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第1章 たぬきさんとパンケーキ
諸行無常の響きあり
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「昔住んでた……?」
田貫さんは頷いた。そうして、テーマパークを眺めながら、思い出すように話していく。
「ああ、私たちはこの地でタヌキとして生まれた。昔はこの一帯も、森の一部だったんだよ」
やがて荒れ地になり、田貫さんたちは食べ物を失った。そうして地上に降り、死んで行った。
彼らが妖怪になったのは、森をこんな風にした人間への恨みからだった。
「妖怪になって私が初めて見たのは、変わり果てた故郷だった」
自然の音が響いていた場所は、人間の楽しそうな叫び声と人工音で溢れかえった場所になった。
「それは……悲しいですね……」
そう言った後、すぐに後悔した。こんな時、なんて言えばいいか分からない。俺は人間で、その娯楽を楽しんでいる身だ。
俺の表情を見てか、田貫さんは穏やかな声音で続きを話す。
「でもね、今は私たちは人間を恨んじゃいない」
田貫さんはそう言って、テーマパークに入ってすぐのベンチに座る。元は森だったからか、園内にところどころに緑が置かれている。
「この地で私たちは、様々な人間を見てきた。その多くが、楽しそうにこの場所で遊ぶんだ。家族や恋人、仲間。1人や大勢。そうして中には、僕らが見える人もいた。僕らは怯えた。人間に見つかったら、追い出されるに違いないと」
田貫さんの声は、どんどん優しくなっていく。笑みも僅かに浮かべている。
「しかし彼らは、僕らを見て笑顔になってくれた。このテーマパークの近くに住んでるタヌキと思われたのかもしれない、あるいは僕らを妖怪だと知ってたのかもしれない。
僕らが見えるのは3歳くらいまでの小さい子が多く、追放したりもしない。ただ見て、きゃっきゃと笑うんだ。僕らはその姿を見て、たまに宙返りをして見せたりした。そうしたらもっと笑ってね。
いつしか人間と触れ合うのが、楽しくなった」
しかし次第に妖怪が見える子はいなくなり、人間と妖怪は別の場所で暮らすようになった。田貫さんたちがここを離れて、もう何年も経つ。その間も、この場所は姿を変えていった。
「人間は僕らより短い時間しか生きないのに、少し離れるだけであっという間に姿を変える」
それは必然なのかもしれない。どんなものも、いつか変わってしまうかもしれない。
故郷の姿が変わったあの日から、分かってたはずだった。
「もう離れて、ずいぶんと経つけれど」
それでも。
「なくなってしまうのは、やはり寂しいな」
「田貫さん……」
「だから、最後にお別れを言いに来たんだ」
田貫さんは立ち上がり、奥さんも笑みを見せる。
「一度遊園地を、人間として楽しんでみたくて」
俺はその言葉に、必死に頷く。
「本日はフリーパスです。乗りたいものに、自由にお乗りください」
ヤイさんの言葉に、田貫さんたちは笑顔で礼を言う。そうして、パンフレットを見て順番を話し合う。
「もっとゆっくり回れたら良かったんだけど」
「君がパンケーキを食べたがったからだろう」
「貴方だって楽しみにしてたじゃない。だって、次来る時はあのお店もあるか分からないもの」
2人の仲のいいやり取りを聞きながら、人と妖で時の進みが違うことを感じる。
「諸行無常とはよく言ったものだね」
ヤイさんの言葉に、俺はビクっと体を震わせる。
「仕方がない。人は、変化を好む生き物だから」
そうだろうか? でも自分だって、そうかもしれない。今が楽だと言いながら、変わらない日々を嫌う。
「妖怪は、違うんですか」
「さぁ。しかし、彼らは人より時間がたっぷりあるからね。案外人間より無欲なんだよ」
「彼ら……なんか、他人事のような言い方ですね」
「他人事だよ」
ヤイさんは、笑っている。
「貴方は……自分も妖怪だと言いましたよね」
「ああ。でも、僕らは彼らと違ってね。特殊なんだ」
「特殊?」
「ヤイさん! 決めました! 最初は3Dというものを見に行きます!」
田貫さんの声に、ヤイさんはこたえる。話が終わってしまった。
