異世界の学園にて学園生活を謳歌するはずだった

シロ

文字の大きさ
43 / 118
1、始まりの逃避とウサギの国での活劇

ウサギ、熊と化す

しおりを挟む
 その頃、イライラが募っていくイスカは机の周りを行ったり来たりしていた。その姿は差し詰めオリの中で常動行動を行なうことでストレスを緩和する熊だ。
「あー、もうジッとしていられない。探しにいくわ」
「どこにだ」
「それを探しに行くって言ってんのよ」
「入れ違いになるだろ・・・これ言うのもう7回目だぞ。いい加減落ち着け」
調べ疲れもあり呆れながらロイズが言うと赤い瞳を怒りに燃やしたイスカに睨まれた。
「落ち着いてなんかいられないわよ。あんたは攫われたレイカや行方不明のロンが心配じゃないの」
「ロンは心配だが、レイカは大丈夫だろう。お前らの態度を見ると人質としての価値が十分ありそうだしな。そもそも面倒な誘拐という方法をとってんだ。死に至る怪我を受けることはまずないと思うぞ。危惧すべき事態が起こらなければ、ロンも心配ないのだが」
  ピロリロリ~、ピロリロリ~
突然、無機な電子音が部屋に響く。何の音かとイスカが疑問に思っているとロイズはポケットから小さな装置を取り出した。携帯電話である。画面には封筒のマークが付いている。メールと開くとロイズの口端が上がった。
「それが2人だけの秘密情報交換の正体な訳ね?どういう仕組みか知らないけど、その道具を使って遠距離でのタイムリーな会話や手紙のやり取りができるでしょう。レイカに見せてもらった携帯電話に似てるわ。使えるって事はおそらく別種ね。何かわかったの?」
「ああ、ロンからだ。レイカの脱獄に成功し、こっちに向かっているんだと」
「これだけの文面でよくわかるわね」
画面には件名に“無事”、本文に“戻る”とだけ書かれた簡素な文であった。
いや、どちらとも文といえない。単語だ。
「培ってきた推理力とあいつとの付き合いに基づく経験、そして友情だな」
「あれ、てっきり愛って言うかと思ったのに。意外と奥ゆかしいのね」
「あいつは出身すらよくわからねーんだよ。こっちの常識が通じてないからエターナニルではない、って程度の認識だ。カーレントに詳しいからここに来るまではそっちで暮らしてたんじゃないのか。それに色々深い悩みもあるようだしな。まぁ、言葉が通じないわけじゃないんだ。今まで通りライバルを牽制しつつ気楽にやってくさ」
席を立ったロイズは外を眺めながら大きな欠伸を1つ吐きながら横目でイスカを見た。
ロイズの方から見たらイスカは人のことより自分の心配をすべきではないだろうか。見たところ、対価として支払った分に見合うだけの成果を得ているとはいくら負い目に計算してもとても言い難い。
「しかし、よくそんな決断できたよな」
「あら、あなただって無機物になれるんだから似たようなものじゃない」
使用用途が違うとは意外か見た目通りかプライドの高いロイズが言う筈が無かった。ロボットの体は研究生であるにも関わらず初級学年の授業を受けなければならなくなった時に急拵えした仮の器である。嫌いな論理系の科目をサボりまくったしわ寄せが来たのだ。
他の人がこの事実を知ったら、非常にくだらない理由でカーレントの科学技術とエターナニルの魔法技術をミックスした高度な憑依用自動人型魔導具を作り出したのかと驚愕しつつも呆れるだろう。何故彼が学園に入るより難関で有名な学園内研究室提供争いに勝利したかがよくわかる。
「そもそも、獣人族って今の人の姿とは別にそれぞれ固有の獣の姿になれるんだから、今更もう1つ増えたところでどうって事ないし。この姿だからこその生活だもの。今を失うくらいなら今までの過去、全てを捨ててやるわ」
「そのことなら大いに同意できる」
「さて、ロンの行動を詳しく研究したロイズ博士なら彼がとりそうな逃走ルートもわかってるんでしょ。我らが姫君を迎えに参ろうじゃない」
やはりそうきたかと思いつつもロイズはこの付近の略地図を机の上に広げた。
「こっちに心配をかけているのは重々承知だろう。自分が危険には無頓着でも他人第一で行動するあいつのことだ。レイカの体への負担を念頭に置かずに行動しているはずがない。空気洗浄はあいつの十八番。火山ガスも問題ない状況で隠れながら移動するなら、このルートだな。今から行くとしたら合流地点は、ここだ」
灰色の指が示した場所は、同じ巨大なクレーター内にある国外れの中岳火口の印が記されていた。


                             続く

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
 現実に疲れ果てた俺がたどり着いたのは、圧倒的な自由度を誇るVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。  選んだ職業は、幼い頃から密かに憧れていた“料理人”。しかし戦闘とは無縁のその職業は、目立つこともなく、ゲーム内でも完全に負け組。素材を集めては料理を作るだけの、地味で退屈な日々が続いていた。  だが、ある日突然――運命は動き出す。  フレンドに誘われて参加したレベル上げの最中、突如として現れたネームドモンスター「猛き猪」。本来なら三パーティ十八人で挑むべき強敵に対し、俺たちはたった六人。しかも、頼みの綱であるアタッカーたちはログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク・クマサン、ヒーラーのミコトさん、そして非戦闘職の俺だけ。  「逃げろ」と言われても、仲間を見捨てるわけにはいかない。  死を覚悟し、包丁を構えたその瞬間――料理スキルがまさかの効果を発揮し、常識外のダメージがモンスターに突き刺さる。  この予想外の一撃が、俺の運命を一変させた。  孤独だった俺がギルドを立ち上げ、仲間と出会い、ひょんなことからクマサンの意外すぎる正体を知り、ついにはVチューバーとしての活動まで始めることに。  リアルでは無職、ゲームでは負け組職業。  そんな俺が、仲間と共にゲームと現実の垣根を越えて奇跡を起こしていく物語が、いま始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

処理中です...