あやかし観光専属絵師

紺青くじら

文字の大きさ
73 / 94
第7章 破滅の足音

お前と一緒だ

しおりを挟む
 ツバキが出て行ったドアを、俺は立ち上がれないまま呆然と見つめた。視線に気づき、ノラさんの方を見る。

「すみません、ノラさん。俺のせいで」
「かまわない。俺は、ツバキみたいに怒れる立場じゃないんだ。お前に絵を描いてもらったからな」
「そんな。ノラさんは何も悪くありません」

 俺が否定すると、ノラさんは首を振った。

「俺は知ってた。ヤイが何をしようとしてたのか。確信はなかったが……ムゴと切れてないようだったから」
「あの、ムゴさんは、一体どんな方なんですか? 彼は妖怪ですか」
「妖怪ではない。君のような存在だ」

 ノラさんの言葉に、首をかしげる。俺のような?

「先祖に、妖怪と人間が混じってる」
「え……?」

 その言葉に、思考が停止した。妖怪?

「どうした? いただろう、先祖に。妖怪が」
「いいません! まったく覚えがないです!」
「では親戚に、お前のような力を持つ者は一人もいなかったのか?」
「誰も……いや、祖母も、あったのかもしれません」

 はっきりと本人に確認した訳ではないが、彼女は見えないはずのツバキが見えていた。

「でも祖母は、妖怪だったなんて事はありません。人間です」
「では遠い祖先にいるんだろう。とにかく、お前のその力は隔世遺伝だ」
「そんな……」

 自分は母と父の子どもだし、生まれも育ちも日本だ。自分の先祖やルーツなんて、考えた事もなかった。

「知らなくても不思議じゃない。人間と妖怪が一緒に暮らしてたのなんて、はるか昔だ。人間界にいれば、妖力を使う機会もそうそうない」
「ムゴさんは、自分が妖怪の血も引いてると知ってたんですか」
「ああ。というか、あいつの場合逆だ。妖界で生まれた彼は、妖力が不十分だったんだ」

 先祖に人間がいた彼は、妖怪の子でありながら不十分な存在として生まれた。

「彼の親は、彼を人間界に放った。いらないものだとしてな」
「そんな、ひどい……」
「どうかな。妖界は、弱肉強食の世界だ。あちらにいたら、今頃すぐに死んでたかも分からない」

 自分ももし妖怪の間で生まれた子どもだったら、捨てられてたのかもしれないのか。その想像は、なまぬるい環境で育った自分には想像も出来なかった。

「だからあいつは、妖界を恨んでる。そうして妖界を破壊する事を望んだ。その誘いに、ヤイは乗った」
「どうして……?」

 俺の問いに、ヤイさんは一瞬言うのをためらった。だがすぐに、タカヒロを真っ直ぐに見て告げる。

「お前も気づいてるかもしれないが、ヤイもお前と一緒だ。妖怪だけど、人間の血が混ざってる」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜

南 鈴紀
キャラ文芸
 妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。  しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。  掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。  五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。  妖×家族の心温まる和風ファンタジー。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...