ラグナ・リインカーネイション

九条 蓮

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第一章 セルメシア編

第20話 アムレアン盗賊団

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 大自然広がる平原。
 見渡せば小さな動物が元気よく走り回り、木々も風に吹かれて優しく揺れる。
 上を見上げれば雲一つない快晴の空の中、鳥たちが翼を羽ばたかせては気持ちよく飛んでいる。
 目的地などなく、彼らの行く先は気分のまま。
 吹いている風に身を委ねて飛んでいくのも悪くはないだろう。
 そんな青空の下で、とある蒸気機関車が煙突から黒煙を出しながら線路の上を走っていた。

「わぁ……メランシェルの外ってこんな広いんですね」

「騎士団に入団すればいろんなところに行くからな。そうすれば街の外に出る機会もたくさんあるぞ」

 窓際でリナリーが外の景色を眺めながら、目を光らせていた。
 リナリーはメランシェルの街の外に出たのはこれが初めてで、彼女にとっては何もかもが初めての大冒険。
 これから先も色んな事が彼女を待ち受けているのだろう。
 絵本の世界に閉じこもっていた世間知らずの少女アリスは今、夢の世界を飛び出して未知なる世界へと一歩、踏み出したのだ。

「リナリーちゃん。どう? 初めての列車は?」

「少し緊張しています。これから先の事も考えると不安だらけですが……お兄様と一緒なら、どんなことでも乗り越えられそうです」

「あらら、翼君。期待されちゃってるわよ?」

「だったら兄として頑張らないと、ですね」

 妹に期待されてるロベルトも彼女の笑顔を見てより一層守ってやらねばと、己に再び誓いを立てる。

「お姉ちゃん。アルト寝ちゃってるけどいいの?」

「いいわよ別に。もし盗賊団が来たらたたき起こせばいいし。これ団長には内緒ね」

 アイリと対面して座っていたアルトは、いびきをかきながら呑気に寝ていた。
 オスカー直々の任務だというのに、はっきり言って職務怠慢である。
 シャルロットだから大目に見てもらえたが、もしハイドが同席していれば今頃彼の背後には不動明王の幻影が見えているだろう。
 そうなれば処罰は免れない。

「それにしても……この車両って騎士団の人たちしか乗っていませんね」

「騎士専用車両だからな。確か学校で習ったはずだろ?」

 ロベルトたちが現在のっている車両は騎士専用車両と呼ばれ、アルメスタ王国騎士団の騎士団員のみが入ることが許される車両。
 もちろん仕事でのみ利用可能でプライベートでの使用は禁止されている。
 他にも一般のお客さんが乗っている一般車両や先ほどの積荷が積まれている貨物車両。
 そして万が一アムレアン盗賊団が襲撃して来た際、一般の乗客を非難させるために用意した隔離車両と呼ばれるものがある。
 この隔離車両のおかげで、これまで列車に盗賊団が襲撃されても一般客に被害が出ることはあまりなかったのだ。

「お兄様は任務でよく乗っているんですよね?」

「そうだ。だがナギ国やヤクモ国には行ったことはない。せいぜいメランシェルの近隣の都市くらいだよ」

 アルメスタ王国には王都メランシェル以外にも大きな街が現在3つある。
 一つはメランシェルからヤクモ国方面に列車で30分ほど行ったところにある、アルメスタ第二の大きな街であるアルマという商業都市。
 二つ目は現在のっているナギ国方面の列車で1時間ほど走った場所にある近年新しく作られたベッドタウンである第三の都市、ベーネ。
 最後は先ほどのメランシェル駅の3番線の列車に乗って行ける、グラハマーツ大陸に行くための港がある湾岸都市、カルミアだ。
 今乗っている列車も後一時間でベーネという都市に行けるが、現在のこの列車はベーネには停車せずに通過予定である。

「私も騎士団に入団すれば、色々なところに行けるんですね。楽しみです」

「だけどその分、俺と過ごす時間も無くなってしまうな」

「むぅ、そう言われると少し悲しいです……」

 ロベルトの余計な一言でリナリーは少しだけ拗ねてしまう。
 しかし彼の言う通り、騎士団に入団してしまえば尊敬する兄と過ごす時間が少なくなるもの事実。
 少し前のロベルトのように、一か月の長期任務に派遣されることだってあるのだから。
 いずれリナリーもそのような任務を体験するだろう。

