84 / 94
第8章 破壊と守り
信じられるか
しおりを挟む
「…ジ様! エンジ様!」
呼ぶ声に目を開けると、そこには妻と子供たち、そうしてココにいないはずの姿があった。
「お前は……タカヒロ? なんでココに?」
タカヒロの後ろには、半化けの猫妖怪と犬妖怪がいる。確か猫妖怪の名前はノラ。妖界に来ず、人間界に残った妖だ。そうして隣の犬妖怪は。
「ツバキか。ヤイとは腹違いの」
言われ、ツバキは表情を歪める。兄のヤイとは違い、彼女は妖同士の子だ。しかし彼女は、ヤイと彼の母親と、人間界に移り住んだはずだ。
この三人がここにいる。どうやら妖界を守る結界は、完璧に壊されてしまったらしい。
「エンジさん。怪我は大丈夫ですか?」
タカヒロの問いに、エンジは自虐気味に笑う。
「この姿が大丈夫に見えるか。まったく、己が情けないわい」
「父上、そんな事言わないでください!」
「死ななくて良かった……!」
そう言って抱きついてきた子供たちを、エンジはなでる。視線は子供たちに向けたまま、タカヒロに語りかけた。
「ワシはお前は何も知らんと思うとったが、勘違いだったかのう。お前たちも妖界を潰しに来たんか?」
「違います。俺たちは止めに来たんです」
強い口調で言い返すと、エンジはそれに苦笑で返した。
「奥様から聞きました。貴方が持ってる鍵があれば、鬼神様の部屋まで近道ができると」
「先回りしてどうする気じゃ。ワシのこの姿を見ても分かるじゃろ、あいつらは桁外れな妖具を作りよった。お前らが言って止めれるとは思えん」
「分かりません。でも、行かないと。じゃないと俺は、ここに来た意味がない」
タカヒロの真っ直ぐな瞳に、エンジは気圧される。確か前に会った時は、もっと自信がない顔をしていたはず。切羽詰まったこの状況が、彼にこんな顔をさせるのか。
「分かった。鍵を渡す。お前たち、案内してやりなさい」
エンジはそう言って、懐から金色の鍵を出しコテツたちに渡す。子供たちは驚きながらも、強く頷く。
「ついてきて!」
三つ子が駆け足で行くので、タカヒロたちは礼をしながら慌てて追いかける。側で心配そうに支える妻に、エンジは笑いかける。
「情けないのぅ。あの絵のようにはなれんわ」
タカヒロが描いてくれた自分は、いかつく自信に満ちていた。それなのに、こんなに呆気なく負けてしまうような存在に、気づけば自分はなっていた。
「貴方。あの人間は、信用してよいのですか。他の者も、ヤイとの繋がりがある者なのでしょう」
「さぁな。お前はさっきの言葉、嘘だと思うか」
「……いいえ。しかし人間は、嘘をつく生き物です」
妻の顔に、影が宿る。エンジはそんな妻の頭を、優しく撫でる。
「そうじゃな。ワシも長く生きて、見たくなったんかもしれん。また人間と、笑い合える世界を」
そう言って、彼らが走り去った方を見る。その姿はすでに、見えなくなっていた。
呼ぶ声に目を開けると、そこには妻と子供たち、そうしてココにいないはずの姿があった。
「お前は……タカヒロ? なんでココに?」
タカヒロの後ろには、半化けの猫妖怪と犬妖怪がいる。確か猫妖怪の名前はノラ。妖界に来ず、人間界に残った妖だ。そうして隣の犬妖怪は。
「ツバキか。ヤイとは腹違いの」
言われ、ツバキは表情を歪める。兄のヤイとは違い、彼女は妖同士の子だ。しかし彼女は、ヤイと彼の母親と、人間界に移り住んだはずだ。
この三人がここにいる。どうやら妖界を守る結界は、完璧に壊されてしまったらしい。
「エンジさん。怪我は大丈夫ですか?」
タカヒロの問いに、エンジは自虐気味に笑う。
「この姿が大丈夫に見えるか。まったく、己が情けないわい」
「父上、そんな事言わないでください!」
「死ななくて良かった……!」
そう言って抱きついてきた子供たちを、エンジはなでる。視線は子供たちに向けたまま、タカヒロに語りかけた。
「ワシはお前は何も知らんと思うとったが、勘違いだったかのう。お前たちも妖界を潰しに来たんか?」
「違います。俺たちは止めに来たんです」
強い口調で言い返すと、エンジはそれに苦笑で返した。
「奥様から聞きました。貴方が持ってる鍵があれば、鬼神様の部屋まで近道ができると」
「先回りしてどうする気じゃ。ワシのこの姿を見ても分かるじゃろ、あいつらは桁外れな妖具を作りよった。お前らが言って止めれるとは思えん」
「分かりません。でも、行かないと。じゃないと俺は、ここに来た意味がない」
タカヒロの真っ直ぐな瞳に、エンジは気圧される。確か前に会った時は、もっと自信がない顔をしていたはず。切羽詰まったこの状況が、彼にこんな顔をさせるのか。
「分かった。鍵を渡す。お前たち、案内してやりなさい」
エンジはそう言って、懐から金色の鍵を出しコテツたちに渡す。子供たちは驚きながらも、強く頷く。
「ついてきて!」
三つ子が駆け足で行くので、タカヒロたちは礼をしながら慌てて追いかける。側で心配そうに支える妻に、エンジは笑いかける。
「情けないのぅ。あの絵のようにはなれんわ」
タカヒロが描いてくれた自分は、いかつく自信に満ちていた。それなのに、こんなに呆気なく負けてしまうような存在に、気づけば自分はなっていた。
「貴方。あの人間は、信用してよいのですか。他の者も、ヤイとの繋がりがある者なのでしょう」
「さぁな。お前はさっきの言葉、嘘だと思うか」
「……いいえ。しかし人間は、嘘をつく生き物です」
妻の顔に、影が宿る。エンジはそんな妻の頭を、優しく撫でる。
「そうじゃな。ワシも長く生きて、見たくなったんかもしれん。また人間と、笑い合える世界を」
そう言って、彼らが走り去った方を見る。その姿はすでに、見えなくなっていた。
0
あなたにおすすめの小説
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜
南 鈴紀
キャラ文芸
妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。
しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。
掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。
五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。
妖×家族の心温まる和風ファンタジー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる