異世界の学園にて学園生活を謳歌するはずだった

シロ

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1、始まりの逃避とウサギの国での活劇

カラス、宝を砕く

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 ロンの経歴から戦いを除いたら残るところなどない。所属機関も説得を第1としてはいるが相手によっては殺さなければならない。それにロン自身が自分の職業は忍びだと認識していて辞める気配はない。
それはそうだろう。彼にとって忍びの消失は全てを失うことを意味する。そう考えるとこの数日間の学園生活が戦闘命令からも離れた初めての生活かもしれない。空白の自分・・・・それを受け入れてくれた人々。
「・・・絶対に・・・・・・」
守りたい。心が発する熱に動揺しながらもロンは拳の構えをとる。その様子に残虐な笑みを浮かべるとザリアは抜いた大剣を構えた。
武器なしの殴り合いはロンにとって攻撃面も防御面も体力面も圧倒的に不利なのだが、気が乱された今の頭では他に方法が思い浮かばない。相手にそれがわかるはずがない故の手段。ようはハッタリである。
正面から立ち向かおうとしていたロンだったが、1歩踏み出した瞬間、背中から微かな気の揺らぎを感じた。
背後から飛んでくる黒い塊を振り返りもせず全て避けきると髪を纏めていた紐を解いてそのままザリアの剣をいなす。復活していた魔族にレイカが炎の矢を放つが、目に見えない障壁で悉く弾かれ攻撃が本体まで当たらない。精霊による同調術なら魔力を心配することなくその属性最大の術を多用できるのだが、他人の放った魔法を吸収した吸方術では魔力制限がつくため、強力な術はどうしても1回のみとなってしまう。
でも、レイカを助けるために重傷を負ったロンがいるのだ。
しかし、まだ魔導歌を説いていない。完全に理解していない術が危険なことをレイカは身をもって知っている。
だが、これは攻撃魔法。体を明け渡してしまう危険を伴う同調術ではない。それに躊躇している暇はなかった。
「2つの灼熱、息吹は山を溶かし、世を終焉なる炎獄へと導く」
印を組む指が火に焙られているかのようにチリチリ痛む。
「聞いたことのない呪文だな」
そうだろう。正式な魔導歌ではない。伝承や他の術を参考にしてレイカがこの場で作り上げた即席の歌なのだ。全ての魔力を練りこんだ魔法。障壁を破壊する以上の威力は十分あるはず。魔族が放つ黒い塊も唱の護りによりレイカに届くことはない。
「だが、隙だらけだ」
レイカに向かってザリアが投げた短剣は咄嗟に伸ばされたロンの右手を傷つけて止まった。それがシールド貫通能力を持った魔法剣だと瞬時に判断し、すぐさまザリアに向かって投げ返す。
飛んできた短剣が大剣に触れた瞬間、一気に距離を縮めたロンがその上から蹴りでさらに衝撃を加える。ヒビを確認する間もなくもう一撃。
それが決定打となり、短剣と共に、大剣が鉄の欠片に姿を変えた。傷を負った足を破片がさらに傷付ける。その痛みを感じた僅かな隙を突いた鳩尾に拳の1撃を受けてロンの体は岩にめり込んだ。
「きさま、これがどんな宝かわかっているか!」
ザリアの叫びが大地を震わす。はっきり言って五月蠅い。知っているから壊したのだと言いたいのをロンは堪えた。
彼は知っていた。その大剣が昔盗まれたウサギ族の神具の1つであることを。本当はイスカに返還したかったのだが、今の状況では無理と判断しての行動だった。後で怒られるのを覚悟して謝らなければならない。
ともかく、これで残りの目的を達成。
ロンは詰めていた息を吐いた。口の中に鉄の味が広がる。唇の端から血が顎をつたっていく。途端に痛む足。見ると右足からも血が出ている。破片が二の足を斬ったのだろう。右足ほどひどい傷でないのが救いだった。
残り少ない気で紐を固めると無茶苦茶に衝撃波を放つザリアの影を地に縫い付け、大きく飛んで距離をとった。
「爆たる力を司る者の名の元に!焼き尽くせ、ダブルゥーロー!!」
螺旋を描いて2筋の光の先端がザリアの足元の地面に着す。瞬間莫大なエネルギーが弾けた。まるで太陽が着光点に誕生したかのような熱量。吹き荒れる爆風。本来なら目も開けられないような砂風だが、手首につけた護りのおかげで軽いレイカでも立っていられる。大きな魔法を成功してちょっと安心していたら、誰かから抱き上げられた。続いて、軽い浮遊感が全身を包み込む。
巻き上げられた砂の幕が失われるとザリアがいた場所には巨大なクレーターが形成されていた。術が火口の淵を削っているのを発見したレイカの額に冷や汗が流れる。予想以上の威力だった。


                          続く
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