そう思ってると、ヤイさんは歩きながら告げた。
「僕は、界渡りの禁忌を犯したからね」
田貫さんは頷いた。そうして、テーマパークを眺めながら、思い出すように話していく。
「ああ、私たちはこの地でタヌキとして生まれた。昔はこの一帯も、森の一部だったんだよ」
やがて荒れ地になり、田貫さんたちは食べ物を失った。そうして地上に降り、死んで行った。
彼らが妖怪になったのは、森をこんな風にした人間への恨みからだった。
「妖怪になって私が初めて見たのは、変わり果てた故郷だった」
自然の音が響いていた場所は、人間の楽しそうな叫び声と人工音で溢れかえった場所になった。
「それは……悲しいですね……」
そう言った後、すぐに後悔した。こんな時、なんて言えばいいか分からない。俺は人間で、その娯楽を楽しんでいる身だ。
俺の表情を見てか、田貫さんは穏やかな声音で続きを話す。
「でもね、今は私たちは人間を恨んじゃいない」
田貫さんはそう言って、テーマパークに入ってすぐのベンチに座る。元は森だったからか、園内にところどころに緑が置かれている。
「この地で私たちは、様々な人間を見てきた。その多くが、楽しそうにこの場所で遊ぶんだ。家族や恋人、仲間。1人や大勢。そうして中には、僕らが見える人もいた。僕らは怯えた。人間に見つかったら、追い出されるに違いないと」
田貫さんの声は、どんどん優しくなっていく。笑みも僅かに浮かべている。
「しかし彼らは、僕らを見て笑顔になってくれた。このテーマパークの近くに住んでるタヌキと思われたのかもしれない、あるいは僕らを妖怪だと知ってたのかもしれない。
僕らが見えるのは3歳くらいまでの小さい子が多く、追放したりもしない。ただ見て、きゃっきゃと笑うんだ。僕らはその姿を見て、たまに宙返りをして見せたりした。そうしたらもっと笑ってね。
いつしか人間と触れ合うのが、楽しくなった」
しかし次第に妖怪が見える子はいなくなり、人間と妖怪は別の場所で暮らすようになった。田貫さんたちがここを離れて、もう何年も経つ。その間も、この場所は姿を変えていった。
「人間は僕らより短い時間しか生きないのに、少し離れるだけであっという間に姿を変える」
それは必然なのかもしれない。どんなものも、いつか変わってしまうかもしれない。
故郷の姿が変わったあの日から、分かってたはずだった。
「もう離れて、ずいぶんと経つけれど」
それでも。
「なくなってしまうのは、やはり寂しいな」
「田貫さん……」
「だから、最後にお別れを言いに来たんだ」
田貫さんは立ち上がり、奥さんも笑みを見せる。
「一度遊園地を、人間として楽しんでみたくて」
俺はその言葉に、必死に頷く。
「本日はフリーパスです。乗りたいものに、自由にお乗りください」
ヤイさんの言葉に、田貫さんたちは笑顔で礼を言う。そうして、パンフレットを見て順番を話し合う。
「もっとゆっくり回れたら良かったんだけど」
「君がパンケーキを食べたがったからだろう」
「貴方だって楽しみにしてたじゃない。だって、次来る時はあのお店もあるか分からないもの」
2人の仲のいいやり取りを聞きながら、人と妖で時の進みが違うことを感じる。
「諸行無常とはよく言ったものだね」
ヤイさんの言葉に、俺はビクっと体を震わせる。
「仕方がない。人は、変化を好む生き物だから」
そうだろうか? でも自分だって、そうかもしれない。今が楽だと言いながら、変わらない日々を嫌う。
「妖怪は、違うんですか」
「さぁ。しかし、彼らは人より時間がたっぷりあるからね。案外人間より無欲なんだよ」
「彼ら……なんか、他人事のような言い方ですね」
「他人事だよ」
ヤイさんは、笑っている。
「貴方は……自分も妖怪だと言いましたよね」
「ああ。でも、僕らは彼らと違ってね。特殊なんだ」
「特殊?」
「ヤイさん! 決めました! 最初は3Dというものを見に行きます!」
田貫さんの声に、ヤイさんはこたえる。話が終わってしまった。
そう思ってると、ヤイさんは歩きながら告げた。
「僕は、界渡りの禁忌を犯したからね」
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