「ん?」

 ふと窓を見たリナリーは、遠くに見える無数の動く粒を己の瞳の中に捉える。
 よく目を凝らして、彼女はその粒が馬に乗った人の集団であることを確認した。

「あの……シャルロットさん。あれ、何ですか?」

「どうしたの?ちょっと待っててね」

 シャルロットは腰のポーチに入っていた双眼鏡を取り出して、窓を開けて少しだけ身を乗り出し、リナリーの指さす場所へと双眼鏡を向ける。
 身を乗り出している間、風の抵抗によって彼女の艶のある水色の髪は激しく揺れ動き、乱れる。
 乙女にとっては髪は大事なものだが今はそんな余裕もなく、彼女は両手で双眼鏡をしっかり握ってリナリーの指摘したポイントを確認した。
 すると突如、彼女は大声を張り上げた。

「あれは……アムレアン盗賊団!!」

「なんだって!?」

「嘘!? マジで!?」

 シャルロットのたった一声で、騎士専用車両にいた騎士全員……否、寝ているアルトを除いて席を立つ。
 今セルメシア大陸中を騒がせているアムレアン盗賊団が、この列車に狙いを定めてきたのだ。
 この騒動のせいで、車内の空気は一気に緊迫した空気に包まれる。

「翼君! アルトをたたき起こして!」

「はい! おいコラアルト!! 起きろ!!」

 シャルロットの指示で、ロベルトはアルトの頭を二度ほど強く叩いて、彼を眠りの世界から一気に引き上げる。
 しかし彼の意識は未だ微睡の世界を漂っているのか……

「んー? なんだぁ? もう昼飯かぁ?」

 と、寝ぼけているのか緊急事態なのにも拘わらず、空気の読めないボケをかます。

「寝ぼけてる場合か!! アムレアン盗賊団がこっちに来てるんだよ!!」

「……え?」

「だから盗賊団だ! アムレアン盗賊団!!」

「……嘘ぉ!? マジで!?」

「マジだ!!」

 アムレアン盗賊団という単語を言った瞬間、アルトの意識が一気に覚醒した。
 今こんな張り詰めた空気の中でボケなぞ不要である。

「とにかく、私は機関士と機関助士にこのことを報告するわ! アルトと華蓮は一般の乗客にこのことを説明して隔離車両に避難させて! 弓を持っているものは外の通路で迎撃待機! 他の者はここで待機して!」

「はい!!」

「了解!!」

 シャルロットの素早く的確な指示のもと、彼らはその指示通りに行動をする。
 しかし今の説明にロベルトとリナリーはどうするか言っていない。

「副団長! 俺とリナリーはどうすれば!?」

「貴方たちはここで待機していて! すぐに戻ってくるから! それとすぐに戦闘できるように準備しておいて!」

 とのことだったので、エルヴェシウス兄妹は少しの間ここで待機することになり、シャルロットは蒸気機関車を運転する機関室へと向かう。

「お兄様……」

 突然の襲撃に不安に駆られたのか、ロベルトの制服の裾を握るリナリー。

「リナリー、大丈夫だ。俺がついている」

 少しでも彼女の不安を取り除こうと、兄は妹の顔を見てそう言った。

「……はい、そうでした。私、こういう時のためにちゃんと訓練を積んできたんですから。ここで弱音を吐いていてはダメですよね!」

 この先、こんな出来事などいくらでもあるだろう。
 ここで弱音を吐いていては、騎士の仕事が務まるわけがない。
 リナリーは兄の顔を見て、再び顔つきが変わった。
 盗賊の襲撃に怯える少女としてではなく、盗賊を撃退する騎士として。

