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1、始まりの逃避とウサギの国での活劇
カメ、対策なんてない
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そして、この事件の当事者であるサザエガルドは完全に蚊帳の外へと追いやられていた。どうにかして挽回したいのだが、儀式が失敗に終わった今叶わぬ夢となりつつある。そんな時だった。彼が神の声を聞いたのは、
『悪いな、サザエガルド。帰ることは帰るが、今はこいつと勝負がつくまで帰る気はない。そんなに心配なら俺の力貸してやるから自分で何とかしろ』
「王、ありがたき幸せ。心より感謝いたします。このサザエガルド必ずやり遂げて見せます」
「なんか、あっちも意思疎通ができてない感じね」
「そぅなんどすか?」
「う~ん、発信者が必死で伝えようとすればするほど受信者が鈍いっていう世界法則があるんじゃないかなって思えてきた」
たしか、神話に出てきた神様も恋愛に関しては大いに苦労していたようだったからそれ相応の苦労をしなければ実らないものなのだろう。
友情だってそうだ。だが、部下の心内を察せない領主に仕えていて本当に彼は幸せなのだろうか、とイスカは1人でブツブツ言いつつ誰もないところで何かを受け取っている様子のサザエガルドを見ていた。
その様子をそうか、イスカはんには霊体の彼が見えないんどすなぁとぼんやり考えているレイカがいる。場の異変に最初に気がついたのは言い合っていたロイズとロンだった。気が一気に膨れ上がる。
「「あぶない!」」
それぞれ1人ずつ抱え込むと祭壇の陰へ飛び込んだ。いつもなら体格のため、レイカをロンが、イスカをロイズが引っ張るのだが、体格が逆転している今は逆を担当する。4人の体が祭壇の陰に隠れた途端、サザエガルドの体から莫大なエネルギーが放出した。
「フハハハアハハハハハッハアァァッァッァッァァッァァー―――――――!溢れてくる。我が王の灼熱たる魔力が!!」
赤い魔力を浴びた体に蛇のような生々しい模様が浮かび上がり、そこから体全身が深い闇へ呑まれるかのようにどす黒く変色していく。
「何あれ、ドラッカーみたくなってるし」
「無闇にテンション高いなぁ」
「まぁ、似たようなものだろ。不味いな。あいつプッツンしちまってる」
『変だな。負担になるほどやった覚えはないんだが、どうなってんだ?』
「・・・大量に注入された異物によって体内の魔力バランスが狂って制御できなくなり暴走しているだけ」
動揺することなく魔族の身体に起こる変化を見守っていたロンが口を開く。
「だが、このままでは」
『どうなるんだ?』
「・・・まず、彼の精神が高熱の魔力に負け、崩壊する。次に、肉体が変容し、周囲の物質を吸収しながら姿形が大きく変わる。そして、ある程度成長すると、」
「「「『すると?』」」」
固唾を呑んでロンの言葉を待つ。
「・・・火の魔力の本質に従い、破壊衝動に支配され、辺りを壊し始める」
「それ、マジ?」
「・・・魔晶石に魔力を入れすぎると耐え切れずに爆発を起こすのと原理は同じ。破壊はその予兆なだけ。最後は全ての力を放出して果てる」
「被害規模を予測できるか」
「・・・・・・この国が平地になるくらいと出た」
それって重大なことではないだろうか。この国は世界最大のカルデラの中にある。当然山の上なのだ。
その惨事を誰もがわかって誰もが言葉にできなかった。
「まいったな。亜空間形成装置で作り出した空間はこの国の人が居るから使えねーし」
国民は全員助かるが、土地が荒廃してしまう。ウサギ族は火山がないと生きていけない。この世界で地表にマグマが安定して湧き出す活火山はここ以外にないのだ。ここを失うことは1つの種族が消滅することを意味する。
「この神殿だけで済めばええんやけど、そうもいかへんのやろな」
『そうなったら、俺様の決闘場がなくなっちまうじゃねーか』
「あんさんの責任でもあらはります。そのくらい覚悟しい!」
レイカの怒りに一同は唖然とし、王と呼ばれた精神体はさらに小さくなる。
「だいたい、何でこんなことになったのよ」
「彼の領主が帰還しない代わりに自分の所有する魔力の1部を分け与えたのが原因だと思われる」
受け取れたが、サザエガルドのキャパシティーでは収集しきれる量を超えていたので暴走を起こした。魔法使いの玄人でも簡単に自分の魔力を他人にあげたりはしないらしい。血液や骨髄移植と同じで適合したものを使わないと拒絶反応が出る可能性が高いため、逆に相手を狂わせ、死に追いやる危険がある。
「そういや他人の身体能力などを強化する魔法をかけ損じた時にも似たようなバンサーカー状態になるな。心による力の制御ができなくなってるって訳か。麻酔、鎮静剤の類で何とかなるかもしれんな」
祭壇の陰からこっそりと様子を窺う。赤い気がサザエガルドの体のいたるところから肌を割って噴出し、周りの物質を吸収して別の傷を作って体内へ帰っていく。
「レイカも失敗した時あんな風になるんじゃないの?そのときどうしてる?」
成程、イスカの考えも尤もだ。
レイカの術はあれを自分で制御しているのだから、失敗した時の対応策くらいは持っているはずであると考えたのだろう。
