その傘をはずして

みたらし

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第一章

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『だから私も、歩が作っているところを実際に見て、少しずつできるように頑張るから。ね? この通り』

 電話での彼女の哀願は、表情が見えないだけに心に響くものがあった。夜だからいつもの張りのある声量を抑えているのか声は吐息が多く、耳元で囁いているように聞こえた。

 しかしこれも彼女の作為的な声で、実際は声だけで演技をしているという可能性もある。

 そして何よりも、僕にはこの料理を作りたくない理由があった。それを言おうとした時、受話器の奥から縋り付くような声が聞こえた。

『お願い、歩。協力してよ』

『……もう、わかったよ』

 悶々と葛藤している間に、僕の口は勝手に動いていた。

『本当に? ありがとう! うまくできるようになったら一度食べさせてね。おばあちゃんが好きな味に近づけたいからさ』

『それはいいけど、材料費は』

『そうそう。お弁当箱に入れて持ってくるときは、あんをこぼさないようにね』

『いや、だから、一発じゃできないと思うから材料費が嵩むと思うんだけど』

『えっ? なに? 聞こえない。あっ、電波が遠くへ! じゃあよろしくね!』

 伊織は僕の発言をすべて遮って、挙句の果てに一方的に電話を切った。

 やっぱり彼女は、自分がうっかり蒔いた種に困っている演技をしていたのだ。そもそも電波が遠くへってなんなのだ。

 内心いらつきながらもパソコンに向き合い、インターネットで茄子のはさみ揚げの作り方を検索した。

 思い当たるページを見つけた後それをプリントアウトし、手順を一通り見た後、一階の冷蔵庫に向かった。ホームページに記載されていた材料と冷蔵庫の中の具材を見比べて無い物をメモした。

 散々振り回されているのに、言いなりになって律儀に段取りしている自分を情けなく思う反面、同時に彼女に頼られているということは、本当はすごく幸運なことなのかもしれないと思った。

 よくよく考えてみれば、嘘とは言え僕は校内で誰もが憧れる雅田伊織と付き合っているのだ。それに彼女のおばあちゃんには好感が持てる。

 そういえば、この間はごちそうされてばかりで、お土産にお茶の葉まで持たせてくれた。

 これは伊織のためじゃない。おばあちゃんのためだ。そう自分に言い聞かせながら、戸棚の中から茄子のはさみ揚げが入りそうな容器を探した。
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