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空には星が出ていて、辺りは真っ暗で。
なにもこんな夜中に出かけることもないと思うのだけれど。
下見と称して連れ出すリョータに、アユムは逆らえなかった。
なんの下見かというと、あれだ。町内肝試し大会の下見だ。
アユムたちの住む町では納涼祭がお盆に開かれる。盆踊りと肝試しが定番で、高校生になるとお化け役がまわってくるのだ。
小学校に入る前から毎年のように驚かされ続けた子供たちは高校に入ると立場逆転、後輩たちを怖がらせるために趣向をこらす。
今年のリーダーはリョータだ。
いつになく張り切るリョータは、アユムを誘って懐かしの学舎へ脚を踏み入れた。
ふたりがともに通った小学校。
肝試しのルートにこの小学校も入っている。
グラウンドを横切り中庭に行くと創立者の銅像が立っていて、夜になると動き出すというありきたりな七不思議の1つともなっていた。
「夜でなきゃ感じがつかめないだろ?」
銅像に懐中電灯の光を当てながらリョータが言う。
リョータはやんちゃな眸をした元気少年で、それは小学生の頃から変わっていない。
悪戯っぽく笑って「な?」とアユムに同意を求める。
アユムは少々内向的な性格で、その大人しさが災いしてかしょっちゅうイジメられもしたが、今ではすっかりクールビューティへと変貌を遂げていた。
イジメられることはなくなったが、妙な誘いをしばしば受ける。告白されもする。
問題は相手も男だという点だ。
男子校ゆえ『さもあらん』といった風潮があるにはあるのだが、それにしたって頻度が普通じゃない。
連日のように押し寄せてくる先輩、後輩、同級生たち。
張り倒し、蹴倒し、果ては丁重にお断り(脅しという)をいれて、フリーの立場を死守しているアユムだった。
「下見なんて、わざわざする必要ないと思うけど?」
わざと素っ気なく言って先に行こうとするアユムを、リョータが小走りに追いかける。
「そんなことないぞッ。絶対必要!」
「なにが『そんなことない』んだか」
呆れ混じりの息を洩らし、アユムはすぐ横にきたプールへと懐中電灯を向けた。水の微かな揺らめきが月の光を弾いている。
アユムはまた歩き出す。
小学生時代に6年通い、その後も祭りだ行事だといっては脚を運ぶことの多い場所だ。
どのになにがあるかなんて、今さら見て周らなくても即行で地図が描けてしまうくらいには把握している。
「本番では校舎に入っちゃダメなんだろ? 理科室とか音楽室とか入れたら面白……―――リョータ?」
後ろからついてきていた幼馴染の姿がないことに気づいたアユムは、話し途中で慌てて元来た道を戻った。
懐中電灯で照らすと、すぐにリョータの姿が浮かび上がる。
ほんのすぐ傍にいても、暗くて解らなくなってしまっただけらしい。
「リョータ!」
ホッとしてアユムはリョータに駆け寄った。
「もう、なんでここに止まってるんだよ。急にいなくなるからビックリしただろ」
「ビックリ? それイイ。来たグループの中からひとり捕まえてさ、残りが探しに来たところを脅かすってどうよ?」
「怖いだろうね。でも泣いちゃうんじゃない?」
「泣かせなくてどーすんのさ」
リョータはニッと悪戯に笑う。
それもそうかと納得してアユムは「それより早く行こう」とリョータを促した。
「だいたい、こんな所で止まって……」
「アユム、ちょっと待った」
「なに?」
振り向いたアユムにリョータは静かにと合図を送ってくる。
「プールからさ、なんか聞こえないか?」
「なんかって?」
「水音」
「そりゃ、この時期は水張ってあるし……―――リョータ!」
プール入口の柵は施錠されているが、高校生となった今では乗り越えるなんてわけない。
「見てくる」
好奇心旺盛なリョータの行動は素早かった。あっという間に柵を乗り越えてしまう。
「バカ! 行ったってなにもないって……ッ」
「そしたら泳ぐ」
アユムの静止の声も、リョータの耳には右から左だ。
「泳ぐってなんだよ!? ダメだってリョータ!」
リョータの後を追い、アユムも柵を乗り越えた。
