雪降る夜はあなたに会いたい【本編・番外編完結】

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《番外編 新しい常務がやって来た!!》

1.広報室広報誌係 広岡広史の場合 ⑤

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「係長! なんで俺がインタビュアーなんですかっ!」

「まあまあ、落ち着けって」


係長が苦笑いしながら俺をなだめようとする。


どうして朝からこんなに声を荒げているかと言うと――。


榊常務へのインタビューまでのスケジュールと段取りなんかをまとめたペーパーが朝配られた。

そこにあった……


【インタビュアー】 広岡


俺の名前を見つけて、今こうして係長に怒りをぶつけている。


「広岡、そんなに大きな声も出せたんだな」


寺内さんが他人ごとのように呑気にそんな言葉を挟んで来る。


「通例なら、管理職以上へのインタビューは係長以上が担当していたじゃないですか! 今回なんて、役員ですよ、常務ですよ、あの丸菱の人ですよ!」


絶対に撤回させてやる。


「僕みたいなペーペーが対応していい相手じゃない!」

「いや、本来ならそうなんだけどね。でも、ああいう質問投げ掛けたことで榊常務のご機嫌損ねてもさ……。室長も俺も、キャリアに傷付けたくないって言うか。常務に睨まれでもしたら今後の昇進に関わるから、あんまり目立ちたくないんだよねー」

「なんですって……?」


係長の奥の席にいる室長も睨んでみても、しらーっと目を逸らされた。


「僕なら、いいと……?」

「いや、ほら、広岡はまだ若い。多少の失敗は許される。それに、おまえもともとやる気もなさそうだし、ミスが響かないかなーなんて。というわけだから、これはもう決定事項だ。当日は、もちろん俺も同行する。何かあったらフォローするから。なっ。よろしく頼むよ~」

「係長っ!」

「俺、営業二課に用があるから席外すよー」


逃げやがったな!


「広岡、この質問、頑張れよー」


そう言って俺の胸に資料を押し付けて、寺内さんもどこかへと行ってしまった。


”榊常務への質問事項”


そう書かれた10枚程度の資料。


集まった質問を俺が集計して係長に提出した。
その中から係長と室長とで精査して、最終的に榊常務にインタビューする質問事項を決定したはずで――。


おそるおそる資料の表紙を捲る。


一つ、二つ、男性社員から届いたと思われる仕事に関する質問が申し訳程度に足されてはいたが、あの、俺が見た、榊常務のプライベートを聞き出す質問ばかりでほとんど埋め尽くされていた。


「広岡君、榊常務のインタビュー、よろしくね」

「なんだよっ!」


気が立っていたので、振り返りざまに怒鳴っていた。


「こわっ」


わざとらしく肩を竦めた三井が立っていた。


「おまえまで、何の用だ」

「榊常務のインタビュー、私も写真撮影要員として一緒に行くことになったから。うふ」

「はぁ? 写真撮影は、寺内さんが――」


どうして違う係の三井が出て来るんだ。
訳が分からず、聞き返す。


「うん。室長と草陰係長に、ちょーっとお願いしてみたら、『いいよ』って言ってくれて」

「ちょっと……?」

「少しだけ? ほんの少し上目遣いで頼んでみたらあっさり承諾してくれたんです。だから、当日はよろしくね」


そのにやけた顔が、余計に腹が立つ。


「なんで、おまえが?」

「だってほら、私、広報関係でよく写真撮ってるし、そういう場に慣れてるから絶対役に立つよ!」

「そんな理由じゃないよな……?」


じろりと睨みつけると、また顔をだらしなく緩ませて『えへへ』と可愛くもない笑顔を晒して来た。


「だってぇ、"生"榊常務、間近で見たいんだもん。喋ってるところ、見たいし? じっくりお目にかかれるこんなチャンス、私たちみたいな平社員にはないじゃない? たとえ自分には縁もないお人でも、いい男を見るだけで心の保養になるんですっ」

「これは仕事だ! 公私混同するのも大概にしろ!」

「なによ、急に。広岡君だって、そんなに仕事に打ち込んでもいないくせに。とにかく。私がカメラマンとして同行しますので、よろしくお願いしますーだ」


ブサイクな顔を俺に突き出して、「ふんっ」と鼻息荒く去って行った。
立ち去りながら一人で喋っている。


「あー、写真、練習しよう。そうだ、二年前の『週刊経済』、見返しておこうかな。あの榊さん、最高にかっこいいんだよね~。でも、あれに負けないくらいのすっごいイケてる写真、撮ってやるんだから」


もはや、三井が怖い。


もう、どうにでもなれ。知ったことか――。


俺は、考えることをやめた。


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