「えっと、その、うちの術は先天的なものやから、ああゆうふうになったことあらへんの」
術が失敗したことないから、対応策は考えられていない。特殊な術なので周りもたてにくかったのだろう。
続く
『悪いな、サザエガルド。帰ることは帰るが、今はこいつと勝負がつくまで帰る気はない。そんなに心配なら俺の力貸してやるから自分で何とかしろ』
「王、ありがたき幸せ。心より感謝いたします。このサザエガルド必ずやり遂げて見せます」
「なんか、あっちも意思疎通ができてない感じね」
「そぅなんどすか?」
「う~ん、発信者が必死で伝えようとすればするほど受信者が鈍いっていう世界法則があるんじゃないかなって思えてきた」
たしか、神話に出てきた神様も恋愛に関しては大いに苦労していたようだったからそれ相応の苦労をしなければ実らないものなのだろう。
友情だってそうだ。だが、部下の心内を察せない領主に仕えていて本当に彼は幸せなのだろうか、とイスカは1人でブツブツ言いつつ誰もないところで何かを受け取っている様子のサザエガルドを見ていた。
その様子をそうか、イスカはんには霊体の彼が見えないんどすなぁとぼんやり考えているレイカがいる。場の異変に最初に気がついたのは言い合っていたロイズとロンだった。気が一気に膨れ上がる。
「「あぶない!」」
それぞれ1人ずつ抱え込むと祭壇の陰へ飛び込んだ。いつもなら体格のため、レイカをロンが、イスカをロイズが引っ張るのだが、体格が逆転している今は逆を担当する。4人の体が祭壇の陰に隠れた途端、サザエガルドの体から莫大なエネルギーが放出した。
「フハハハアハハハハハッハアァァッァッァッァァッァァー―――――――!溢れてくる。我が王の灼熱たる魔力が!!」
赤い魔力を浴びた体に蛇のような生々しい模様が浮かび上がり、そこから体全身が深い闇へ呑まれるかのようにどす黒く変色していく。
「何あれ、ドラッカーみたくなってるし」
「無闇にテンション高いなぁ」
「まぁ、似たようなものだろ。不味いな。あいつプッツンしちまってる」
『変だな。負担になるほどやった覚えはないんだが、どうなってんだ?』
「・・・大量に注入された異物によって体内の魔力バランスが狂って制御できなくなり暴走しているだけ」
動揺することなく魔族の身体に起こる変化を見守っていたロンが口を開く。
「だが、このままでは」
『どうなるんだ?』
「・・・まず、彼の精神が高熱の魔力に負け、崩壊する。次に、肉体が変容し、周囲の物質を吸収しながら姿形が大きく変わる。そして、ある程度成長すると、」
「「「『すると?』」」」
固唾を呑んでロンの言葉を待つ。
「・・・火の魔力の本質に従い、破壊衝動に支配され、辺りを壊し始める」
「それ、マジ?」
「・・・魔晶石に魔力を入れすぎると耐え切れずに爆発を起こすのと原理は同じ。破壊はその予兆なだけ。最後は全ての力を放出して果てる」
「被害規模を予測できるか」
「・・・・・・この国が平地になるくらいと出た」
それって重大なことではないだろうか。この国は世界最大のカルデラの中にある。当然山の上なのだ。
その惨事を誰もがわかって誰もが言葉にできなかった。
「まいったな。亜空間形成装置で作り出した空間はこの国の人が居るから使えねーし」
国民は全員助かるが、土地が荒廃してしまう。ウサギ族は火山がないと生きていけない。この世界で地表にマグマが安定して湧き出す活火山はここ以外にないのだ。ここを失うことは1つの種族が消滅することを意味する。
「この神殿だけで済めばええんやけど、そうもいかへんのやろな」
『そうなったら、俺様の決闘場がなくなっちまうじゃねーか』
「あんさんの責任でもあらはります。そのくらい覚悟しい!」
レイカの怒りに一同は唖然とし、王と呼ばれた精神体はさらに小さくなる。
「だいたい、何でこんなことになったのよ」
「彼の領主が帰還しない代わりに自分の所有する魔力の1部を分け与えたのが原因だと思われる」
受け取れたが、サザエガルドのキャパシティーでは収集しきれる量を超えていたので暴走を起こした。魔法使いの玄人でも簡単に自分の魔力を他人にあげたりはしないらしい。血液や骨髄移植と同じで適合したものを使わないと拒絶反応が出る可能性が高いため、逆に相手を狂わせ、死に追いやる危険がある。
「そういや他人の身体能力などを強化する魔法をかけ損じた時にも似たようなバンサーカー状態になるな。心による力の制御ができなくなってるって訳か。麻酔、鎮静剤の類で何とかなるかもしれんな」
祭壇の陰からこっそりと様子を窺う。赤い気がサザエガルドの体のいたるところから肌を割って噴出し、周りの物質を吸収して別の傷を作って体内へ帰っていく。
「レイカも失敗した時あんな風になるんじゃないの?そのときどうしてる?」
成程、イスカの考えも尤もだ。
レイカの術はあれを自分で制御しているのだから、失敗した時の対応策くらいは持っているはずであると考えたのだろう。
「えっと、その、うちの術は先天的なものやから、ああゆうふうになったことあらへんの」
術が失敗したことないから、対応策は考えられていない。特殊な術なので周りもたてにくかったのだろう。
続く
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