なにもこんな夜中に出かけることもないと思うのだけれど。
下見と称して連れ出すリョータに、アユムは逆らえなかった。
なんの下見かというと、あれだ。町内肝試し大会の下見だ。
アユムたちの住む町では納涼祭がお盆に開かれる。盆踊りと肝試しが定番で、高校生になるとお化け役がまわってくるのだ。
小学校に入る前から毎年のように驚かされ続けた子供たちは高校に入ると立場逆転、後輩たちを怖がらせるために趣向をこらす。
今年のリーダーはリョータだ。
いつになく張り切るリョータは、アユムを誘って懐かしの学舎へ脚を踏み入れた。
ふたりがともに通った小学校。
肝試しのルートにこの小学校も入っている。
グラウンドを横切り中庭に行くと創立者の銅像が立っていて、夜になると動き出すというありきたりな七不思議の1つともなっていた。
「夜でなきゃ感じがつかめないだろ?」
銅像に懐中電灯の光を当てながらリョータが言う。
リョータはやんちゃな眸をした元気少年で、それは小学生の頃から変わっていない。
悪戯っぽく笑って「な?」とアユムに同意を求める。
アユムは少々内向的な性格で、その大人しさが災いしてかしょっちゅうイジメられもしたが、今ではすっかりクールビューティへと変貌を遂げていた。
イジメられることはなくなったが、妙な誘いをしばしば受ける。告白されもする。
問題は相手も男だという点だ。
男子校ゆえ『さもあらん』といった風潮があるにはあるのだが、それにしたって頻度が普通じゃない。
連日のように押し寄せてくる先輩、後輩、同級生たち。
張り倒し、蹴倒し、果ては丁重にお断り(脅しという)をいれて、フリーの立場を死守しているアユムだった。
「下見なんて、わざわざする必要ないと思うけど?」
わざと素っ気なく言って先に行こうとするアユムを、リョータが小走りに追いかける。
「そんなことないぞッ。絶対必要!」
「なにが『そんなことない』んだか」
呆れ混じりの息を洩らし、アユムはすぐ横にきたプールへと懐中電灯を向けた。水の微かな揺らめきが月の光を弾いている。
アユムはまた歩き出す。
小学生時代に6年通い、その後も祭りだ行事だといっては脚を運ぶことの多い場所だ。
どのになにがあるかなんて、今さら見て周らなくても即行で地図が描けてしまうくらいには把握している。
「本番では校舎に入っちゃダメなんだろ? 理科室とか音楽室とか入れたら面白……―――リョータ?」
後ろからついてきていた幼馴染の姿がないことに気づいたアユムは、話し途中で慌てて元来た道を戻った。
懐中電灯で照らすと、すぐにリョータの姿が浮かび上がる。
ほんのすぐ傍にいても、暗くて解らなくなってしまっただけらしい。
「リョータ!」
ホッとしてアユムはリョータに駆け寄った。
「もう、なんでここに止まってるんだよ。急にいなくなるからビックリしただろ」
「ビックリ? それイイ。来たグループの中からひとり捕まえてさ、残りが探しに来たところを脅かすってどうよ?」
「怖いだろうね。でも泣いちゃうんじゃない?」
「泣かせなくてどーすんのさ」
リョータはニッと悪戯に笑う。
それもそうかと納得してアユムは「それより早く行こう」とリョータを促した。
「だいたい、こんな所で止まって……」
「アユム、ちょっと待った」
「なに?」
振り向いたアユムにリョータは静かにと合図を送ってくる。
「プールからさ、なんか聞こえないか?」
「なんかって?」
「水音」
「そりゃ、この時期は水張ってあるし……―――リョータ!」
プール入口の柵は施錠されているが、高校生となった今では乗り越えるなんてわけない。
「見てくる」
好奇心旺盛なリョータの行動は素早かった。あっという間に柵を乗り越えてしまう。
「バカ! 行ったってなにもないって……ッ」
「そしたら泳ぐ」
アユムの静止の声も、リョータの耳には右から左だ。
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リョータの後を追い、アユムも柵を乗り越えた。
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