マルス王国物語

田中実

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第1章 士官学校編

5話 初登校

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 春になり入学初日になった。薄ピンク色の小さい花びらが風に揺れて木から降っている。前を歩くメルの頭の上に1枚の花びらが乗った。

「可愛いな」

 ルーウェンの心の声は口に出ていた。しまったと思ったが頬を赤らめるメルを見て、まぁいいかと気にしないフリをした。

「ルーウェンさん、おはようございます。またお会いできましたね」

 入学試験のときに会ったイリアだ。

「おはよう。お互い合格出来てよかったな。実技試験もあったのによく合格できたね」

 失礼だと思ったがルーウェンは疑問を口に出さずにいられなかった。合格しただけですでにそこらの兵士より立場が上である試験を小さい女の子がいとも簡単に合格したことに興味があったからだ。

「秘密」

 イリアは口元に人差し指をつけそう答えた。イリアは教えてくれなかったが今後知る機会もあるだろうと諦めた。

「隣のお姉さんもお知り合いなんですね。この前も一緒だったので」

「メルだ。なんというか姉に近い存在だ」

「見ましたよ。王子様をえいっとやっつけていたのを。カッコいいですね」

 イリアは上機嫌に腕を振って剣で斬る仕草をマネる。

「ありがとうございます。イリアちゃんこれからよろしく」

 噂をすればなんとやら。1台の高そうな車が校門に止まり王子が降りてきた。長身で金髪の好青年。また白の制服が良く似合っていた。

「やっぱり風格が違うな」

 ルーウェンは元王子だった自分と重ね少し劣等感を抱いていた。

「ルー様だって負けてませんよ」

「ルーウェンさんもカッコいいです」

 催促した形になったが悪い気はしなかった。

「よし、イリアには飴をあげよう」

「子どもじゃないです」

 ルーウェンは鞄から飴を取り出しイリアに渡す。不満気な顔をしていたがイリアはとても喜んでいるように見えた。やっぱり子どもだ。

 教室に入るとルーウェンのお気に入りのハールがいた。

「ハール様、おはようございます」

 ハールは一瞬、誰だって顔をしたが実技試験を思い出して「おはよう」と苦々しく挨拶を返した。

「今日からお前らの担任になるマリーだ。階級は中佐。出来の悪いのは置いていく。覚悟して着いてこい」

 赤髪で体格もよく、見るからに軍人って感じ。油断した食べられるんじゃないか。入学した生徒たちは明確に決まってはないが曹長くらいの階級の立場で中佐である担任には絶対の存在。逆らうものなら殺されても文句は言えない。勿論そんな奴がいるとも思えないが。

 休憩中に横の席のハルトと仲良くなった。平民の家系で年がルーウェンと同じ16才ということもあり話しが合った。ハルトと話しているとケイも会話に混じってきた。ハルトと元々の知り合いらしい。2つ年上で茶髪の眼鏡女子。少し頼りなさそうなお姉さん。守ってあげたくなるタイプかな。

 授業は始めということもあり帝国の成り立ち、階級について、ここで守るべきルールの説明をされた。休日も制服着用が義務付けられていて前時代的だと思ったがだれも口にださなかった。殺されたくないからな。

「以上だ。質問はあるか?」

 質問は挙がらずこの日の授業は終いになった。

「この後どうする?」

「メルと帰るけど一緒に帰るか?」

「わかった。ケイと下で待っている」

 メルの席にいくとイリアと仲良く話ししていた。2人はすっかり打ち解けたようだ。

 下駄箱で靴を履き替えているとメルに客人が待っていた。入学試験でメルの剣の腕を見てどうしても勝負して欲しいようだ。ツインテールの良く似合う金髪の少女は熱心に頼み込んでいた。

「頼む。戦ってはくれないだろうか」

「ルー様を待たせるわけにはいかないので困ります」

 ルーウェンを待たせることも理由の1つであるがそもそも厄介事には首をだしたくないのが本音だろう。

 みるみる内にギャラリーが多くなってくる。

 ツインテールの少女もここまで来たら引っ込みがつかない。腰元の剣に手を掛けようとしたとき「わかりました」とメルは答え少女の手を取り外へ走っていった。

 釣られてルーウェンが追っかける。イリアもメルと約束をしてたので走ってきた。あらかじめ下で待っていたハルトとケイは訳がわからず行ってしまうルーウェンを少し遅れて着いて来た。

 入学初日から青春をすることになった。
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