「そうだな。リナリー。こういう時はどんなふうに戦ったらいいかちゃんと勉強しているか?」

「こういう車内の通路は狭いので、長い剣よりも短剣のほうが有利なんですよね?」

「その通り! ちゃんと勉強していて何よりだ。それともう一つ……大事なことを今から言う。盗賊団と言えど人間だ。騎士の仕事とはいえ、今からお前は人を殺すことになるかもしれない。だからこれだけは覚えていてくれ。人を殺すということは相応の責任を背負う覚悟が必要だということを」

「覚悟……」

「俺もな……騎士団に入団して初めて人を殺したとき……心の中に言葉にできないような罪悪感が一気に襲い掛かったんだ」

 ロベルトはそう言うと、3年前の騎士団に入団したての頃を思い出す。
 忘れもしない……雨が降っていたある日の夜、空に浮かんだ月が冷たく見下ろす中、ロベルトは転生して初めて人を殺めたときの事を。
 目の前には血だらけになって死体になり果てた男が倒れ、空から降る雨が人を殺したロベルトに対して罰を与えるかのように、彼の体を容赦なく濡らす。
 任務で仕方ないとはいえ、持っていた剣で心臓を貫いたあの感触を未だに覚えており、その感覚が右手に残っている。
 前世で人を殺したことがない彼にとってはあの一件は大きなトラウマにもなり、あの任務以降ロベルトは一時期悪夢にうなされていた時があった。
 もしこのまま騎士団にい続けてしまえば、自分は殺すことに快楽を感じてしまう殺人鬼に落ちてしまうのかもしれない。
 騎士団をやめてしまいたい気持ちに駆られていた時もあったが……そんな時、ロベルトを支えてくれたのが母のエミリーだ。
 あの時、ロベルトにやさしく言葉をかけてくれるとエミリーの笑顔を、今でも鮮明に思い出せる。

「ロベルト。確かに人を殺めることは許されることではないわ。だけど話を聞く限り、相手だって貴方を殺そうとしてた。貴方は自分の身を守っただけに過ぎないのよ」

 エミリーはリビングのソファーでいじけるロベルトに対して怒ることなく、思ったことを口に出す。
 彼の言う通り、相手はロベルトを殺そうとし、手に持っていた武器を向けていた。
 いわゆる正当防衛で、ロベルトは相手を殺してしまったとはいえ、自分の命を守るために剣をふるったのだ。

「でも……俺、このままを騎士を続けていたら、また殺してしまいそうで……怖いんだ」

 そう話しているうちにロベルトは、剣で相手の心臓を貫いたことを一瞬だけ思い出してしまった。
 あの出来事が脳の中でフラッシュバックするように呼び起こされ、激しい頭痛が襲う。
 この先も誰かを殺して殺して……自分は自分ではなくなってしまうのが、彼にとっては最も怖かった。
 もしかしたら、いずれ家族にも手を出してしまうのではないか、と。
 だが、ロベルトの弱音を聞いたエミリーはソファーから立ち上がり、近づいて彼の体をやさしく抱きしめる。

「ロベルト。いい? 貴方の言う通り騎士団に所属していれば、任務で誰かを手にかけることは十分にありえる。だからこれは覚えておいて。決して人を殺めることを楽しまないこと。そしてたとえどんな相手だろうと殺めてしまった人を侮辱しないこと」

「侮辱……盗賊団でも?」

「そうよ。今この大陸で暴れているアムレアン盗賊団……彼らだってもしかしたら、盗賊にならざるを得なかった理由があるのかもしれない。だからこそ、貴方は覚悟を持たなければならない」

