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11 茜と白雪
しおりを挟む暁十《あきと》村は、古くから、童話が残されている。単語
それは、言い方を変えれば、過去にあった、実話でもあった。
多少、脚色は、されてはいるが。
童話によると。
昔、一人の人魚が、村に辿り着き、唐紅《からくれない》山に、住み着いた。単語
元々、人間だった、美しい娘は、悲しいかな、死の恐怖に駆られ、人魚の肉を食べた。
口減らしに、親に、殺されかけたのが、きっかけだ。
以降、真っ白い人魚に噛まれた者は、同じく、不老の身となった。
心は老いても、体は若いまま、化け物と、呼ばれる様になるのだ。
茜は、両親から貰った絵本を、肌身離さず、持ち歩いていた。
唐紅の北側に位置する、幼稚園。
すぐ側の公園に、逃げ込んだ、茜と華貴《かき》。単語
二人は、疲れ果てて、肩で、呼吸している。
着物は、汗を含み、ずしりと、重たく感じる程だ。
赤いラインが、茜に、伸びてきた。
敵である、卯見《うさみ》 輝一《しょういち》の攻撃だ。単語
この術は、追跡の効果がある。
時刻は、午後の一時を過ぎた頃だろうか……。
公園の遊具前。
胸元の傷を押さえると、茜が、怯える華貴を、背に隠した。
あきらかに、劣勢だ。
茜は、追い詰められている。
黒装束の卯見が、苦悶《くもん》する茜を、哀《あわ》れそうに、見下ろした。単語
「……命が危ないのに、まだ、その子を庇うのか? 意味が分からないよ。
さっさと降参して、逃げれば良いのに。早く手当をしないと、手遅れになるよ?」
距離を詰めてくる、卯見は、弱い者いじめは、好まないらしい。
茜に、提案している。
「断る。こう見えても、人の親だからね。逃げたら、白雪に、笑われるよ」
「強がるのは、立派だけどさ。あんた、その子の所為で、ボロボロじゃん。
俺は、残酷なほむらさんとは、違うんだよ。無益な殺生は、したく無いの。
……華貴を、俺に渡せば、全ては、丸く収まるよ。白雪を泣かしたいのか?」
卯見の問い掛けに、茜が、固まっている。唇を結んだ。
卯見は、茜の抉《えぐ》れた、手足、大きく切り裂いた、心臓部を見た。単語
「正直、動いてるのが、奇跡か……。虫の息だよね」
赤の他人の為に、ここまでするなんて、茜は、大馬鹿だ。
少なくとも、卯見は、茜の愚かしさに、失笑した。一方で、献身的な姿を、賛嘆《さんたん》している。単語
「……私の娘が、近くまで来ている。情け無い姿は、晒《さら》したく無いね。単語
華貴。私がどうにか、あいつを引き付けるから、逃げるんだよ!」
腹の底から、声を、振り絞る茜。
華貴は、泣きながら、何度も、髪を振った。
「出来ません。元はと言えば、私が、原因なのに……。ここで見捨てたら、白雪に、顔向けできません!」
言葉を繰り返す、茜の頭を、宥《なだ》める様に、茜が、力無く撫でた。単語
「気にしなくて良いよ……。これは全部、自分で、決断した事だ。力及ばず、残念だよ。
これを、白雪に、渡しておくれ。そのルビーの首飾りには、私の力が、宿っている。
必ず、あの子を、守ってくれる筈だ。さ、早く、……走るんだ‼︎」
ばんっと、華貴の背中を強く叩き、逃げる様に、茜が、促《うなが》した。単語
反応して、卯見の剣が、動く前に、茜が両手を広げて、華貴を、守った。
茜の腹部に、刃が突き刺さり、地面が、真っ赤に染まる。
最期《さいご》の力を振り絞ると、茜が、卯見に、しがみ付いた。単語
その間に、華貴の姿は、見えなくなった。
すぅっと、眼を閉じて、微かに笑みを浮かべた茜は、事足りていた。
……引き抜いて、卯見が、何とも言えない顔で、茜を、地面に降ろした。
本当に、愚かな女性《ひと》だ……。単語
卯見の呟きは、静かに流れる風に、掻き消されていった。
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