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第一章
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搬出作業を終えると、次は鶏肉のパックにラベルを貼るという仕事を任された。計量プリンターと呼ばれる秤のようなものにラッピングされた鶏肉のパックを置くと、デジタルの画面に100g辺りの値段が表示され、それがシールになって出てくるといった仕組みだった。
片山さんと世間話をしながら、僕はもくもくと今日並べる分の肉を軽量し続けた。片山さんはお酒が好きで、その病的なしゃがれ声はきっと酒によるものだと思った。
片山さんには僕と同じ学校に通う同い年の娘がおり、その子は伊織のクラスに在籍しているらしい。娘も今日デザイン会社にインターンシップに行っているが、ここに来ればいいのにねぇとぼやいていた。
そうですね、と言ってはみたが、僕が当人の立場になったら親の働いている会社で職場体験をするのはやっぱり嫌だと思った。それから直売所への野菜の品出しや、販売業務などに携わっていると、あっという間に昼になった。
所長から昼は出張所の休憩室で食べるということを聞かされていた。休憩室は十帖ほどの和室で、漆色のテーブルとテレビがあるだけの殺風景な部屋だった。部屋にはすでに僕以外の社員がいて各々食事を取っていた。井坂は窓側の端っこの席で、昼のバラエティ番組を見ながらパンの袋を開けていた。
「あっちの仕事はどうだ? 結構ハードだっただろう」
「はい。とても」
弁当を食べながら、今朝からの一連の業務の感想を述べた。所長やその他の社員からもねぎらいの言葉を受けて、その場所での居心地は悪くなかった。
「井坂君はどうだい? 仕事大変だったかい?」
「……いえ、別に」
井坂は片膝を立ててパンをかじりながら、所長と目を合わせずに答えた。その横着な態度に楽しい雰囲気が一変し、それを機に誰もが喋らなくなってしまった。僕は弁当を早々に平らげ、倉庫のダンボールの片づけが途中だと嘘をついてその場を離れた。
午後は店内に陳列されている商品の賞味期限を調べる作業を行った。棚の奥にある賞味期限間近の商品を手前に入れ替えるという作業である。店内はそこまで広くはないが、作業には意外と時間がかかり、終えたころ片山さんに休憩をしようと言われた。
「月島君は彼女いるの?」
片山さんがしゃがれ声で聞いてきた。
「ええ、まあ一応」
僕と伊織は、雇用主と社員との間で交わされる一種の契約のような関係である。だから本当はいないと答えるべきだが、片山さんには伊織と同じクラスに娘がいるので、本当のことを言うわけにはいかない。
しかしそのことで急に火が付いたのか、片山さんが彼女の写真を見せてとせがんできた。僕は仕方なく、携帯電話で一枚だけ撮影した写真を見せた。
「うっわ! めちゃくちゃ美人じゃない!」
片山さんはうわずったしゃがれ声で叫びながら、液晶を食い入るように見ていた。
それは僕と伊織が、楠木の下で顔を近づけている写真だった。彼女の指示で待ち受け画面にしていたが、極力誰にも見せないようにしている。片山さんは何故か残念そうに携帯を僕に返した。
「もしも彼女がいなかったら、うちの娘を紹介したのに。あの子いつもゲームばかりしているから、恋人でもできたら外に連れ出してくれると思っているんだけど。知ってる? プレーヤーが社長になって、日本全国を電車で回るゲーム」
僕はあの国民的に有名なゲームの名前を口にした。プレーヤーが順番にサイコロを振り、指定された目的地に最初にたどり着いた人が勝ちというルールで、その目的地に着く間に金額を増やしたり、物件を購入したり、資産を食い尽くすおぞましい貧乏神が付いてきたり、それを相手に擦り付けたりするあの面白いやつである。
「せっかくの夏休みなんだから外で遊ばなきゃ。月島君の彼女は、ゲームとかしないんでしょう?」
「ええ、まあ」
と言いつつ僕は、あれ? と思った。
本当に伊織はゲームなどしないのだろうか。よくよく考えてみると、僕は伊織の趣味どころか、好きなテレビ番組や、食の好み、好きな色に至るまで、彼女のことについての知識が乏しいことに気付いた。
それに何より、今の彼女の状況だ。彼女はいつか、ある事情でおばあちゃんと二人暮らしをしていると話していたが、実際どういった事情があるのだ。今更ながら、彼女の両親はどこにいる。僕は彼女のことを何も知らないじゃないか。
