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「私が隼くんの誕生日に告白しました。もともと、その日はプレゼントを渡してお祝いするつもりだったので。……もちろん、はじめから告白しようなんて言うつもりはありませんでした。自分が抱いてしまった感情が世間一般的には許されないことであるというのを自覚していましたし…。誰にも打ち明けずに一生秘めていこうと思っていました。…だけど……」


ここまで言って菜摘さんは言葉を区切った。

僕はあの日、菜摘さんからもらった時計と言葉のプレゼントがあまりにも嬉しくて、思わず号泣してしまった。

あの頃は僕へのいじめも今よりずっと酷くて、毎日思い悩むことも沢山あったから、余計に菜摘さんの暖かさが響いてきたのだった。

「隼くんが、私のサプライズに泣きながら喜んでくれたんです。私はそれが嬉しかったと同時に……隼くんが抱える不安や悩み、苦しみを全て受け止めてあげたいと思いました。隼くんは…とても優秀で落ち着いた子ではありますが、だからこそ悩んでいることも多かったと思います。誰にも打ち明けられない苦しみも沢山背負っていたんだと思います。そんな子が、目の前で自分のした行いに涙を流しながら喜んで感動してくれている……そう思うと、自分を制御できなくなりました。私の感情も溢れ出て来てしまって、ほとんど自分でも無意識のうちに隼くんに想いを告げていました…。」


菜摘さんの言葉に、僕はあの日のことを思い出してまた泣きそうになった。

あの頃の辛さを菜摘さんが分かってくれていたことに……そんな僕を受け止めようとしてくれていたことに、改めて嬉しさが込み上げてきた。

そして何よりも、そのようなことを一切包み隠さずに皆に伝えてくれていることがとても嬉しかった。


「告白して、それで?」

「隼くんは私の告白を受け止めてくれました。それでも私はまだ不安でした。お互いに想い合っていても、私たちの関係は許されるものではない。それに、これから心身ともに成長する大事な時期の隼くんの貴重な時間を私が奪っていい理由もない。ましてや今年受験するのだから、こんなことで問題になったりしたら、私は責任が取れない…。そう思って、何度も交際を取り消そうとしました。隼くんと話し合って、お互いの気持ちの赴くままに交際をすることは私たちには許されていないんだと…だから、せめて隼くんが成人するまでは待とうと、そう思いました。でも……」

「それは僕が待てなかったんだよ。僕は菜摘さんとすぐにでも付き合いたかった。世間がなんと言おうと、僕は菜摘さんの隣にいたかった。菜摘さんは僕のことを考えてくれて、何回も付き合うことを止めようとしてた。だけど僕がワガママを言ったんだ。僕がどうしても、って言って菜摘さんと付き合ったんだよ。」


突然話に割り込んできた僕に、一同が驚いたような顔を向ける。

「僕はそれくらいに菜摘さんが大好きだし、これから先も離れたくない。菜摘さんのお陰で何度も助けられたし、その恩返しもしたい。菜摘さんが僕と一緒にいたいと思ってくれてるなら、それに応えることが一番の恩返しだと思う。確かに心配もかけるかもしれないけど、菜摘さんはいつでも僕のことを考えてくれてるし、僕のことを本当に大切にしてくれてるんだ。だから……僕たちのことを認めて下さい。お願いします…。」


気がついたら、僕は必死になって両親に頭を下げていた。

菜摘さんのことを、両親に認めてもらいたい…ただその一心で、それ以外の感情はほとんど無かった。

例え駄目だと言われても、認めてくれるまで引き下がらない。
だって認めてもらうことが、菜摘さんの不安を消す為の大事な1歩になるのだから…簡単に食い下がるわけにも行かないのだ。




「……分かった………。」


しばしの沈黙の後、静かな父親の声が響いた。
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