火の国と雪の姫

さくらもっちん

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暁がのぼる前に

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明け方、三時。
灯台から、東側。
今は使われていない小学校に、白雪が居た。
灯台からは、数キロ離れている。

校門を抜けて、暗闇の中、木造の校舎に入ると、白雪が迷わずに、二階に進んだ。
結構、カビの匂いがして、壁の一部が、剥《は》がれている。単語ルビ
床は今にも、崩れそうだ。

図書館の前で、ピタリと、白雪が止まった。
人の息遣《づか》いがする。単語ルビ

「華貴《かき》……そこに、居るのね?」単語ルビ

ある程度の確証を持って、白雪が、中に入った。
ガタついた扉は、鍵も、壊れていた。

村に住む、悪ガキが、肝試しに、この小学校に、出入りしている。
だから、床には、お菓子の袋も、散っていた。

ぽうっと、白い灯《あか》りが見えた。単語ルビ
白雪の力の一部、八重桜が、ほのかな光りを、宿している。

涙目の華貴が、白雪を、ゆっくり見上げた。

「さっきから、外が、騒がしいけど、どうして?」

ビクビク怯える華貴に、白雪が、微笑んだ。

「あれは、おそらく、茜さんと、闘夜の仕業《しわざ》だよ。単語ルビ
二人共に、好戦的だから。誰かが、喧嘩を、振ったんだね」

純白の手で、窓際の華貴を、助け起こすと、白雪が、自己紹介を始めた。

「……白雪と、呼んでね。にしても、何でまた、こんな場所に、隠れてたの。
かえって危ない気が、するわ」

青い着物姿の華貴が、おずおず答えた。

「……隙を見て、逃げたのは良いけど、見付からない様に、点々としてたの」

白い帯に、手を添えて、華貴が、眼を伏せた。

「そっか。事情を聞くのは、後だね。取り敢えず、灯台に行こう。
そこに、茜さんと、闘夜も、いるから」

合流した方が、安全だと、白雪が、付け加えた。

図書館を出ようとして、白雪が、華貴と、手を繋いだ。
妙な感じ。
ピクリと、白雪が、足を止めた。

「白雪?」

「……しっ。何だか、嫌な気配がする。華貴、こっち‼︎」

図書館の奥に、進むと、事務所があった。

カツカツカツ。

複数の足音がする。金属音もした。

「もしかして、追っ手……」

「その可能性は、高いわ。茜さんの眼を、掻い潜るとは、ね。
だとしたら、高位術者かも」

声を潜めた、白雪が、華貴を、背中に隠した。

高位術者。
それは、飛び抜けて、強い者を指す。
茜同様に、特殊能力者でもある。
どんな属性の術者なのかは、まだ、分からない。

白雪が、床に、着目《ちゃくもく》している。単語ルビ
足元に、ビッシリと、赤いラインが、引いてある。

「これって……、ひょっとして、追跡能力者だわ!」

ぱっと、ラインに触れると、白雪が、茜から貰った、白いチョークを出した。

砕いて、床に、叩き付けた。

見る間に、ラインが消えると、もうもうと、煙が出た。
白いチョークには、白の民の力が、宿っている。

「白雪……」

ぎゅっと、華貴が、白雪の腕に、縋《すが》った。単語ルビ

ガシャン。

図書館の事務所のドアを、無数の獣が、押し入ってきた。
銀色の毛並みをした、狼の群れだ。

「悪趣味ね。あくまでも、使役者は、姿を見せず、か。
……華貴を、傷付けても、構わないと」

最低ねと、白雪が、吐き捨てた。

「イヤ……イヤよ。あんな場所で、人間以下の扱いを受けるのは、耐えられない。
捕まるグライなら、ここで!」

激しく感情を揺さぶり、華貴が、舌を噛んで、自害しようとした。
すかさず、白雪が、華貴を、正面から、抱擁《ほうよう》する。単語ルビ

「諦めるのは、早いわよ。華貴。大丈夫。私が居るわ。
要するに、狼を、やっつけたら良いのよ」

言うが早いか、白雪が、右手の着物の袖口をまくると、白い包帯を解いた。

「……え?」

華貴が、瞬きする間に、狼が、白く冷たく、粉砕《ふんさい》された。単語ルビ
それはまるで、魔法の様でも、あった。

微笑む白雪は、複雑な顔をしていた。
何やら、訳ありの様だ。
単語ルビ


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