異世界の学園にて学園生活を謳歌するはずだった

２、魔獣飼育と新しい命

カラス、姿を消す

「さんきゅー、ろん。体調ハドウダ？」
四散したビーカーやフラスコの破片を片付けながらロイズが尋ねる。
「・・・もう平気。迷惑をかけた」
「ちょっちょっと聞くけど、体調ちゃんと回復してる？」
「・・・？」
「だって、あんたあの有毒煙の中にいたのよ。誰が見ても悪化してそうじゃない」
「・・・特に異常はない」
「・・・ソウイエバソウダッタナ」
「・・・風変わりな煙だった。ロイズは何を調合したのか？」
「トアル変態カラ頼マレタ惚レ薬ダッタリスル」
「・・・・・・」
「冗談ダ。オモイックソ冗談ダカラ、感情ヲぜろニシテマデ拒絶スルナ！」
完成した薬の試飲を既にロンに頼んだ後だったらしい。
それでも、あの一件以来ロイズはロンに飲むように言ってから堂々と渡すようになった。前までは陰で行なっていた薬の受け渡しをイスカは最近何度か目にしている。
それら以外でも相変わらず内緒で彼の食事に仕込んでいるらしい。
ロンも知っているのだろうか？１０回に７回くらいは気付いているかもしれない。さっきのあの顔は明らかに知らなかった情報に怒り呆れている表情だった。
すぐに元の無表情に戻ったけれど。
「誰か腰を痛めているのか？」
「ヤッパ、ばれタカ。コレハ腰痛用ノ鎮痛薬ダ。依頼人ハ共通語担当ノれおん先生」
「ああ、あのおじいちゃん先生ね」
姿だけで見れば少なくなった白髪とシワが刻まれた肌と折れた腰と白い髭など老体であるレオン先生は校長の次に年を取っているように見える。身体年齢は自然死に最も近づいているといえよう。
だが、ここは多種多様な種族のいるエターナニルである。種族によって平均年齢にかなりの差がある。なんせ、不老不死の種族もいるのだ。しかし、いくら寿命が１０００単位であろうとも寿命が尽きる時に近づくにつれて老いていく事には変わりない。
「ろん、ドコニ行ク気ダ」
「・・・体調は戻った。休息もとった」
「オマエ、答エニナッテネーッ・・・・・・行ッチマイヤガッタ」
　窓から外に出たロンはロイズの放った捕獲用電磁網をちょっと身体を捻って避けると森の中へその姿を消した。
「なんか、変どすなぁ」
ロイズとイスカの視線が発言者に集まる。３つとはいえ目が一斉に自分に集中したことにレイカは戸惑いつつも続きを口にする。
「だって、今までのロンはんって来はる者を答えを求める者を拒みはせぇへんかったとちゃいます？」
「ソレハ違ウナ。アイツハ嘘ハ下手ダガ、ハグラカスノハ上手イ。元々無口ダシナ」
「さすが、よく見ていること」
レイカの背中を押して保健室から出て行く。
「片付けは独りでやってよね。その代わり、こっそり探ってあげるから」
排気管から少し緑の混じった空気を吐き出した。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く