「月島くん、大丈夫?」
だいぶ思いつめていた顔をしていたのだろう。僕は適当にはぐらかして、残りのアイスを食べ終えた。
片山さんと世間話をしながら、僕はもくもくと今日並べる分の肉を軽量し続けた。片山さんはお酒が好きで、その病的なしゃがれ声はきっと酒によるものだと思った。
片山さんには僕と同じ学校に通う同い年の娘がおり、その子は伊織のクラスに在籍しているらしい。娘も今日デザイン会社にインターンシップに行っているが、ここに来ればいいのにねぇとぼやいていた。
そうですね、と言ってはみたが、僕が当人の立場になったら親の働いている会社で職場体験をするのはやっぱり嫌だと思った。それから直売所への野菜の品出しや、販売業務などに携わっていると、あっという間に昼になった。
所長から昼は出張所の休憩室で食べるということを聞かされていた。休憩室は十帖ほどの和室で、漆色のテーブルとテレビがあるだけの殺風景な部屋だった。部屋にはすでに僕以外の社員がいて各々食事を取っていた。井坂は窓側の端っこの席で、昼のバラエティ番組を見ながらパンの袋を開けていた。
「あっちの仕事はどうだ? 結構ハードだっただろう」
「はい。とても」
弁当を食べながら、今朝からの一連の業務の感想を述べた。所長やその他の社員からもねぎらいの言葉を受けて、その場所での居心地は悪くなかった。
「井坂君はどうだい? 仕事大変だったかい?」
「……いえ、別に」
井坂は片膝を立ててパンをかじりながら、所長と目を合わせずに答えた。その横着な態度に楽しい雰囲気が一変し、それを機に誰もが喋らなくなってしまった。僕は弁当を早々に平らげ、倉庫のダンボールの片づけが途中だと嘘をついてその場を離れた。
午後は店内に陳列されている商品の賞味期限を調べる作業を行った。棚の奥にある賞味期限間近の商品を手前に入れ替えるという作業である。店内はそこまで広くはないが、作業には意外と時間がかかり、終えたころ片山さんに休憩をしようと言われた。
「月島君は彼女いるの?」
片山さんがしゃがれ声で聞いてきた。
「ええ、まあ一応」
僕と伊織は、雇用主と社員との間で交わされる一種の契約のような関係である。だから本当はいないと答えるべきだが、片山さんには伊織と同じクラスに娘がいるので、本当のことを言うわけにはいかない。
しかしそのことで急に火が付いたのか、片山さんが彼女の写真を見せてとせがんできた。僕は仕方なく、携帯電話で一枚だけ撮影した写真を見せた。
「うっわ! めちゃくちゃ美人じゃない!」
片山さんはうわずったしゃがれ声で叫びながら、液晶を食い入るように見ていた。
それは僕と伊織が、楠木の下で顔を近づけている写真だった。彼女の指示で待ち受け画面にしていたが、極力誰にも見せないようにしている。片山さんは何故か残念そうに携帯を僕に返した。
「もしも彼女がいなかったら、うちの娘を紹介したのに。あの子いつもゲームばかりしているから、恋人でもできたら外に連れ出してくれると思っているんだけど。知ってる? プレーヤーが社長になって、日本全国を電車で回るゲーム」
僕はあの国民的に有名なゲームの名前を口にした。プレーヤーが順番にサイコロを振り、指定された目的地に最初にたどり着いた人が勝ちというルールで、その目的地に着く間に金額を増やしたり、物件を購入したり、資産を食い尽くすおぞましい貧乏神が付いてきたり、それを相手に擦り付けたりするあの面白いやつである。
「せっかくの夏休みなんだから外で遊ばなきゃ。月島君の彼女は、ゲームとかしないんでしょう?」
「ええ、まあ」
と言いつつ僕は、あれ? と思った。
本当に伊織はゲームなどしないのだろうか。よくよく考えてみると、僕は伊織の趣味どころか、好きなテレビ番組や、食の好み、好きな色に至るまで、彼女のことについての知識が乏しいことに気付いた。
それに何より、今の彼女の状況だ。彼女はいつか、ある事情でおばあちゃんと二人暮らしをしていると話していたが、実際どういった事情があるのだ。今更ながら、彼女の両親はどこにいる。僕は彼女のことを何も知らないじゃないか。
「月島くん、大丈夫?」
だいぶ思いつめていた顔をしていたのだろう。僕は適当にはぐらかして、残りのアイスを食べ終えた。
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