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第一部
密やかな恋の結末 1
しおりを挟む創介さんに連れられて来た場所は、駅から十五分ほどのところにある、あの日と同じホテルだった。ただ、あの時よりさらに広い部屋で、ついきょろきょろと見回してしまう。
「こっち」
あまりに部屋が広くてどこに身を置いたらいいか分からないでいると、創介さんが私の手を引いた。子どものように素直に創介さんの後に続く。
「……わぁ」
大きな窓からは東京タワーが見える。その窓際にはテーブルがあって、すでに料理が並べられていた。
「落ち着いて雪野と過ごしたくて、ルームサービスにした」
「ほんとに素敵です……。ありがとうございます」
テーブルには既に、前菜とシャンパンが置かれていた。向き合って座るとすぐにホテルの人が来てくれて、次々と料理を運んできてくれる。
「――雪野、誕生日おめでとう」
創介さんがグラスを少し上げて私を見つめてくれる。
「ありがとうございます」
一口飲めば、芳醇な香りが口の中に行き渡る。甘くはじけるシャンパンが私の胸まで躍らせた。
「料理もしっかり食べるんだぞ。おまえは少し太った方がいい」
「……えっ? そういうことは女性に対して言わない方がいいと思います」
すべてをこの人には見られている――。そんなことを急に思ったりして頬が熱くなる。気恥ずかしさを誤魔化すように、少し怒って見せた。
「どうしてだ? 本当のことだろう。見ているだけで心配になるこっちの身にもなれ」
「心配……ですか?」
「ああ、そうだ。少し強く抱きしめただけで折れるんじゃないかって怖くなる」
大真面目に答える創介さんに、私は私で何とも言えない気持ちになる。私が思いもしないことで私のことを考えてくれている時間がある。改めて胸がじんとした。
「大丈夫ですよ。体力だけは自信ありますし、こう見えて頑丈なんです」
「確かに、雪野はいつも動きまわってるな」
創介さんのいつもは鋭い目が、細められる。そんな表情を見れば、私は何にも優るほどの幸せで満たされる。こうして笑い合えるだけで、間違いなく私は幸せだ。
すべての食事が終わり、ホテルの係の人がテーブルを綺麗に片づけてくれた。係の人が部屋を出て行くと、改めて二人きりになる。
「……雪野」
「はい」
名前を呼ばれて見上げると、創介さんが窓際に立ち「こっちに」と小さく手招きをした。おずおずと近付き、背の高い創介さんの隣に立つ。ちょうど肩のあたりに目線が行き整っているネクタイについ視線を取られていると、創介さんの手が私の手のひらに触れて来た。
「これから大事な話をする。雪野に、聞いてほしい」
少しだけ緊張しているようにも見える。そんな緊張感が私にも伝染して、こくんと頷いた。触れた手のひらをぎゅっと握り締めて、創介さんが私に向き合った。
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