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「ねえ菜摘さん。菜摘さんは、僕の描いた絵に対して何か思ったことはない?」

「ん?どういうこと?」

「その…この色使いはどうなのか、とか。それを表現したいならもっとここをこうした方がいいんじゃないか、とか…。そういう感想?みたいなもの。」

「うーん。それは無いかなぁ…。そもそも絵が描けない私が隼くんに訂正することなんてできないし。毎回素直に凄いなあって思ってるだけよ。」

「そっか……。」

「何か意見してほしいってずっと思ってたの?」

「うん…そうなるね。」

「そう言われてもなあ…。毎回毎回、素で感服しちゃうんだもの。発想力といい構成力といい、物の見方といい。」

菜摘さんは、しきりにあくまで僕の絵や思想を心から肯定しているのだということを主張している。

それはとても嬉しいことではあるし、それ以上に僕が何かを求めることは虚無であるということも解っている。

だけど……


「…隼くんは頭が良すぎるから、自分の考えてることややってることに真っ向から意見してくれる人がなかなか周りにいないんだろうね。」

「菜摘さんは…普段から僕の誤りを訂正してくれるし、偏った見方をしたときも窘めてくれるから…全くそういう相手がいないっていう訳ではないよ。」

「そう。でも、絵に関しては私はクチを出せないからなぁ…。」

「絵の技術にクチを出すとかじゃなくて…何と言うか、僕の感じ取ったことや表現したことに対して、もっと直球な感想が欲しい。…ごめん、ワガママかもしれないけど。」

「ワガママじゃないわ。……分かった!今後はそうするわ。今までは少し遠慮していたところもあったから…。」

「ありがとう菜摘さん…!」

僕の言葉に頷く菜摘さんは、まるで遊び相手を得た子供を優しく見守るような表情で僕に微笑みかけてくれた。
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