火の国と雪の姫

さくらもっちん

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20 忍び寄る者達

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小屋の周辺は、大島桜や、染井吉野、梅の木、楓、紅葉と、多種多様の木々がある。
年季の入ったものばかりで、敵から、身を隠す上でも、役に立つ。
野鳥や、鹿、野犬などは、居るが、熊は、この唐紅《からくれない》山には、いない。単語ルビ
……狼や、猪は、生息《せいそく》するので、完全に、安全とは、言い切れないだろう。単語ルビ

午前中。あいにく、薄雲が、掛かっている。
気温は、ぐんぐん上昇し、朝から、蒸し暑い。

小屋から少し離れて、彼岸桜の前で、白雪が、難しい顔をしている。

「何か、気にかかる事が、あるの?」

後を追い掛けて来た、華貴《かき》に、白雪が、言葉を、漏らした。単語ルビ

「うん。有り体に言えば、嫌な感じがするの……」

白雪は、樹木を撫でつつ、夏なのに、寒気を感じた。

「もしかして、敵……の気配とか」

勘の働く、華貴に、白雪が、小さく頷いている。

「見逃してくれるとも、思えないし、仕掛けて来るなら、そろそろだと思うの」

白雪の中では、迎え撃つ準備はしているが、相手の出方が、掴めなかった。
こちらから、先手は、打てない。
それに、敵の勢力も、未知数だ。

「ひとまず、成り行きに、任せるしか無いかな。今のところは、ね」

ぽんぽんと、彼岸桜の木の根元を叩くと、白雪が、華貴を連れて、小屋に、戻った。


白雪の予感は、適中する。


数々の失態を繰り返した、卯見《うさみ》   輝一《しょういち》の元に、痺れを切らした、単語ルビ
暗部《あんぶ》の長《おさ》が、来ていた。単語ルビ
暗部は、火の国の王宮地下に、隠れ住んでいる。
表向きは、商人などをこなし、裏は、暗殺の組織に、組《くみ》していた。単語ルビ

火の国の重鎮の一部、王族の中には、暗殺を、囲《かこ》う者も多い。資金援助をしている。単語ルビ

暗部の目的は、晴崎《はれざき》    華貴《かき》の捕獲だ。命《めい》じたのは、それこそ、王族だ。単語ルビ
ここは、暁十《あきと》村の役所。単語ルビ
村長と話を付けた、暗部の長が、捜索と称《しょう》して、村人を、動かした。単語ルビ
探しているのは、数日前から、行方知れずの、相猫《あいねこ》   白雪《しらゆき》だ。単語ルビ

「……風見鶏《かざみどり》   三日月《みかづき》様。何故、白雪の方を?」単語ルビ

怖ごわ聞いて来る、輝一の肩を、三日月が、ココア色の手で、軽く、叩いた。

「白雪は、茜の義理の娘だ。村人には、隠されていたがな。
……伝えただけだよ。隠れ住んでいた、娘の母親が死んで、天涯孤独だと、ね。
白雪が、妙な気を起こして、心配した、親戚の俺が、来た、と。
報せを受けて来た、俺の申し出を、うまい具合に、受け入れてくれた訳だ。
さすがに、田舎では、同情を誘えば、効果が高いな」

悪賢い三日月は、加えて、暁十村の者達に、強力な、暗示を掛けている。
いつの間にか、風に乗って、白い霧が……村を、覆い尽くし、村人の意思を操作した。

白雪の読みは当たり、敵の脅威《きょうい》は、直ぐ側まで、迫っていた。単語ルビ


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