火の国と雪の姫

さくらもっちん

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14 勝利の確信

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「疑問なのは、何でほむらさんは、あんたに、負けたか……だ。
油断したとは、考えられないんだよね。白雪、どんな手を、用《もち》いたんだ?」単語ルビ

卯見《うさみ》の質問に、白雪は、だんまりを、決め込んでいる。単語ルビ
卯見が、特殊能力を駆使《くし》して、地面から何本も、黒い狼を、出現させた。単語ルビ
更に、虎も、加わっている。

シュッと、砂利石を、一直線に、赤い線が走った。
強い衝撃で、地面に、深い穴が、出来ている。

白雪は、ピクリとも動かず、ただ、天を、仰《あお》いだ。単語ルビ
純白の両手を、高く上げて、蜂蜜色の瞳を、そっと閉じた。

隣りの華貴《かき》が、白雪の着物を、握っている。単語ルビ
華貴は、白雪を、信じていた。

「……?    安心してよ。あんたは、殺さないから。もう、血は、見たく無いんだ」

訝《いぶか》し気に、卯見が、合図を出すと、狼達が、一斉に、白雪へ、飛び掛かった。単語ルビ

それは、ほんの束の間の出来事だった。

ズダダダダダーン。

空間を割って、氷柱《つらら》が生《しょう》じると、狼達の図体を、貫いた。単語ルビ
午後の雲が、変化している。
猛烈な鉄砲雨が、……神社一角に、降り注いだ。

淡々と白雪が、雨を、雪嵐に、自分の敵を、凍《こお》らせた。単語ルビ
半身を氷雪《ひょうせつ》に、封じられて、卯見が、眼前の白雪と、顔を合わせた。単語ルビ

「……本当はこのまま、貴方を、凍死させたい。けれど、私は、貴方とは、違うわ。
どんな理由があろうと、人の命は、奪えないの。例え、それが、仇《かたき》でも」単語ルビ

瞬間。卯見の呼吸を、風雪が奪うと、気絶させた。

スッと雲は晴れて、白雪が、何故か、攻撃してこない、白虎を逃した。
遣り切れない気持ちを、堪えて、白雪が、茜の遺体を、抱えている。

「白雪。卯見が、憎く無いの?」

神社の階段を降りながら、華貴が、尋《たず》ねた。単語ルビ

「私は、人殺しには、なれないよ。茜さんが、許さないわ。
あのね。私は、生涯、卯見を、許さないわ。家族を奪った、酷い人間よ!
……だからと言って、同じ事をしたら、地獄に落ちるわ。私に、生殺与奪の権利は無いの。
人は、産まれただけでも、尊《とうと》い。ただ一つの大切な命よ。単語ルビ
だから、どんな理由があっても、殺しては、いけないの。
私は、茜さんや闘夜《とうや》に、誇《ほこ》れる、人で、在《あ》りたいの。単語ルビ
決して、道を、違《たが》える事は、無いわ。それが、私の信念よ。単語ルビ
……まだまだ、未熟者だけどね。本当は、卯見を、茜さん以上に、苦しめてやりたいよ……」

様々な葛藤《かっとう》は、白雪の中にある。単語ルビ
理性を働かせて、気丈に振る舞うのは、茜の教えでもあった。

人の命を守る事は、自分の為でもある。
人は、誰かに守られて、生きているのだと、茜は、白雪に、教育した。

そして、守るべき者がいれば、強く、なれる……とも。

ふと、白雪が、後ろを、振り返った。
華貴が、不思議そうな顔を、している。

「茜さん。貴方の代わりに、華貴を、これからも、守ります。
私が、怒りに、飲み込まれずに済んだのは、大切な友の、おかげだもの」

再び、前を向いた、白雪の背中に、華貴が、抱き着いた。

「ありがとう、白雪」

華貴は、涙声だった。

白雪の怒りは、緩やかに、溶けていった。
助けて良かった。……茜の死は、無駄では、無かったのだ。

茜の死に顔を見ながら、白雪が、嗚咽《おえつ》を、漏《も》らした。単語ルビ

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