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『20XX年 6月1日


今日から6月に入った。

肌にまとわりつくようなベタベタとした湿気が日本中を包み、いっそこそ早く夏になってくれと思わずにはいられない憂鬱な日々が続くようになった。

だけど最近嬉しいことといえば、私と隼くんが、今までのようにコソコソ付き合わなくても良くなったことだ。

隼くんのご両親に挨拶をして認められてからも、特に自分たちから周りの人へ関係を打ち明けることは無かったものの、他人から聞かれたりした場合には隠すことなく話すようになった。

また、隼くんへのいじめについても、あの後すぐに両親が学校と話をしたらしく、ほとんど解決に近づいたということを隼くんから聞いた。

学校の先生方はこれまでの対応の悪さを素直に認め、田中くんたちへの指導もきちんと行うことを約束したという。

田中くんたちの家にも連絡が入り、家庭でも指導してもらうよう話をつけたと言っていた。

先生方や田中くんたちへの処分についても、隼くん本人やその両親の寛大な意思のお陰で、特に大きなことにはならなかった。

隼くんの学校生活がより安全で楽しいものになったことを、私は素直に嬉しく思った。

そして隼くんがのびのび生活していることは、私と会うときの彼の様子ですぐに分かるようになった。

更に面白いことに、最近隼くんの学校の女子たちから、学年を問わず隼くんに関しての質問を受けることが多くなったのだ。

彼女たちはきっと、私と隼くんが付き合っていることを知っているのだろう。そして、隼くんに対して好意を抱いているのだろう。

まだ小学生だから、そんな自分の気持ちを上手に隠すことも出来ずにいて、みんなが知らない隼くんの情報を私から入手しようとしてくる。

そんなことが起こるたびに、私は2つの感情に囚われる。

一つ目は優越感。

小学生相手に大人気ないとは思いつつ、こんなに人気が爆発しつつある隼くんを、早い段階で私のものにできて良かったと思ってしまう。

そして二つ目はやっぱり不安。

今からこんな状況で、これから増々大人になっていく隼くんは、一体どれだけ人気者になるのだろう…。

関係が公のものになって周囲を牽制する雰囲気ができて来て、隼くん自身も前以上に私を不安にさせないように頑張ってくれているのだが、それでもやっぱり今の状況に胡座をかいてはいられない。

隼くんのいじめが解決して、私との関係がみんなに認められて、いくら人気になっても私にだけ気持ちを向けてくれている優しい隼くんが隣にいる……

こんな最高な状況になった今でも、時々不安が脳を掠めてしまう私は…贅沢なのだろうか。我儘なのだろうか。

だけどそんな我儘で贅沢な私を、隼くんは今日も全力で愛してくれている……。

それはきちんと、彼の言動一つ一つから伝わってきていたのだった。
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