「覚悟?」

「人を殺めてしまうということは相応の責任を背負う覚悟が必要なの」

 母はそう言ってロベルトから離れる。

「貴方はまだ分からないかもしれないけど、大人になればその言葉を意味を実感するかもしれないわ」

 実際ロベルトは生前の年齢を入れると既に30過ぎているので大人ではあるのだが、彼女の言う覚悟……この時はまだその言葉の意味を知らなかった。
 しかし、幾度か任務をこなしていると、その言葉の意味がようやく理解できた。
 エミリーの言った覚悟とは、人を殺せば誰かに恨まれて自分も殺されるかもしれないという意味だ。
 もしかしたら殺した人に親しい人や家族がいたのかもしれないし、いたのであれば自分は人殺しと罵声を浴びせられても仕方ない。
 最悪、その殺した人間の仇や復讐のためにロベルトにも剣が向けられるのかもしれない。
 だからこそ人を殺すのであれば、自分も誰かに恨まれる覚悟を持たなければならない。
 人を殺した当初はロベルトは任務に対して消極的であり、剣を持つことを躊躇ったこともあった。
 しかし彼には周りに味方もいた。
 父シリウスに母エミリー、友人のアルトにヴィンセント、セラにモニカ、後輩のノエル……妹のリナリーに、前世からの付き合いのアイリとシャルロット。
 彼らだって騎士である以上、ロベルトと同じ道をたどっている。
 友人たちも同じ道を歩んで入る以上、彼らももしかしたら任務で人を殺したことがあるのであれば、弱音を吐いてはいられない。
 時がたつにつれてロベルトも自分の心の弱さを受け入れ、この先も同じことが起こっても決して自分を見失ないように覚悟を決めたのだ。

「……お兄様?」

「ん? あぁごめん。ちょっと昔の事を思い出していたんだ。いいかリナリー。これから先お前は騎士として誰かを殺すかもしれない。殺した奴に親しいやつがいればいずれ、お前はそいつに恨まれるかもしれない。だからこそ、その覚悟がお前にも必要なんだ」

 3年前にエミリーに言われたことを思い出しながら、ロベルトは自分の手をリナリーの両肩に優しく置いて、彼女の目をまっすぐ見て思ったことを彼女に説く。
 しかし昔から兄の背中を見ていたリナリーは、既に覚悟は決まっていたようだ。

「お兄様、私は既に覚悟は決まっています。昨日陛下に任務を言い渡されたあの時から……心に決めたことがあります。お兄様の背中を守ると!」

 彼女の口から放たれる力強い言葉……瞳に宿った光は嘘偽りなく、リナリーの覚悟はその目に宿っていた。
 それを見たロベルトも思わず少しだけ笑顔になる。

「……そうか。だったらもう言葉はいらないな。よしリナリー! 準備をしろ!」

「はい!!」

 そう言ってエルヴェシウス兄妹は腰に差している短剣、青のクロスと赤のロエムを同時に引き抜いて逆手で構える。
 ちょうどその時、機関室に言っていたシャルロットが戻ってきた。

「翼くん! そっちは大丈夫!?」

「問題ありません。そっちは?」

「今機関士と機関助士に状況を報告して、機関室の扉を厳重にロックするように言っておいたわ」

 万が一、蒸気機関車を運転する機関士と機関助士が殺されてしまえば、この列車は盗賊団の手に落ちてしまい、最悪終点のナギ国リンメイの街に突っ込むかもしれない。
 そうなってしまえば大惨事は免れないが、数年前にオスカーが機関室の扉を金庫にも負けないほどの鋼鉄製の扉に作り替えたので、ちょっとやそっとではまず壊れない。
 これで機関士と機関助士は心配ないだろう。
 今回はリナリーがいち早く盗賊団を見つけたことが功を奏し、素早く動けたことが幸いだった。

「お姉ちゃん! 乗客の避難が完了したよ!」

「今日は乗ってる乗客が少なくて助かりましたよ。おかげで避難も素早かったし」

 ここで一般の乗客の避難を行っていたアイリとアルトが帰ってきた。
 シャルロットの指示で乗客を列車後部にある隔離車両に避難して戻ってきたのだ。

「今回はリナリーちゃんのお手柄ね。貴方が盗賊団を見つけていなかったら今頃は多くの犠牲者が出ていたかもしれない」

「そんな立派なことはしていませんよ。私は当然の事をしただけですから」

 シャルロットに褒められるも、リナリーは控え目な態度で振る舞う。
 自分の今回の行動に決しておごらず大したことはしてないと、彼女自身の性格が現れている。
 こんな妹を持てて、兄であるロベルトも思わず鼻が高くなってしまうだろう。

