あやかし観光専属絵師

紺青くじら

文字の大きさ
50 / 94
第5章 お猿と行く温泉旅行

君がお供なら

しおりを挟む
「は、はい……」

 大妖怪の迫力に、俺は思わず声が震える。エンジ様はそんな俺を見定めるようにジロジロ睨む。

「しっかし、ひょろいのぅ……。まぁ、絵師としての腕は高いと聞く。ワシの願い草は受け取ったか? 綺麗じゃったろう」
「はっはい! 絵具として準備しています。すごい綺麗な色でした」
「そうじゃろう! 紫になど出来るのはワシぐらいじゃからな。勿体無いと言うものもおったが、権威の表れとして使う事にした」
「? はい……」

 彼の言葉に疑問を抱いた気がしたが、エンジ様はさっさと次の言葉を口にする。

「ちと疲れた。金彩湯に行く前に、少し休む」
「かしこまりました」
「また後でな。トキ、茶を頼む」
「はい、エンジ様」

 ヤイさんは深々と礼をし、下がる。俺もそれに従い、戸が閉まると尋ねた。

「こんさいとう?」
「この御殿の近くにある温泉だよ。エンジ様ご一族は、後継ぎがその湯に入るのが習わしなんだ」
「温泉ですか。へぇ、いいなぁ」

 温泉に最後に入ったのはいつだろう。考えていると、「その湯はエンジ様ご一族の物だ」と一蹴された。

「一緒に入ろうだなんて思っていませんよ」
「君は入らない方がいい。金彩湯は普通の源泉じゃない。ご一族の妖力が込められた場所だ」
「そうなんですね。癒しというより、それに入るのは儀式みたいな物なんですね」
「そうだ。そこに辿り着くまでも、試練がある」

 頷こうとして、「え?」と聞き返す。ヤイさんはかまわず続ける。

「お三方バラバラの入り口からスタートし、最初にたどり着いた方が次期一族の長だ。各自一人お供が着く。タカヒロ、君はコテツ様についてくれ」

 確か、一番気弱そうな子がコテツと呼ばれていた。え、というか、え?

「無理ですよ、そんなの!」

 俺が全力で否定すると、ヤイさんは首を傾げた。

「無理と言われても。もう決まっている」
「いつも思ってますけど、事前連絡してくださいよ!」
「必要なものはこちらで揃えている。君に事前に言う必要はない」
「いやいや、俺分かんないですけど、それってとても大事な事では? それなのに、お供が俺って。コテツくんがかわいそうじゃないですか!」
「コテツ様と呼べ。悪いが、今ここで君がどうこう言っても何も変わらない。それに私たちはあくまで見張り番。道案内も何もしない。君はただ、コテツ様の側にいればいい」
「そんなぁ」

 決定事項なようだ。俺が抗議の言葉を飲み込むと、ヤイさんは肩に手を置いた。

「安心しなさい。コテツ様は、むしろ幸運だ。君がお供なら、緊張はしないだろう?」
「それ、俺の事けなしてません?」
「ほめてるさ。さぁ、表に行こう。八矢たちが準備してくれている」

 ヤイさんはそう言って歩き出し、俺もそれについて行く。
 かくして、温泉探しの戦いが切って落とされた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜

南 鈴紀
キャラ文芸
 妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。  しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。  掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。  五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。  妖×家族の心温まる和風ファンタジー。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...