥ずかしそうに頬を染めた。後ろから恵理さんが睨んでくる。誤解だ。俺はただ仲良くしようとしてるだけだ。
「じゃあまず基本的なことを教えるから。えーと、下の名前で呼んでもいい?」
「はい」
「そしたらツバキ、こっちついてきて。タカヒロ、お客さん来たらよろしくね」
「了解です」
ツバキさんは恵理さんの説明を聞きながら必死にメモをとる。その真面目な様子に、続けてくれたらいいなぁと思った。
「やぁこんにちは」
「わっ!!」
住んでるアパートに帰ると、ヤイさんがドアの前に立っていた。時刻は夜十時を過ぎている。疲れて今にも閉じそうだった瞼が一気に開いた。
「なんでここにいるんですか!?」
「用がありまして」
「俺家教えましたっけ?」
「今朝このアパートの前まで送ったじゃないですか」
そうだった。しかし、こんな夜に来るか普通。
「ひょっとして今日も仕事ですか。悪いんですけど、今日は眠くって」
「いえ、今日は次の仕事のご依頼に参りました。来週の火曜日はお忙しいですか?」
「火曜日ですか。えっと、待ってください」
俺はシフト表を見る。記憶通り、遅番だった。
「六時からバイトです」
「丁度いいですね。では来週の火曜日十時に、公園で待ち合わせましょう」
ヤイさんはそう言うと、アパートから飛び降りる。ここは三階だ。俺は心臓が止まりそうになったが、彼は優雅にアスファルトに着地した。
「では、よろしく」
「え、待ってください! それって何時まで」
言い終わる間もなく、つかつかと去っていく。まぁ大丈夫か。俺は考えるのも面倒になって、家に入りそのまま部屋で寝っ転がる。
隣には、烏杜さんからもらった苗の袋が見えた。
「願いの草ね~……」
呟きながら、目を閉じる。
先の事は、ゆっくり考えよう。
恵理さんの噛みつくような声に、俺は自然と出てしまったあくびを抑え込む。
金曜昼のピークを過ぎた店内にはお客さんは一組だけだ。フォークやナイフをセットしていく単調な作業の中、ついあくびが出てしまった。
「寝不足?」
「は、はい。昨日アニメ一気見しちゃって……」
恵理さんは呆れた目でこちらを見てきた。否定したいが、夜更かししたのは本当だ。
昨日家に着いたのは真夜中。十時出勤だから少しは寝れたが、慣れない事をしたあとは疲れもくる。昼休憩を終え、夕方に差し掛かった今眠気はピークだ。今日はフル出勤だから、まだ先は長い。
「今はお客さんもいないし、少し仮眠とってもいいよ。その代わり、新人さん来たらちゃんとしてよね」
「いえいえ、大丈夫です。てあれ、新しい人来るんすか?」
尋ねると、すごい勢いで睨まれた。たじろいでいると「朝言ったよね?」と低い声で言われる。
「今日だと思ってませんでした……」
「はぁ……大学生で、バイト初めてらしいから。よろしくね」
「女の子ですか?」
「変なちょっかい出したらシメるから」
恵理さんの忠告に、俺は苦笑いをする。心配せずとも、アルバイト生活の肩身狭い身分ではそんな行動とても出来ない。
カランカランとドアが鳴ったので見ると、肩ほどの長さの黒髪の女の子が入ってきた。服は紺色のジャージ上下に、中にTシャツを着ている。
「あ、来たね」
恵理さんがその子に向かって言ったので、彼女が新しいバイトさんなのは分かった。
「タカヒロ。この子が今日から働く島中ツバキさん」
「はじめまして、沢木タカヒロです。フリーターで、ここでは大学生の時から働いてて三年目になります」
俺の挨拶に、ツバキさんは顔を真っ赤にさせながら挨拶を返す。
「は、はじめまして! 島中ツバキです。ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」
その挨拶に、俺と恵理さんは顔を見合わせ小さく笑う。ツバキさんはそのやり取りに戸惑っている。少し天然みたいだが、良い子そうだ。
「じゃあ、中で制服に着替えようか。更衣室案内するよ」
「はい、有難うございます!」
恵理さんに連れられ、中に入っていく姿を見る。ジャージで来たということは、何かサークルでもやってるんだろうか。まぁ自分も家が近くジャージで来る事もあるから、その可能性もある。
出てきた彼女は、よく制服が似合っていた。黒いシャツとズボンに、麻色の腰掛けエプロンを巻いている。髪も恵理さんからゴムを借りたのか、高めの位置でポニーテールをしていた。
「おー、似合ってる似合ってる」
「有難うございます」
ツバキさんは俺が褒めると、恥ずかしそうに頬を染めた。後ろから恵理さんが睨んでくる。誤解だ。俺はただ仲良くしようとしてるだけだ。
「じゃあまず基本的なことを教えるから。えーと、下の名前で呼んでもいい?」
「はい」
「そしたらツバキ、こっちついてきて。タカヒロ、お客さん来たらよろしくね」
「了解です」
ツバキさんは恵理さんの説明を聞きながら必死にメモをとる。その真面目な様子に、続けてくれたらいいなぁと思った。
「やぁこんにちは」
「わっ!!」
住んでるアパートに帰ると、ヤイさんがドアの前に立っていた。時刻は夜十時を過ぎている。疲れて今にも閉じそうだった瞼が一気に開いた。
「なんでここにいるんですか!?」
「用がありまして」
「俺家教えましたっけ?」
「今朝このアパートの前まで送ったじゃないですか」
そうだった。しかし、こんな夜に来るか普通。
「ひょっとして今日も仕事ですか。悪いんですけど、今日は眠くって」
「いえ、今日は次の仕事のご依頼に参りました。来週の火曜日はお忙しいですか?」
「火曜日ですか。えっと、待ってください」
俺はシフト表を見る。記憶通り、遅番だった。
「六時からバイトです」
「丁度いいですね。では来週の火曜日十時に、公園で待ち合わせましょう」
ヤイさんはそう言うと、アパートから飛び降りる。ここは三階だ。俺は心臓が止まりそうになったが、彼は優雅にアスファルトに着地した。
「では、よろしく」
「え、待ってください! それって何時まで」
言い終わる間もなく、つかつかと去っていく。まぁ大丈夫か。俺は考えるのも面倒になって、家に入りそのまま部屋で寝っ転がる。
隣には、烏杜さんからもらった苗の袋が見えた。
「願いの草ね~……」
呟きながら、目を閉じる。
先の事は、ゆっくり考えよう。
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