「シャルロット副団長! 今よろしいでしょうか!?」

「どうしたの?」

 ここで、ロベルトたちとは別の任務で騎士専用車両に乗車していた騎士がシャルロットに声をかける。

「アムレアン盗賊団は目視で確認したところ、数は50人ほど馬に乗ってこちらに向かっております!」

「50人……結構いるわね。わかったわ。弓部隊の迎撃準備は?」

「既に完了しています」

「ならいいわ。私も迎撃に参加する。華蓮、貴方はアルトと一緒に貨物車両のほうに向かって。翼君とリナリーちゃんはここで迎撃待機していて」

 いくら弓で迎撃すると言っても、50人全員を仕留められるとは限らない。
 弓部隊にも数に限りがあるし、あまりに離れていてはそもそも矢が届かない。
 ましてや走行している列車の上から、同時に並走している盗賊に向かって矢を当てるのは至難の業だ。
 だがそれをしなければいけないのが誇り高きアルメスタ王国騎士団だ。
 どのみち奴らが乗り込んできたのであれば、車内で一戦交えるほかないだろう。

「わかった! よしアルト、いくよ!」

「あぁ! ロベルト! 生きてたらまた後でな!」

 アイリはアルトを連れて車両後部の貨物車両のほうへと向かって走る。

「じゃあ私も行くからね。翼君。リナリーちゃんをしっかり守ってね!」

「はい!」

 シャルロットはそう言うと、車両を出ていき外の通路のほうへと向かった。

 アムレアン盗賊団がこの列車に狙いを定め、車両に乗っていたアルメスタ王国騎士団は奴らの迎撃を開始しようとする。
 列車は速度を落とすことなく走行し吹き荒れる風の中、外に出たシャルロットの真剣な目は、向こう側を馬で走っている盗賊団の集団を確認する。
 先ほどの騎士の報告通り数は50人ほどおり、少しずつではあるが確実にこの列車に近づいていた。
 ここでいかに弓部隊による迎撃で奴らを仕留めるかが、この任務の成功を左右する。

「さて、準備はいいわね」

「はい!」

 通路に並んで弓を持っている騎士たちが威勢のいい返事をする。
 彼らも盗賊団を倒すために気合が入っている。
 ある者は手柄を立てるために、ある者は家族や大事な人を守るために、ある者はただ任務をこなすために。
 それぞれ思惑は違うが、ここで盗賊団を倒すという気持ちだけは一緒だ。

「さて……私も少しばかり暴れるとしましょうかね」

 シャルロットは風によって乱れる髪をかき分けると、右手を開きながら天に伸ばす。
 光の粒子が彼女の掌に集中し、その光は徐々に弓へと形を変える。
 彼女の前世において古代ギリシア神話の月の女神の名を冠した、シャルロットのラグナ……神弓アルテミス。
 アルテミスを構えて左手で弦を力強く引くと、弓の中に水色のオーラを纏った矢が現れる。
 狙いは言うまでもなく、彼女の視線の先にいるアムレアン盗賊団。
 早く動く列車上から、遠くにいる相手に向かって矢尻を合わせる。
 だが相手に標準を合わせて放っても、相手も同時に動いているのでそのまま矢を放っては当てられない。
 故に、少し先……相手の動く先を読んでから放つ必要がある。

「………………」

 弓を構えている間、シャルロットは指と視線の先にいる盗賊団に神経を集中させる。
 列車がどれだけ早く動こうが、激しい風の抵抗を受けようと、シャルロットは動じることなく自分の世界に意識を落としてその時を待つ。
 そして、その時は来た。

「……飛べぇ!!」

 その力強い言葉と共に彼女は弦から指を放す。
 勢いよく放たれた矢は風を切る音を出しながら、馬が出せる最高速度すらも超えて飛んでいく。
 飛んでいく矢は本来であれば空気抵抗で減速するはずだが、彼女のラグナの特性かそのような様子は全く見えない。
 矢が飛んでいく先は馬に乗ったアムレアン盗賊団の集団、その列の先頭にいる大柄の男だ。

「てめぇら! そろそろ列車を襲撃するぞ! 準備はいいな!」

「「「おぉーーー!!」」」

 手に剣や斧といった獲物を持って天に掲げ、列車に積まれた荷物を奪い取る気満々のアムレアン盗賊団。
 気合を入れて列車のほうに少しずつ馬を走らせていた時だ。

「ん? なんか飛んで……がぁ!?」

 先頭にいた男が何かに飛んできたものに一瞬気づくが、時すでに遅し。
 シャルロットの放った矢が瞬く間に飛んできて、男の首元を貫く。
 男は白目をむきながらそのまま絶命し、馬から落ちてそのまま死体へとなり果てた。

「お、おい! どうしたんだ!?」

「あの矢……まさか! あの列車にあの女が乗っているのか!? アルメスタの純白の射手が!!」

 共に馬に乗って走っていた男たちが青ざめた顔をしながらそう叫ぶ。
 シャルロットは特注品の白い制服を着ており、それが由来して純白の射手と呼ばれている。
 どうやら彼女の活躍は盗賊団にも知れ渡っており、列車に彼女が乗っていると知った途端、男たちは動揺の色を露わにする。

「マジかよ!? クソっ! ついてねぇじゃねぇか!」

「でもここまで来たら突っ込むしかねぇ! 行くぞ野郎ども!!」

「「「うおおおおお!!」」」

 男足る者、一度手を出そうとした列車にここまで来て引き下がれないと思ったのか、盗賊団は少しずつ馬で列車と距離を縮める。
 だが、その間もシャルロットが放つ矢の嵐が次々と彼らに襲い掛かる。

「うぎゃあ!!」

「ちくしょう! あの女め! よくも……がばぁ!」

 列車に近づこうにも矢の的になり、盗賊団は一人、また一人と落馬して絶命する。
 数はだいぶ減ったものの、その数は未だ30人近くおり、少なくなったとは言えない。

「よし! そろそろ頃合ね。みんな! 放て!!」

「「「はい!!」」」

 シャルロットの号令で通路で迎撃待機していた弓部隊も攻撃を開始する。
 しかしシャルロットとは違って矢に限りもある上、彼らは決して弓の扱いに関してはプロとはいいがたい。
 それでも盗賊団から荷物と乗客を守るという信念の元、手に持った弓で応戦する。

「ふぎゃあ!」

「ぶぐぁ!」

 直接体に命中しなくても馬にあたり、巻き添えで倒れるも者もいる。
 だが彼らも矢の的になっているわけではなく、数人の男が弓矢を持っており列車にいる騎士団員に向かって矢を放つ。

「うぎゃあ!」

「きゃあ!」

「大丈夫か!?」

 盗賊団の放った矢が数人の騎士団員の肩や足などに命中し、その場に崩れ落ちる。
 致命傷ではないのが幸いで、負傷した団員は他の団員に安全な場所に連れていかれる。

「怪我した者は下がって! 他はそのまま矢を放って!」

 シャルロットの指示で残った団員で迫りくる盗賊団を弓矢で迎撃する。
 彼らの頑張りで20人近くまで減らしたものの……

「よっしゃ! 俺が一番乗り!」

「しまった!」

 隙を見計らって馬から飛び降りるように、後部車両の通路に盗賊団が侵入した。
 一人が続くと二人三人と、ぞろぞろと入ってきてしまう。
 乗客は既に隔離車両に避難しているため、彼らの身は安全ではあるものの、積荷が心配だ。

「副団長! 奴らが車両に侵入しました!」

「仕方ないわね……総員、車内に侵入した盗賊団を撃退するわよ!」

「はい!!」

 弓部隊による迎撃は失敗に終わった。
 50人いた盗賊団も30人ほど減らしたものの、残りの20人の侵入を許してしまった。
 これより車内に侵入した盗賊団の排除に移行し、乗客と積荷を守る。
 もしここで積荷を奪われてしまえば、それはオスカーから任された任務が失敗に終わることを意味する。

「みんな……大丈夫かしら」

 ここにはいないロベルトとアイリ、アルトやリナリーを心配するシャルロット。
 だがロベルトとアイリもラグナを持っており、よほどのことがなければ心配はないだろう。
 もっとも、慢心は厳禁であるが。
 アルテミスが光の粒子となって消え、彼女は腰に差している綺麗な剣を引き抜いて車内に戻っていった。
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